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弱虫の剣  作者: 望月 まーゆ
第1章: 出会いの奇跡、ここから始まる軌跡
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姫奪還作戦③

グリューネ邸宅の屋上は歓声と喝采に溢れていた。


その中心にいるのは、シュナイデル・ヘンリー・グリューネ。


緋色の鎧を身に付けたトリプルスターの冒険者にしてここ一帯の領主でもある。


「ハハハハハハ、さっきまでの勢いはどうした小僧⁉︎」


脇腹を刺され、激痛で顔を歪めるエル。


「私は一度目は許すが、二度目は無い!

正直、ここまで恥を晒されたのは初めてだ。死をもって償え小僧が!」


エルに向けて剣を突き出す。

剣先は真っ直ぐにエルを向いていた。


クソッ、クソッ、僕は何て間抜けなんだ。


何度、同じミスを繰り返すんだ。

師匠にアドバイスを貰っていながらこの樣だ。


あと少しで届きそうなのに・・・。

あともう一歩で何かに掴めそうなのに。


この傷さえ負わなければ・・・。


自分のミスをこれ程後悔した事は無かった。

エルは持てる全ての力を絞り出し立ち上がる。


全身に激痛が走りもはや、立っているだけがやっとの状態だったーー。


「小僧最後だああああああああああああ!」


シュナイデルがエルに向けて大剣を振り下ろしたのと同じタイミングで、桃色の液体が入った硝子の小瓶が投げ込まれる。


シュナイデルはもうその動作を止める事は出来ずに、硝子の小瓶を斬り裂いた。


「ーーなっ⁈」


小瓶は粉砕しエルに全ての液体が降りかかった。


「こ、これは・・・?」


エルの脇腹の傷、全身の疲労感など全てが回復していた。


「だ、誰だあああぁぁぁあああっ⁉︎」


シュナイデルはこの決定的瞬間に水を注いだ人物に怒り狂う。

周りのギャラリー達に、睨みを利かせる。


エルに思い掛けないチャンスが巡ってきた。


命の恩人に感謝しながら、足元のブーツに魔術付与を施す。


「誰かは、存じませんがありがとうございます。おかげで僕に親愛なる人を助けるチャンスがまわって来ました。そして、必ずこのチャンスをモノにしてみます!」


立ち上がるエル。

その表情は先ほどとは違い、自身に満ち溢れているようにシュナイデルには見えた。


チャンスを潰されたシュナイデルには、焦りの色と困惑するような複雑な表情を見せていた。


「シュナイデル、エリーナは僕が連れて帰る!」


右手に〈聖剣エルリーナ〉そして、右の腰の鞘から左手で〈黒曜石の剣〉を取り出し構える。


「そ、双剣・・・焼きが回ったか・・・」


シュナイデルは両手で大剣を握り、じりじりと間合いを取る。


エルは両手にそれぞれ短刀を握り締め、視線を低くし構える。


二人の間合いの取り合いに、周りのギャラリーは息を呑んで見守る。


エリーナも両手を握り締め必死で祈るようにしてエルを見つめる。


二人の騎士の息づかいが聞こえるほど、

静寂に包まれるグリューネ邸の屋上。














ーー先に仕掛けたのはエルだった。


一足でその距離を詰めると、二本の短刀での電光石火の連撃が始まる。


その速度を可能にしたのは、新たにブーツに付与した魔法だった。


【 加速限界 】〈リミットバースト〉


今まではこの速度領域に、体がついて来れずに断念していたが今は1分程度なら体が耐えられる事が分かった。


使った後の反動は大きく、もしコレでシュナイデルを倒すことが出来なければエルの敗北は確定する。


エルは最後、この付与魔法に賭けていた。

しかし、この付与魔法に決定打が足りない事は分かっていた。


ただ、速いだけではシュナイデルを倒せない。


後、何か一つプラスさせればシュナイデルを倒せる。


きっと師匠とのやり取りの中にシュナイデルを倒すヒントが隠されていると確信していた。


師匠から貰ったこの〈黒曜石の剣〉を見て分かった。師匠がわざわざこのタイミングでこの短刀を渡してくれたって事はーーーー、



「うああああああああぁぁぁああああっ‼︎‼︎」


空中で弧を描きながらの双剣の連撃、その目にも止まらない速度でシュナイデルを斬り刻む。


シュナイデルがそれを防ごうにも、一撃、一撃の繋ぎ目が恐ろしく速い。

エルの連撃の弱点を【加速限界】は、完全に補う形となった。


止まらぬ双剣の連撃ーー、もはや常人には何回攻撃をしているのか、数を数えられないほどの神速の斬撃にギャラリーはただ口を開けて立っているだけだった。


エルの十四回目の一撃がシュナイデルを捉えた時勝負は決まったーー。


エルが片膝をついて双剣を納めると、立っていたシュナイデルの至る所から流血が吹き出しそのまま地面に崩れ落ちた。


「シュ、シュナイデル様ああああ!」


固まっていた敵兵は、ようやく目の前の状況を理解しシュナイデルの介抱に向かった。


エルは立ち上がり、振り返るとそこには目を潤ませてこちらを見ている美しい姫の姿があった。


「ーーエル」


美しい姫が名を呼んだ。

エルはゆっくりと頷くと、少しの間を置いて姫の名を呼んだ。


「・・・エリーナ」


エリーナは溢れ落ちる涙を払い落とし、エルを見つめた。


「きっとーー助けてくれるって信じてた」


その言葉を聞いてエルは嬉しそうに微笑むと一歩、二歩とゆっくりと足を動かしたところで、エリーナの胸に飛び込むようにして、倒れたーー。














「う・・・ううん? ここは?」


エルが目を開けた時に、瞳に飛び込んで来たのは真っ青な空と白い雲、サンサンに輝く太陽だった。


「ーーグリューネ邸の屋上よ」


聞き覚えのある甲高い声。

エルは自分が置かれている状況が整理出来ずにいる。

まずは自分は仰向けで寝ている・・・どこに?

首を左右に動かして確認しようとすると、


「エル・・・くすぐったいよ・・・」


へっ?


頭の下にある柔らかい感触はーー、


「ひ、ひ、ひいーーーー膝枕⁈」


エルは慌てて立ち上がろうとするが、


「だ、大丈夫よ・・・今日だけだからね」


「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」


お互いに顔を真っ赤に染めて、その後しばらくの間無言が続いた。


何も話さなくても、お互いこうやって触れているだけで心地良かった。


ずっと探していた自分の居場所を見つけたような、そんな気がしていた。


エルが口を開いた。


「傷・・・エリーナが直してくれたの?」


「・・・うん、実戦で使ったの初めてだったから、成功して良かったよ」


エリーナは苦いを浮かべ、少し照れ臭そうに頬を赤らめた。


「あ、あ、ありがとう・・・」


「お礼を言うのは、こっちの台詞だよ。

エル・・・助けてくれてありがとう」


エルの顔の前に、エリーナの小さな顔が現れ、子どものような無邪気な笑顔が、小さな顔いっぱいに溢れた。


エルは、エリーナの膝からゆっくりと顔を上げると、エリーナに顔を向けて頬を緩ませて、


「今度こそ君を絶対に離さない。僕が君を守ってみせるよ。君がくれたこの剣で」


エリーナに向けて右手を差し出す。

その手をぎゅっと握り返すエリーナ。


想い描いていたワンシーンではないが、

いつか誰かがきっと、見た事もない世界へ連れ出してくれる。そんな夢を見ていた。


今まさに、この細い小さな手がエリーナの未来を変える事になる。


「エル・・・これからもあなたの側にいさせてね・・・」


その先はどちらからでもなく、お互い抱き締めた。固く抱き合ったまま、いつまでも二人お互いの冷えた心を溶かしていった。


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― 新着の感想 ―
[一言] シュナイデルの悪役ぶりがはまってますね いい悪役!
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