姫奪還作戦②
「朝からずっとぼんやりね。あの子がそんなに心配?」
ふふっと、口に手をやりながら、外のベンチに座ってるクレイの隣に腰掛けるフローラ。
「いや、そろそろ着いた頃かなあーと思ってな・・・セシルは?」
「クレアちゃんとミレアちゃんが相手をしてくれてるわよ。あの子達も何かしてないと、落ち着かないみたいよ」
「ーーだよな」
小さくため息を吐く。
「大丈夫よ。あなたに本当にそっくり。
ナイフ二本持って暴れてた昔のあなたに瓜二つよ」
「ああ、だから心配なんだろーよ。頭より体が先に動いちまうタイプだからな」
「・・・だから、あの黒曜石の剣を渡したのね」
「ああ、ただあいつ気付くかな?」
「大丈夫よ。聖騎士クレイ、二つ名は〈双剣のクレイ〉の弟子でしょ」
二人はゆっくりと流れる雲を見つめていた。
エルとエリーナが無事に帰って来ることを願ってーー。
* * * * * * * * * * * * *
グリューネ邸の屋上の庭園に人影が三つ。
空は晴れ青空さえ伺える。
「エリーナを返してもらう!」
「おやおや、返してもらうだと?まるでエリーナ姫は君の所有物のような言い方だね?
君が私からエリーナ姫を奪う権利がどこにあるんだい?」
「・・・権利?」
「そうだろ?私は国王からもエリーナ姫との交際を認められている。何度も食事や交流を重ねゆくゆくは婚約する。その人間からエリーナを返せ?何を根拠に返せと?普通に考えれば、いきなり人の家に上がり込んで、刃物を持って、人の交際相手を奪いに来た貴様の方がよっぽど野蛮に見えるがね!」
「ーーーーーーーーーーっ」
エリーナを見つめるエル。
エルと目が合うと、エリーナは悲しそうに首を横に振った。
言葉にしなくてもエリーナの気持ちは分かる。
あんなに悲しい表情でいるのに、この男と一緒にいたい訳がない。
エリーナが姫を隠して、城から逃げ出したものきっとーーーー。
「ーー僕がエリーナを返してもらう理由はある!」
その言葉に眉間をピクッと動かすシュナイデル。
「理由がある・・・だと?」
「ああ、エリーナはお前といたくない。
嫌がっている、お前にはエリーナは相応しくない!!」
その言葉にシュナイデルは逆上し剣を抜いた。
「貴様ああああああああああぁぁああ‼︎」
シュナイデルが剣を抜いたのと、ほぼ同時にエルも短刀〈エルリーナ〉を握る。
先に仕掛けたのはシュナイデルだが、エルは一足で一気に距離を詰めると閃光のような速度で一撃を繰り出す。
「ぐっーー」
シュナイデルは一撃をなんとかギリギリ跳ね除けた。
エルは即座に足を踏み替えて、低い姿勢のまま連撃、切り落とし、切り返し、振り上げ、振り下ろし、剣と剣が触れ合う度に火花が散る、昨日とは別人のような剣速と俊敏性。
シュナイデルは防戦一方となる。
しかし、シュナイデルも只では黙っていない。
レベル3・トリプルスターの意地がある。
何よりエリーナの前でカッコ悪い姿は晒せない。
エルの連撃と連撃の間の僅かな隙間を縫うように一閃を投じる。
回転中の隙を突かれ、振り向いた瞬間に目の前に剣先があった。
エルはギリギリと短刀の平面でガードし吹き飛んだ。
地面に叩きつけられたエル。
ゴロゴロと二回転し、首を横に振りながら立ち上がる。
「小僧、調子に乗るのものここまでだ!」
シュナイデルの振り降ろされた斬撃。
エルは短刀で回避するが、その重い一撃はエルの細い腕に衝撃が走る。
エルの顔が苦悶の表情に変わる。
「それでもガードしてるのか?そりゃ、そりゃ、そりゃ、そりゃ!」
シュナイデルの振り下ろしの嵐にエルの腕が痺れ、次第に腕がどんどんと下がっていく。
たまらず後方に下がり距離を取るエル。
「何だ? 逃げるのか?エリーナを助けるんじゃないのか。どうした? かかって来いよ」
シュナイデルはエルに挑発するように手招きをする。
シュナイデルはその恵まれた体格と鍛え上げられた筋力、そしてトリプルスターという恩恵に授かった攻撃力が最大の武器である。
その一撃、一撃の破壊力は凄まじい。
例えるなら、エルが最初に苦戦を強いられたオークキングをシュナイデルなら無傷で、それも数回の斬撃で倒せてしまう程だ。
それ程までに今のエルとシュナイデルの差に開きがある。
エルも改めて冷静に戦ってみて、相手との力量の差がひしひしと伝わってきたのだった。
( シュナイデルは強い・・・ )
エルが冷静に判断した答えだった。
この力量の差を埋めるにはーーーー、
* * * * * * * * * * * * *
スケッチブックを大事に抱えた男は、森を切り拓いたような道を真っ直ぐ歩いている。
途中で馬を乗り捨て、徒歩での移動だ。
記者としてスクープ記事を書くためには足を使うのが鉄則である。
他の人に目をつけられないようにするのも基本だ。
「ここが〈グリューネ邸〉か・・・」
グレーのスーツに口髭の男は周辺を警戒するが、
「見張りがいない? 不用心な邸宅だな」
邸宅周辺には、見張りが一人もいなかった。
更に奥に進み、邸宅の庭まで来ても誰一人遭遇することは無かった。
グレーのスーツに口髭の男は、
( 俺の勘が外れたか・・・ )
と、項垂れているとーー、
チカッ、チカッと邸宅の屋上付近から何が反射する光が見えた。
男は物陰に隠れ、屋上付近に再び目を配る。
「アレは、剣が陽の光に反射している光か。
誰と誰が何のために屋上で・・・」
一流記者ほど物が少ない。
それは取材中に見つかったり、何かに巻き込まれたりした際にすぐに逃げ出せるようにだ。更に荷物から身元がバレないようにする為でもある。
「主よ我が問いに答えよ。 我に真実の姿を現せ スコープ」
右手で人差し指と親指をくっ付け輪っかにして右目で覗き込むと、屋上にいる人物が鮮明に確認出来る。
「どれどれ・・・決闘かな? 戦っているのは、シュナイデル氏と・・・誰だ?
それにもう一人は・・・エ、エリーナ姫⁈」
男は驚きの余りひっくり返り、尻もちをついた。
「な、何でまたこんな所にエリーナ姫が、行方不明のはずでは? コレは大スクープだ‼︎」
* * * * * * * * * * * * *
エルとシュナイデルの決闘は、予想を超えて持久戦へと向かっていた。
シュナイデルは一撃は当たりさえすれば、デカイがモーションが大きい為動きが予想出来る。
エルは剣で攻撃を受け流すのではなく、攻撃そのものを予測し、回避する事を選んだ。
エルは怯む事なくシュナイデルの猛攻を防ぎ続け、隙を見ては果敢に攻め続けた。
屋上には、いつの間にか敵兵士のギャラリーが出来上がり大いに盛り上がっていた。
「ーーこのチビ助・・・」
シュナイデルも決め手を無くしていた。
一撃与えられれば勝てる。
しかし、その一撃がヒットしない。
完全に攻撃パターンを読まれている。
シュナイデルに焦りの二文字が顔に浮かんでいた。
一方のエルは冷静だった。
ずっと強くて速い人物と稽古をしてきた。
その成果が確実に実戦に現れている。
シュナイデルの動きが丸わかりである。
もうあの一撃は貰うことは無いと、確信していた。
あとはーーーー、
「決定打を決める・・・だけ!」
エルはエルリーナを逆手に構えて、重心を低くし構える。
地面を強く蹴り、神速の一撃をシュナイデルに食らわせる。
「ーーグッ」
ギリギリで体を捻り、緋色の鎧で致命傷を避けるシュナイデル。
エルはそのまま急激にストップをかけて、切り返す、
「ああああああああああああっ!」
ここぞとばかりの連撃、一撃、二撃、三撃、四ーーーーーー、
ドスっ!
「ーーーーーーーーーーーーーー!!」
う・・・うぐぐ・・・
「バカか、それはもう目切ってんだよ」
脇腹にシュナイデルの剣が、この戦いで初めて致命傷となる一撃が刺さった。
湧き上がる歓声ーー。
シュナイデルはその喝采と歓声に剣を突き上げ応える。
ふらふらと脇腹を抑えながら後退して行くエル。
( し、しまった・・・餌に食いついて失敗するパターンだ・・・油断した・・・ )
シュナイデルの口元が緩む。
その目は、完全に勝ちを確信していた。
「エ、エル・・・」
エリーナが慌てて駆け寄ろうとすると、
シュナイデルは真横に剣を伸ばし妨害する。
「男と男の決闘で手出しは無用ですよ、姫!」
エリーナの視線を上げた目に飛び込んで来たのは、悪魔のように冷酷な光を失ったシュナイデルの瞳だったーー。
「エル・・・」
エリーナの小さな声はエルの耳には、届かなかった。
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