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弱虫の剣  作者: 望月 まーゆ
第2章: 黒い森の蟲王
43/113

千足

総合評価が500ptを達成しました!

応援ありがとうございます。

頭にある耳がピクン、ピクンと動く。

太く長い尻尾が揺れる。

金色の髪と、それと同じ毛色。ルビー色の瞳。ーー巫女のような格好をした狐の亜人が通信用水晶で、ギルド本部と連絡をしていた。


「ーーはい、その初心者パーティーを救出すれば良いんですね。了解です!」


通信用の水晶の交信が途絶えた。


「仕事の依頼?」


通信を終えたルビー色の瞳と目が合うサファイアの瞳の狐。


「ええ、例の高額報酬のレイドよ!」


「おお! それはやるしかないっスね」


それを盗み聞きしていたエメラルドの瞳の狐。


「ーーそれで、ハルはどこにいるの?」


畳の敷かれた和風の四畳半の部屋。木製の丸型テーブルと座椅子が六つ置いてある。テーブルの上には、飲みかけのお茶と食べかけのせんべいが置いてある。つい先程まで、誰が飲み食いしていた形跡がある。

ルビー色の瞳の少女はキョロキョロと辺りを見回すが、お目当の人物が見当たらないらしい。


「おかしいっスね? さっきまでいつもの座椅子で寝てたっスよ」


顎に手を当てて、首を傾げるのエメラルドの瞳の少女。


「普段ならテコでも動かないのに……」


サファイアの瞳の少女が耳を垂れ下げながら、座椅子を見つめている。


ルビー色の瞳の少女が部屋の隅で、飴を舐めながら立っている、小柄な少女に目が止まった。


少女はルビー色の瞳の少女と目が合うと、徐に視線を避けた。


「何か知っている」と勘付いたルビー色の瞳の少女は、小柄な少女に近付いた。


「気弧ちゃーん、ハルくんはどこかな?」


「……知らないの」


気弧と呼ばれたアメジスト色の瞳の少女は、飴をペロッと舐めながらプイッと、首を振った。


「絶対知ってる!」と確信したルビー色の瞳の少女は気弧の耳元で囁く。


「あまーい、あまーいケーキ食べたくない?」


「た、た、食べたいの!」


思わず口からヨダレが溢れる気弧。


「ハルくんはどこかな?」


「お、教えられないの…」


歯を食いしばりながら、必死で我慢する気弧。


「ケーキ、二つ!」


ルビー色の瞳の少女は、指を二本立てた。

それを見た気弧は目を輝かせ即座に、


「ここなの!」


気弧は押し入れを指差した。


ルビー色の瞳の少女は押し入れをガッと思いっきり開けた。


「ひ、ひ、ひ、酷いよお気弧おおおお!」


涙になりながら怯える茶髪の少年。


「……飴はケーキには勝てないの」


ペロッと飴を舐めながら去っていく。


「ハルくん、お仕事よ!」


ルビー色の瞳の少女は顔を近づけて、ニヤっと悪戯に笑う。


「な、何度も言うが、僕は働きたくないんだよ。スローライフを満喫したいんだ」


両手を前に突き出し、必死で抵抗する少年。


「スローライフねえ…お金も無いのにどうやってスローライフをおくるのよ?」


「へ?…だって、この前のクエストの報酬は? 数十万ルピー稼いだじゃないか⁉︎」


身振り手振りで訴える少年。

そんな少年を見ながら、鼻で笑うルビー色の瞳の少女。


「もうそんなお金…無いわよ。みんなで分けて使っちゃったわよ」


その言葉に唖然し、固まる少年。


「スローライフで過ごしたいんでしょ?

なら稼がないとねえ。ハ・ル・く・ん!」



嫌だあああああああああああああああッッ!





* * * * * * * * * * * * *


〈百足〉と書いて『ムカデ』と読む。

しかし、今戦っている〈蟲〉の足は千本ほどあるのではないかと、思う程だ。


巨大ムカデ〈サウザントワーム〉最深部の『森の守護者』と呼ばれ、【蟲王の祭壇】を守っている。


背中の甲殻は堅く、通常の刃物は通らない。魔法は多少ダメージを与えられるがーー。


「不死鳥よ 我が声に耳を傾けたまえ 爆炎豪火球(フレイムフュージョン)


爆炎。


火柱が上がり、黒光りする巨体を炎が包み込む。巨大ムカデの身体からは煙が上がる。

動きが止まる巨大ムカデ。

しかし、青白い光が巨大を包み込むと再び活発に動き始める。


「じ、〈自己再生〉……」


ミレアから思わず声が漏れる。


「半端な魔法ではダメージすら与えられないにゃ。オマケにあの数の足にゃ、まともに近づく事も出来にゃいから魔物の弱点である〈核〉を攻撃できにゃいのにゃん」


シャルルは耳を垂れ下ながら、戦況を見つめていた。



「たああああああ!〈トリプルバッシュ〉」


巨大ムカデの足の攻撃を避けながらの、クレアの高速三連突き。

魔物の足を三本削ぎ落とす。


しかし、直ぐにまた〈自己再生〉し、生えてくる。


「ああああああああああああ!」


エルの八連撃のラッシュ攻撃で、十本程の足を削ぎ落としてもまた、その直後に新しい足が生えてくる。


ロキが身体こど、一刀両断しようと大鉈を振るったが、その硬い皮膚に大鉈が弾かれてしまう。


まさに、打つ手の無い状態だったーー。



「私の魔法も全く効果がない。剣も刃が通らない…まさに万事休すだな」


「冗談言ってる場合じゃねえぞ!」


苦笑いを浮かべるヘレンズに、厳しいツッコミを入れるロキ。巨大ムカデは、その間もぐねぐねとその巨体を揺らしている。


「ボクがやるよ!」


アイナが二人の前へと出る。


「何か策はあるのか?」


「フレイアの最高呪文をここで使うよ。これを使えば、ボクの魔法力の全てを使い果たしてしまうことになるけどね」


ヘレンズの問いに、アイナは肩をすくめながら答えた。


「一応、【魔法力回復薬(マジックポーション)】は一つあるが……」


「それは、緊急時用に残して置いてよ。ボクは魔法がメインじゃなくて、こっちがメインだからさ」


と、アイナは背中に背負った剣を指差した。




☆★☆★☆★☆



「フレイア、ボクに力を分けておくれ!」


「アイナ…今回はあなたの持ってる全ての魔力を使うことになるわよ」


「それでも構わないよ。それでみんなを守れるなら」


炎の精霊フレイアは真っ直ぐ見つめてくる、青い瞳を見つめながら、ため息を吐くと、巨大ムカデを迎え撃つ。


「我が声に答えたよ 我が名はフレイア 炎の精霊の名のもとに ーー」


フレイアの足元に魔法陣が現れる。

空気中の凛がパチパチと音を立てて弾ける。

周りの温度が上昇して、空気を吸うだけで喉が焼けてしまう程だ。

右手に集めた魔力は炎へと変わる。


輪廻の魂火(サイレントメサイア)


黒い炎がフレイアの手から放たれ巨大ムカデを包み込む。地獄の極炎は焼き尽くすまで決して消えない。


「ギギギギギギぎぎぎぎギギギギッッ‼︎」


気味が悪い咆哮が森に響き渡る。

黒い炎は巨大ムカデの体に纏わりつくように、決して消えない。巨大ムカデはその炎から逃れようと、暴れ回るように体を地面に擦り付けるが消えることは無い。

青白く〈自己再生〉をし回復するが直ぐにまた炎により炭と化す。〈自己再生〉が追い付かない炎による燃焼。


巨大なムカデの巨体が徐々に崩れ落ちていく。黒い炎に完全に飲み込まれた巨大ムカデはサラサラと灰となり、最後は巨大な〈魔結晶〉だけがその場に残った。


「ふあああ、私疲れちゃった。今日はもう起こさないでね。おやすみ」


大きなアクビをしたフレイアは、アイナの胸ポケットに飛び込んだ。


「ありがとうフレイア。おやすみ」



あ・・・あれ?


ぐわ〜〜〜ん。


突然目の前の景色が歪む。

足がおぼつかない。

アイナは、酷いめまいに襲われそのまま地面に倒れた。


「ーーアイナ⁉︎」


エルが慌てて、アイナの側に駆け寄り抱き抱える。


「ア、アイナ大丈夫?」


心配そうにアイナの顔を覗き込むエル。


「えへへ……エルに抱き締めてもらえて……嬉しい」


目は虚ろで、アイナ一人では起き上がるのは困難だろう。


「ーーたぶん、魔法力の使用限界による精神疲労だな」


ヘレンズはエルとアイナの元に歩み寄る。


「アイナは、大丈夫なの?」


「ああ、心配はいらない。魔法力は時間はかかるが自然と回復する。ゆっくり休んでいれば、時期に歩けるようになるさ」


ヘレンズの言葉にエルは、安堵の表情を浮かべた。





エルはアイナを抱き抱えて、未だ動けないでいる、エルフの眼鏡の少女のサラの隣にアイナを座らせた。


弱々しい声で、サラに声をかけるアイナ。


「サラ……大丈夫?」


「……ハエ……ニゲテ……ニゲテ……」


サラの言葉を聞き、エルとアイナは首を傾げる。


「……ハエ?……」


「…蝿って、虫の?」


エルとアイナが顔を見合わせる。

サラは、頭抱えて未だその恐怖に縛られてまともに動けないでいる。



エル達はまだ、知らなかった。

直ぐそばに迫る〈蝿〉の存在をーー。


応援のコメント・感想・ブクマ・評価その一つ一つが凄く嬉しいです。凄く励みになって、背中を押してくれます。ガンバレと言ってくれているように思えます!読者さまがいてくれるから、僕はまだ書いていられる。本当にありがとう!

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