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弱虫の剣  作者: 望月 まーゆ
第1章: 出会いの奇跡、ここから始まる軌跡
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仲間

「何で付いて来るんだよ」


「は? それが助けてあげた人に対する言葉?」


偽勇者の置き忘れていったバックパックから拝借したポーションによりエルの傷は回復した。


回復した直後のエルは放心状態で、少女が何を言っても反応がなく、まさに魂が抜けている状態だった。


「あんたこれから何処(どこ)に行くの?」


「…………」


少女は返答の無い白銀の頭を背後からむっと、睨んだ。

無視を承知で少女は畳み掛ける。


「ーーまっ、いいわ。さっきの借りは返したからね。これからあんたが何処(どこ)に行こうが私には関係ないけど、あんな分かりやすい偽者勇者には気をつけることね」


肩を少し上げ両手を広げてため息を吐いた。


「…………」


エルの無言を貫く態度に、ぎゅっと右手に力が入った。


「ねえ、あんたさーー」


「…………」


ブチッ


何かが切れる音が聞こえたような気がして気付いた時には少女はエルの目の前に立っていた。


「あんた見てると本当イライラするのよね!

さっきから何なの? こんな可愛い私が話しかけてるのに普通無視する? 信じらんない。

どうせ自分の父親が馬鹿にされた事に腹が立ってるか知らないけど、それを命を助けてあげた恩人に八つ当たりしないでくれる!

そもそもあんたがアホみたいに、偽者勇者にホイホイ付いて行くのが原因でしょ。

あんなに分かりやすい偽者いないでしょ?

逆に気付かないあんたがどうかしてるわよ!

お人好しにも度が過ぎてるわよ。

仲間殴る勇者とかあり得ないでしょ?

逆にあいつが本物の勇者だったら世の中終わってるわよ!

まあ、あいつはこの私が制裁を加えてやったけどね。これも私に感謝しなさいよ」


これでもかって程に饒舌な口調でまくし立てる少女。

無視を貫いてきたエルもさすがに目を丸くし面を食らっていた。


「何? 文句ある?」


腕を組み太々しい態度をとっている少女。


「い、いや……何で君は……」


グイっと、一歩近づき顔を寄せる。


「私はエリーナってちゃんとした名前があるのよ。以後覚えておきなさい!」


可愛い顔が目の前に現れ直視出来ずにいるエル。


「は……はい」


「宜しい!」


ニコッと悪戯に笑い白い歯を見せた。

エリーナは、ほんの少しだけこのエルという少年に対して「私が面倒を見てやらなきゃ」と思っていた。

初めて異性に持った感情だった。

今まで異性に言い寄られたり、求婚を求められた事は数え切れない程ある。


それによって心が揺れ動いた事は一度もない。


だけど、目の前にいる白銀の髪をした小さな体の少年に対してはどうしてもエリーナは目が離せないでいた。


顔立ちやスタイル、経済力なら断然貴族の殿方の方が上だろう。


しかし、出会ってまだ数時間の彼は今、エリーナの心の隙間にそっと足を踏み入れようとしていた。


姫としてじゃなく一人の女性として話をしてくれている。何のメリットも見返り求めないで一緒に隣にいてくれる。


エリーナにとって初めての経験だった。


それと同時にこの人の事をもう少し知りたいと思っていた。


本当にエルのお父さんは嘘つきなのか?とか。





エル達がいる森は、シンラの森と言う初級クラスの冒険者が魔物狩りをする一番メジャーの場所である。


迷ったり、強い魔物が出現したりすることはほとんどないので比較的安全にクエストが出来る場所である。


エルの格好はというと、少し素材の良い黒い服に、革のブーツ。腰に片手用の短剣といった姿だ。冒険者としては頼りない。

冒険者として一年経過していてもほとんどレベルは上がっておらずアビリティも何も変動はない。


「ねえ、あんたこれから何処(どこ)へ行くの?」


「あ……その……」


エリーナはムッと、エルに顔を寄せて、


「その、モジモジするの辞めてくれない!!」


「ご、ごめん。え……英雄碑(えいゆうひ)を見に行きたいんだ」


「英雄碑って?」


「英雄碑は現在三つあるんだ。

それは魔王を討伐した数と同じなんだ。

僕のお父さんが魔王を討伐したのが三回目の時でその英雄譚にはその時のパーティーメンバーの名が刻まれているんだ。

僕のお父さんの名前もきっと刻まれているはずなんだ!」


「ーーなるほど! そこに名前があればあんたのお父さんは嘘つきじゃないって証明される訳だね!」


「うん! 僕もまだ英雄碑は見たことがないんだ。行ってこの目でお父さんの勇姿を見てみたいんだ」


「うん。良いんじゃないかな。

馬鹿にした奴らを見返してやりなよ!」


「うん!」


キラキラした目で父親のことを語るエルの姿はエリーナには眩しく見えた。




「……やけに静かなような」


「えっ? そうなの。森なんてこんなものじゃないの?」


「魔物が全く出現してない……」


「確かに一度も遭遇してないわね」


「何か変だ。急いでこの森を出た方がいいかも!」


その言葉でエルとエリーナは走り出す。

エルの胸さわぎは現実のものとなる。


地響きのような足音が背後から近寄ってくる。


エルはその足音が、ここにいる魔物とは別の生き物だと分かったーー。


何度もここの森へは来たことがあったが、

一度もこのような足音は聞いたことがない。


恐怖が全身を襲う。

足が、体が強張り上手く走れない。


エルの表情でエリーナにも背後から迫ってくる得体の知れないモノが危険だと伝わった。


ゆっくりとエルは振り返り、得体の知れないモノの正体を確かめたーーーー。





ーー そこには……ーー

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 間違いだったらすみませんm(_ _)m 恐らく「何処」のルビが『何処に』まで続いているかと……
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