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弱虫の剣  作者: 望月 まーゆ
第1章: 出会いの奇跡、ここから始まる軌跡
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それぞれの稽古

「はい、集中して体に流れる魔力を想像するのよ。ーーエリーナ何度同じ事を言わせるの?魔力の流れが乱れてるわよ‼︎」


フローラから厳しい檄が飛ぶ。


「は、はい。すいません」


うううう〜・・・難しい。


「先生、どうですかあ?」


「うん。素晴らしいわミレア合格!」


わしわしとミレアの頭を撫でるフローラ。

その優しさを全身で受け止め、こぼれるような笑顔を見せた。


その笑顔を指を咥えて見ていると、


コツッ!(げんこつ)


「コラ」とフローラの拳がエリーナの脳天に直撃した。


「よそ見している時間があるなら少しでも努力しなさい。自分から覚えたいって言い出した事なのよ」


「は、はい!」


エリーナは再び目を閉じ魔力の流れの感覚を掴む修行に励んだ。


「エリーナおねえちゃん・・・」


寂しげな表情でエリーナを見つめるミレアだったーーーー。







魔力の流れを掴む修行に苦戦するエリーナを尻目にミレアはその類稀なる才能を遺憾(いかん)なく発揮していった。


修行を開始して二週間でほぼ魔法の会得は完了してしまったのだ。


これには先生であるフローラも驚きを隠せなかった。


フローラ自身が使える魔法は全部で五つ。

その内の二つを二週間という短期間の間で習得してしまったのだ。


「さすがフィルの娘と言うべきか、何というか・・・」


「そ、そんな・・・先生の教え方が上手だから出来ただけです」


決して自分の事を鼻にかけず、謙遜し相手を敬う。可愛がられ方を知っている。


エリーナの目にはそう映った。


フローラたちの住んでいるログハウス風な家は丘の上に立っている。そこには一本だけ木が立っている。


エリーナはその場の雰囲気が何となく居づらくなり降り注ぐ太陽の光と二人の会話を遮るように木陰に腰を下ろした。


自分が魔法の修行が上手くいかないから、

妬んでそう映ったのかもしれない。


そうだとしたら何て自分は可愛くないんだろう。

妹のような子、相手に嫉妬するなんて・・・。


「おねえちゃん・・・はい」


ミレアは水が入ったコップをエリーナに差し出した。


「あ、ありがとう・・・」


「どう致しましてです」


エリーナがコップに口を付けている間もミレアはまだその場に立っていた。


エリーナがコップから視線をミレアに向けると少し寂しげな表情を浮かべていた。


「どうしたの?」


「・・・おねえちゃん悩んで・・・ますか?」


「どうしてそう思うの?」


正直、魔力を感じる?

とか魔力の流れを掴む?

とか意味分かんないのが本音だった。


しかし、素直になれない。


「その・・・辛そうな顔してるから」


「え? そんな顔してる・・・?」


自分では顔に出さないように心がけていた。

お城で姫を演じていたように、どんなに面白くない話や喋りたくない相手でもそれなりに相手を傷つけないように悟られないように振る舞ってきた。


エリーナが自分の顔を手で触っていると、


「おねえちゃんには、いつもニコニコ笑っててほしいの」


エリーナの目に飛び込んで来たのは、

幼なさが残る無垢の笑顔だった。


「おねえちゃん、一緒に頑張ろうね」


「うん。ありがとう」


この子は、どこまでもただ純粋なだけ人の顔色ばかり伺う私とは違う。


それに比べて私は何て可愛くないんだろう・・・。


妹のように可愛い少女はぴょんぴょん飛び跳ねるようにフローラの元へと駆け出して行ったーー。



私ももう少し頑張ってみよう!



エリーナは重い腰を上げると、小さな背中を追いかけように駆け出した。




* * * * * * * * * * * * *




「ーー今日はここまで!」


「ふにゅーーう。疲れたあ」


クレイの終了の掛け声と共に力が抜けるクレア。草の生い茂る地面に座り込む。


「そうだお前たち、稽古卒業の祝いに何かプレゼントをと考えているんだが、何が欲しい?」


「えっ! プレゼント?本当に」


目を輝かせてばっと立ち上がるクレア。


「ああ、クレアのプレゼントはもうフローラと決めてある! お前の希望は通らん」


クレアに向けて右手の掌を突き出すクレイ。


「ーーだったら、最初から言わないでよね。

期待して損しちゃったじゃない」


「もお!」と顔を膨らませるクレア。


「エルのプレゼントだが、剣をと思っているのだが今使っているのはどんな感じの剣なんだ?」


「えっと、この短刀です」


腰の後ろに装備しているナイフより少し長めの片手用の短刀を手に取りクレイに見せる。


「どれどれ」とクレイがエルの手から受け取ろうと触れた瞬間。


バチンッ!


一瞬の閃光が走ったと同時にクレイの手を弾き返した。


「ーーーーっ‼︎」


「し、師匠大丈夫ですか?」


「なになに今の? 雷?」


クレイの手とエルの短刀をみんなで覗き込む。


クレイは弾かれた右手を摩りながら、


「拒否られたって事か?」


クレイの言葉に首を傾げるクレア。


「エル、この短刀どうした?」


「え? どうしたってどういう事でしょうか?」


「短刀がまるで意思を持っている。

こいつは多分、お前しか操れない」


「意思を・・・あっ! エリーナが魔法で短刀に命を与えたって言ってました。

そうだったこの短刀に名前があるんですよ」


「命を与えただって‼︎」


クレアは開いた口が塞がらなかった。


「はい! 聖剣エルリーナ、それがこの短刀の名前です」


クレイは首を横に振りながら、エルとクレアに良く聞くように言い聞かせる。


「この短刀の事は今後一切誰にも言うな!

いいな? それとエリーナが命を与える魔法が使える事も誰にも言わない事いいな?」


「・・・はい」


エルは良く分からないが師匠がそう言うならと返事をした。


「クレア、返事は?」


「はい、はい」


適当な返事のクレアの両肩を掴み真剣な表情でクレアを睨むように見つめるクレイ。


「ちょっと、師匠痛いからーー」


苦痛な表情でクレイの手を振り払おうとすると、


「クレア真面目な話なんだ。絶対誰にも言うなよ!」


「わ、分かったわよ。言わないからーー」


パッと手を離しクレイは無言でそのまま家へと戻って行ったーーーー。






「もう、何なの?」


痛そうに捕まえた肩をぐるぐる回すクレア。


「・・・・・・」


エルは短刀をじっと見つめていた。

エリーナが魔法を使った場面を思い出す。


「君にはあの時助けられたね」


短刀がぼんやりと光って見えた。

エルは「ん?」と目を擦る。

気のせい?

エルは一度短刀を振るとそのまま腰に収めた。


「お兄ちゃん誰と喋ってたの?」


クレアは目をくりくりさせながらエルの顔を覗き込む。


エルは少し考えてから、


「命の恩人・・・かな?」


その言葉にクレアは目をぱちくりさせていた。


「さっ、帰ろう」とエルが声をかけると、

二人はゆっくりとログハウス風なフローラの家へと歩み出す。


だいぶ傾いた陽が二人の影法師を細く長く斜めに映していた。

いつもご愛読ありがとうございます。


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