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弱虫の剣  作者: 望月 まーゆ
第3章: カンバーランドの亡霊
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平和の代償

双子姉妹は、クレア、ミレアと名付けられた。


フィルは、あまり顔には出さなかったが、双子姉妹を溺愛した。


「ただいま……」


渇いた木製の音が家の中に響いた。


「「パパ!」」


双子姉妹はその音と同時に、父親によちよち歩きで近寄る。


「おう! 良い子にしてたか?」


「うん!」「いいこ、してた」


「そうか、そうか!」


クレアは頭をわしゃわしゃと撫でられた。

顔をくしゃくしゃにして笑顔を浮かべる。


「あなた、お帰りなさい」


エプロン姿の女性が、微笑みながら男性を出迎えた。


「ただいま……ごめん、余り稼げなかった……魔王討伐以降、魔物が極端に少なくなって、思うように稼げないんだ……」


魔王討伐以降のフィルの稼ぎは、日に日に下降線を辿っていた。


「……仕方ないわよ、それが平和ってことでしょ?」


「……平和か……本当にこれが俺たちが望んだ平和なのかな?」


フィルは、双子姉妹を見つめた。

無垢な笑顔を浮かべる、二人の天使の未来を思うと、心が痛む。


「魔物がいたら怖いじゃない、いつ襲われるかも分からないじゃない?」


「……確かにね。……だけど、平和になったおかげで俺もそうだけど、生活が困難になったり、廃業に追い込まれたりしている人もいるんだ」


「なぜ……平和になったのに?」


「一番は冒険者ギルド。魔物が極端に少なくなったので魔物を狩って、魔結晶を売って生計を立てることが、困難になった。そうなると、冒険者が居なくなるので、武器・防具が売れなくなる。宿屋に客が居なくなる。冒険者相手にしていた商売は、廃業状態に陥ってしまったんだよ」


「……平和になった代償がまさかの失業者の続出なんて……」


「……人間なんて皮肉なもんさ。この世界的な貧困を事もあろうに、帝国に責任を取れと言ってきたのだ。六つの連合国対帝国の人間同士の争いが今まさに始まっているんだよ」


「そうなの……」


「帝国の騎士にならないか?と誘いがきた……今よりは、安定した稼ぎが得られる……」


妻は首を横に振りながら、夫を気遣う。


「ーーなるつもりはないんでしょ? そういうの嫌いだって言ってたじゃない」


「……カタリナ……ごめんな……」


フィルは、唇を噛んだ。


「良いのよ。あなたの好きなように、したらいいわ」


「……ありがとう……」


素直に出来た感謝の言葉だった。


フィルは家族の暖かさを感じていた。

それは貴族として、過ごしてきた時には決して得る事の出来なかった心の温もりだった。



☆★☆★☆★☆



三度目の魔王討伐により、世界中の冒険者は、職を失った。


魔物が居なければ、戦う理由も無い。

資金が無ければ、未開の地へ冒険者する事も出来ない。

冒険者ギルドは、各国の資金提供で運営しているが、世界が平和になった事で資金提供が無くなってしまった。それにより、クエストやミッションの提供が出来なくなり、事実上の倒産となった。


世界中で数十万人の失業者が出る事態になったのだったーー。



魔王を倒して、歓喜に沸いていたあの瞬間が嘘のような暗黒の時代が到来したのだった。





フィルは、この先娘の為に自分は何をしてあげられるのだろうか?と、悩んでいた。


いっその事、カンバーランドに家族揃って帰る手もある。


そうさ、何も恥じることは無いんだ。

約束通り〈英雄碑〉に名を刻んだんだ。

初代勇者以来のカンバーランドから出た英雄の一人なんだ……。


英雄……?


この世の中を作った人間が?


胸を張って、カンバーランドに帰れるのか?


自問自答を繰り返す毎日をおくるフィルだったーー。




* * * * * * * * * * * * *



ーー とある実験室 ーー


地下へ続く階段を降り現れた広い空間。

扉の前に黒ローブを身に付けた人物が待ち構えていた。



「ーー連れて来たか?」


「はい! ノイシュバンシュタインの王妃で間違いないです」


「あ、あなたは……確か……」


「これは、これは王妃お久しぶりですね」


丁寧に頭を下げる黒ローブに身を包む紫の長髪の男。


「な、なぜあなたが、敵国のこの地にいるの?まさか……」


王妃のその言葉にニヤリと怪しげな笑みを浮かべる黒ローブの男。


「ーー連れてこい!」


黒ローブの男の声で、奥の部屋へと連れて行かれる王妃。



ランプの橙色の光だけが頼りの薄暗い地下の岩壁の部屋。冷んやりとした空気が漂う。


何かの研究室なのか、所狭しと本棚には魔道書や見たこと無い文字の本が乱雑に並んでいる。


目の前には、〈人間のような人形のような女性〉が四体、石で出来た複雑な紋様が刻まれたベットに寝かされている。


「ペルセフォネ王妃、さあ〈命を吹き込め〉!」


顔を近づけ、睨み付ける黒ローブの男。


「だ、誰があんたのいう事なんて聞くーー」


片手で首を締め上げる黒ローブの男。


「お前に拒否権はない! 仮に拒否したとしたら、お前の娘を連れて来るだけだ!」


「ーーーーーーーーーーーーーーっっ‼︎」


「分かったら従え!」


手を首から離すと、腹部蹴りを一発入れる黒ローブの男。


「ーーゴホ、ゴホ、うううううう……」


腹部を抑えうずくまるペルセフォネ。


「ノイシュバンシュタイン家の女性は、代々〈命を与える〉能力があると調べはついているんだ。お前だろ? 世界大戦で、〈魔剣〉をいくつも造って、ノイシュバンシュタイン国を帝国と呼ばせるまで導いたのは⁉︎」


「ーーくっ」


腹部を押さえながら、黒ローブの男を睨み付けるペルセフォネ。


「その顔は図星か? 最近は、その能力がバレるのが怖くて隠してたみたいだけど、残念だな。あの人が成し遂げられなかった、〈秘術〉を私が代わりに成し遂げてやるよ!」


「彼は、この先の未来を案じてこの〈秘術〉を封印したのよ!これがどれだけ危険な事か、あなたにだって分かるでしょ?」


「ふははははははは、何が分かるだ? 私に最強のしもべと兵隊が手に入るのだ! そして、世界を我が手に治めるのだ。世界の王、いやそうだな……〈魔王〉と名乗ってやる」


「……ま、魔王……」


「そうさ、また倒されちまったんだろ? なら新しい〈魔王〉は私だ! この世界を震え上がらせてやる!」


「……こうやって、歴史は繰り返すのね……」


「早くやれよ! 命を吹き込むんだ! 娘がどうなっても良いのか⁉︎」


「サンクトビーターリデート」


石のベットで横たわる、人形のような女性が青白く光輝く。


岩の天井から、人形のような女性に向かって一筋の光が差し込む。その光の中を〈大天使マリア〉の姿が浮かび上がる。


固唾を飲んで見守る、黒ローブの男とその手下達。


〈大天使マリア〉はそっと、岩のベットに横たわる人形のような女性と口付けを交わす。

その瞬間、辺り一面に眩しいほどの光に包まれる。







光が収まった。

人形のような女性は立ち上がっていた。


それが、初めて人形(パペット)に命が吹き込まれた瞬間だったーー。

いつもご愛読ありがとうございます。

記念すべき50話達成することが出来ました!

これも全て、読者さまの日頃応援してくださる読者さまのお陰です。

これからも応援宜しくお願い致します。


ブクマ・感想等頂けたら嬉しいです。

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