英雄碑②
巨大な石碑〈英雄碑〉そこに亡き父の名が刻まれていた。
双子姉妹のクレアとミレアは驚いた。
本当ならここには、自分たちの為に尽力してくれたお兄ちゃんのお父さんの名前が刻まれている予定だったのだ。
それなのに自分たちの亡き父の名前がなぜか刻まれていたのだった。
クレアとミレアの父は数年前に魔物の討伐に行って亡くなったとだけ聞いている。
父の死後、母親は女手一つで育ててくれたのだ。
私達の父の名を見て顔を伏せて座り込んでいるこの女性はきっと父の亡くなった理由や真相を知っているに違いないとクレアとミレアは確信した。
二人はアイコンタクトを取り「うん」と同時に頷き「あのーーーー」と女性に声をかけた。
突然の声に驚き、顔を覆っていた両手をパッと離した。
女性の目の前には愛らしい同じ顔をした少女が二人真っ直ぐ見つめていた。
「あの、もしかして私達のお父さんのこと何か知ってるんですか?」
「魔物に殺されたとしか教えてもらってないんです」
クレアとミレアは気付いた。
女性の長いまつ毛は濡れていて、
その瞳には今にも溢れそうなほど雫が溜まっていた。
「ご、ごめんなさいね。叔母さん歳で涙もろくて・・・」
ずずっと、鼻をすすり心配そうに服を引っ張っていた子どもを抱き抱えながら立ち上がった。
女性は〈英雄碑〉を見つめながら、
「これを見るたびにいろんな事を思い出してしまうのよ。もしかしたら、もう忘れてくれって言ってる人もいるかも知れないけど。
だけどね、忘れなくても忘れられないじゃない。共に戦い、共に戦火を駆け抜けて来たんだから」
双子姉妹はキョトンとして、同じように巨大な石碑を眺める。
「ようやく手に入れた平和・・・沢山の犠牲の上にこの平和は成り立っているのよ。
ここに刻まれている人だけが英雄ではない。
ここには名前が刻まれてない多くの人も沢山戦ってきたのよ。それを忘れては駄目なのよ」
その言葉にーー、
「じゃあ、お兄ちゃんのお父さんも?」
「そうだよ。名前は無くても戦ったんでしょお兄ちゃんのお父さんも」
二人は目を丸くし興奮気味に女性に問いかける。
「お兄ちゃん?」
困ったような表情を浮かべる女性。
「うん、そうだよーー」
「「エル兄ちゃん!!」」
* * * * * * * * * * * * *
フレデリカの街を人々の流れにのって、
綺麗な女性とクレアが一緒にこちらへ向かって歩いて来た。
エリーナとクレアが目が合うが、クレアは
「ふんっ」とエリーナから視線を逸らした。
エリーナは「まあ当然よね」と肩を落とした。知らない土地に置き去りにされたんだもんね。無理もない・・・。
ミレアと一緒にいた子どもが女性を見つけると「まま」叫びながら走って足元にしがみつく。
「こちらの女性は?」
エルが双子姉妹に問いかけると、
双子姉妹が口を開く前に女性が答えた。
「お久しぶりね。エル君ずいぶん大きくなったわね」
女性は優しく微笑みかける。
え?
「あ・・・あの・・・その・・・」
エルはその女性に全く心当たりがなく返答に困っていた。
「ふふふ、ずいぶん前だから覚えてないか。
この双子ちゃんにはウチの子がいっぱい遊んでもらったのよ。そのお礼がしたいわ。
ウチに来てもらえるかしら?」
「え・・・そんな、僕らだって・・・
その、面倒を見て・・・」
「マギ・オルブライト」
女性は静かにその名を口にした。
「ーーーー!!」
ハッと女性を見つめるエル。
先ほどとは打って変わって真顔でエルを見つめる女性。
「父さんを・・・父さんを知ってるんですか?」
子どもを抱え踵を返し人混みへと歩き出す女性。
「知りたかったら付いて来なさい」
エルとエリーナは目を合わせ共に歩き出す。
双子姉妹も首を傾げながら後を追うように人混みへと歩き出して行ったーーーー。
☆ ☆ ☆
街から少し離れた場所にその家はあった。
ログハウスのような造りの小さな平屋だ。
庭には手作りのブランコがあり、遊んで片付け忘れたであろう、小さなシャベルとバケツが置いてある。
小高い丘の上にある為、周りは見晴らしの良く遮るものが何もない。
「何もない小さな家だけど、どうぞ」
家のドアを開け女性は笑顔で招き入れてくれた。
木製の長テーブルが置かれ、椅子が四脚並んでいる。
奥には暖炉があり二人掛けのソファーが置かれている。
余計な物はほとんど置かれてなく綺麗に整理整頓された部屋だ。
「適当に座ってーー」と言ってキッチンでお湯を沸かす女性。
言われるがまま、四つある椅子にそれぞれ座る。
落ち着かないのかみんな黙ってキョロキョロと辺りを見渡していた。
しばらくすると「どうぞ」と女性は紅茶を運んでくれた。
遠慮なくそれを口に運んだところでエルが静寂を破るように女性に単刀直入に聞く。
「父さんは・・・父さんは嘘つきなんですか?」
「ーーーーーーっ」
女性の口からエルの父親について語られる。




