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弱虫の剣  作者: 望月 まーゆ
第2章: 黒い森の蟲王
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黒兎


〈黒い森〉の最深部。霧が辺りを真っ白に染める。昼間だというのに、密集している木々で陽の光がほとんど射さないため、苔がより一層濃く生い茂って、まるで緑の絨毯を敷き詰めたようだ。


「ふんふんふん、ふんふん、ふんふん」


そんな周辺の幻想的な風景を、ぶち壊す能天気な鼻歌が聞こえてくる。


黒いフードをすっぽりと被り〈兎の面〉を付けた人物。背丈は小さくまるで、黒い小さな兎がぴょんぴょん飛び跳ねているようにも見える。


「ふんふん、ふんふん・・・ん?」


兎の面を被った人物が足を止めた。

そこには、苔と雑草で覆われていて分かりづらいが祭壇がある。


「これかしら?」


兎の面を被った人物が手を翳すと、祭壇は音を立てて動き出す。地下へ続く階段が現れた。


周りに蟲の魔物が集まってきているが、一定の範囲で止まり近寄ってこない。


蟲達は本能で分かっていた。

近寄ってはならない存在だとーー。


「ふん、ふんふん、ふんふん」


兎の面の人物は、また陽気に鼻歌混じりに地下へと潜って行った。



☆★☆★☆★


真っ暗な石造りの階段を一歩、一歩降って行く。冷んやりとした空気が流れ込んで来る。

真っ暗な空間に、真っ黒な格好の兎の面の人物は、空間に溶け込んでしまって姿が見えない。兎の面の人物が階段を降り切った所で、全ての通路の松明に一斉に炎が灯った。


比較的広い空間であり、入り組んだダンジョンのような造りにはなっていない。

ただ広い空間の奥に、外に置いてあった祭壇よりも作りが良い祭壇があった。石造りの造形があり複雑な紋様が彫られている。そして、一番目に止まるのが祭壇の中央にある大きな棺だ。


「あった! あった! あった!!」


飛び跳ねるように祭壇へと向かう。

兎の面の人物がぴょんと、石畳の床の上に足を置いた時、石畳の床が凹んだ。


〈トラップ〉が発動し、アンデット系の魔物〈骸骨の兵士〉と〈ゾンビ〉が次々と祭壇の裏手から現れた。


兎の面の人物は、歩みを止めず祭壇へと向かう。アンデットの魔物達は、兎の面の人物に一斉に襲いかかる。




ーー 【凍てつく氷華】ーー


ピシッ。


大気が全て結晶となり輝く。

石畳が、祭壇が真っ青に輝き凍り付く。

このフロア全てが、大寒波に襲われ、凍り付いた世界に変えられてしまったようだった。

アンデットの魔物達は一瞬で、氷の彫刻へと変わった。


シャリ、シャリと凍り付いた石畳を今度はゆっくりと祭壇へと歩む、兎の面の人物。

アンデットの魔物達はボロボロと、氷が剥がれ崩れ堕ちていった。





祭壇の中央にある大きな棺に辿り着いた。

兎の面の人物は、棺を開ける。


溢れ出す邪悪な魔力に、思わず笑みを浮かべる。


大きな棺の外観とは裏腹に、中には〈封印術式〉が刻まれた、幾つもの札が貼られた古い箱が入っていた。


「コレねえ。この中にお寝んねしてるのね」


兎の面の人物は〈封印術式〉の札に向かって、手を翳す。ぼんやりと札が蒼白く光り、

貼られている札がペリ、ペリと剥がれ落ちる。


棺の上に箱を置き、蓋を開ける。

兎の面の人物の瞳に映ったのは、どす黒く濁ったオーブだったーー。


「ふふふ、コレが〈蟲王ベルゼブブ〉の魂・・・」


兎の面の人物がフードの中から、徐ろに取り出したのは光輝く結晶のカケラ。


「〈命を与える魔法〉を結晶化した物よ。これで死者の魂を復活出来る。結晶は残り少ないけど、〈あの娘〉が本物なら、これからカケラなんて必要無いもんね」


兎の面の人物は、結晶のカケラをどす黒く濁ったオーブの上で砕いた。

砕かれた結晶は、光輝きどす黒く濁ったオーブを包み込むように、淡い桃色に輝く。


「いつ見ても素晴らしい光景だねえ!」


オーブが砕けると、地面に立体魔方陣が現れどす黒い靄がカタチを形成して行く。


時計のような映像が至るところに、映し出され反時計回りに時間が戻って行くように、どす黒い靄のカタチがハッキリと形作られていく。


「素晴らしい! 素晴らしい‼︎」


兎の面の人物はぴょんぴょんと跳ねながら、手を叩いて喜ぶ。




それは【巨大な蝿のような姿】をしていた。




* * * * * * * * * * * * *



段違いのレベルの差を、目の前で見せ付けられていた。


水色の髪の狼の少年のロキの圧倒的攻撃力。

金髪の美少年ヘレンズの剣と魔法の攻撃のバリエーションの豊富さは、まるでクレアとミレアを足したような感じだった。

エルフの少女サラの指示と、ナビゲートは冒険者としてクエストを攻略するには、必要な存在だと改めて思った。

猫娘のシャルルは、攻撃魔法は余り得意ではなく、主に障壁や回復魔法などヒーラー的な役割を担っていた。そんな女性二人を守る盾役に大男レグルスがいる。大きな盾を構え、敵を引きつける。パーティーメンバーを守る存在は必要不可欠だ。

そして、このパーティーメンバーでも極めて異彩を放っていたのはアイナだった。


エルと遜色ない瞬発力、ロキに劣らない攻撃力、精霊フレイアによる桁違いの魔法力。

まさに☆4冒険者だというレベルの違いをまじまじと見せ付けられたのだった。


「・・・正直、ヘコむね」

「うん・・・あれだけ稽古したのに足元にも及ばないなんて・・・」


クレアとミレアは肩を落としていた。


「エル、エル、ボクの活躍見てくれた?」


エルの腕にしがみ付くアイナ。それを目撃したエリーナはムッと、眉間にシワを寄せる。


「ア、アイナは強いな・・・いつの間にそんなに強くなったんだ? ぼ、僕なんか全然ダメだよ。頑張って稽古したのに・・・」


エルは肩を落として、地面を見つめる。


「・・・エル・・・」


エルが褒めてくれると思っていたのに、予想外の反応にアイナはしょんぼりした。


「こんな事じゃ、僕は勇者さまのパーティーメンバーになろうだなんて、恥ずかしくて口に出せないな」


エルはアイナに、苦笑いを浮かべた。

夢を語る時のキラキラした笑顔と澄んだ真っ直ぐな瞳の少年はそこにはいなかった。


アイナの大好きなエルが消えて行くーー。


ざわっと、アイナの中で何かが囁く。


エルを変えてしまったのは誰だ?

エルが夢を諦めてしまう。

エルがボクからまた遠くに行ってしまう。


エル、ボクのエルーーーーーーーー。




アイナは足を止めて、エルの腕を掴んだ。


「ア・・・アイナ・・・??」


エルは振り返りアイナを見つめる。

アイナは俯き表情が見えない。


「どうしたのアイナ?」


エルが中腰になり、アイナの顔を伺おうとすると、アイナはエルに抱きつく。


「あ、あ、あ、あいな・・・え? え?」


手足をバタバタさせて、慌てるエル。


「エル・・・ボクのパーティーに来なよ」


それは突き放すような冷たい声色だった。

★パーテイー名

【Spielplatz】〈シュピールプラッツ〉

(意味・遊び場)


☆パーティーメンバー


・セント・ヘレンズ ☆3 (人間・男)


・ロキ ☆3 (狼亜人・男)


・サラ ☆3 (エルフ・女)


・シャルル ☆3 (猫亜人・女)


・レグルス ☆3 (人間・男)


・アイナ・アウグスタ・ロレーヌ

☆4 (人間・女)


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