双子姉妹との約束③
必死で探した。
地面に這いつくばって、茂みをかき分け、
土と埃と汗にまみれて、必死に探した。
彼女をもう泣かせたくなかったから。
待っている双子姉妹の約束を守るために。
幻と言われるだけあって、そう簡単に見つかる物ではなかった・・・。
あの時、生えていただけでも奇跡だったのかもしれない。
その奇跡で僕は今、生かされているのだ。
彼女の涙と双子姉妹との約束を引き換えに。
こんな何の役にもたたないチビで弱い僕のために涙まで流してくれた彼女のためにも、
何としても薬草を見つけて双子姉妹の約束を守らないとーーーー。
「クソッ!もう最深部はだいたい全部探した・・・余り遅くなると魔物が活発に活動する。陽が傾く前には戻らないと。それに双子姉妹の母親の容体も・・・」
時間は余りない。
なのに薬草は見つからない。
エルは焦りの色を浮かべていると、
「エル・・・ごめんね・・・」
エリーナは申し訳なさそうに苦笑いを浮かべていた。
「エリーナは全然悪くないよ。
ぼ、僕が・・・頼りなかったから、弱かったからいけないんだよ。もし、エリーナが薬草を使ってくれなかったら僕は・・・死んでいたかもしれない・・・」
暫く沈黙が流れた。
エリーナがその沈黙を破るように、
「・・・もう少し探そっか」
エリーナは再び周辺の草むらを捜し始めた。
ーー夕暮れ。
もう時間的に限界である。
遠くで魔物の叫び声が聞こえ始めた。
「エル・・・もう諦めよ・・・」
魔物の叫び声に両肩を抱えるエリーナ。
「駄目だ! 僕は絶対諦めない」
エルは地面に這い蹲り土と埃に塗れになりながら必死に月光草を探す。
双子姉妹の約束と自分を助けてくれたエリーナの為に。
何としても! 草を搔きわける。
何としても! 茂みを薙ぎ倒す。
何としても!身を粉にして這い蹲る。
何としても! 何としても! 何としても!
頼む。 頼む。頼む。 頼む。頼む。 頼む。
エルは初めて奇跡が起こるのを目の当たりにした。
「エル・・・わたしーーーー」
エリーナが悲痛な思いを言いかけた時、
エルが勝ち誇った笑みをエリーナに見せた。
「エリーナ、諦めなければ奇跡だって起こせるんだ‼︎」
まるで自分の考えが正しかったと証明するように、エルの手には青白く光る草が握られている。
「エル・・・良かった・・・
私・・・もう諦めてた・・・」
エリーナは諦めてた心が救われ安堵の表情を浮かべた。
「きっとまだ間に合う急いで戻ろう!」
エルはそう言うと、青白く光る草をズボンの右ポケットに突っ込んだ。
☆ ☆ ☆
シンラの森からエルとエリーナが駆けつけた。
玄関のドアを開け奥の部屋に入ると、
ミレアとクレアのすすり泣く声が聞こえる。
「・・・ミレア、クレア・・・」
エリーナの声にゆっくりと振り返る双子の姉妹。
「おねえ・・・ちゃん・・・」
「ママが・・・ママが・・・」
ぼろぼろと涙を流している。
エルはエリーナに青白く光る薬草を渡す。
「ほら約束の月光草よ・・・」
ミレアの手に薬草を渡すと、コジコジと涙を拭いながら、「ありがとう」と薬草を受け取った。
「ママ、これでママの病気治るかもしれないよ」
ミレアが母親の顔の前に薬草を見せると、
母親は弱々しい力でミレアの手を握った。
「もう、お母さんは助からないわ・・・」
「そんな事ない。この薬草があればママの病気は治るもん」
母親をゆっくりと横に顔を振る。
「・・・ごめんね。もうお母さん・・・ダメみたい・・・くれあ、みれあ・・・きて」
「まま、まま・・・」
「う・・・ひく・・・う・・・」
「ごめんね・・・何もしてあげれなくて、
ごめんね・・・何も残してあげれなくて、
・・・弱いママでごめんね・・・
ママは・・・あなた達が大好き・・・
ずっと、ずっと・・・大好きよ・・・
ママの・・・ままの・・・娘に産まれてきてくれてありがとう・・・」
すっと、母親の手から力が抜けた。
母親の瞳に双子の笑顔の顔を思い浮かべるとそのまま静かに瞼を閉じた。
「・・・まま?」
「ママ・・・ねえ、ママ?」
「目を覚まして・・・」
「お願い・・・起きてよ・・・」
双子姉妹は冷たくなっていく母親からいつまでも離れようとしなかった。
エリーナの目からは止めどなく涙が溢れていた。
もしあの時自分が直ぐに薬草を届けていれば助かったのかもしれない。
そればかりが頭の中を巡っていた。
エルは罪悪感に耐え切れず部屋から出た。
最初から全て分かっていた。
シンラの森の出発前に母親と話した時から、もう病が全身を襲い、助かる見込みは無い手遅れだと分かっていた。
それでも1パーセントの可能性を信じて月光草を捜した。
間に合わなかったーーーー。
もしかしたら間に合ったのかもしれない。
エルが瀕死の重傷にならなければ、エリーナが自分に月光草を使わなければーー。
「ごめんね・・・僕は・・・」
必死で頑張った結果、何も出来なかった。
母親を救えずみんなを悲しませた。
改めて自分の弱さが浮き彫りになった。
僕は何でこんなに弱いんだろう。
僕じゃなければみんなを幸せに出来たのかな?
静寂の夜空にすすり泣く声が響いていたーー。
* * * * * * * * * * * * *
「お姉ちゃん、お兄ちゃんありがとう」
「ありがとう」
双子の姉妹がお墓の前で腰を折り頭を下げる。
「うんん、私こそ力になれなくてごめんね」
エリーナは眉をハの字に曲げ肩を落とす。
「ーーそんなことないよ。お姉ちゃん達が薬草を持って来てくれた時凄く嬉しかった。
約束守ってくれて嬉しかったよ」
「本当だよ。私たち嬉しかったよ」
双子の姉妹はエリーナをじっと真っ直ぐ澄んだ瞳で見つめる。
「ミレアちゃん、クレアちゃん・・・ありがとう・・・本当にありがとう」
エリーナは膝を折ると、ミレアとクレアを同時に抱き寄せてギュッと抱きしめた。
双子の姉妹の「ありがとう」の一言でエリーナの心に支えていた物は全て洗い流されていた。
「ミレアちゃん、クレアちゃん・・・お母さんから手紙だよ。もしもの時が来たら渡すように言われていたんだ」
エルはそっとミレアに手紙を渡した。
手紙の字は少し震えているが、ミレアとクレアにとっては見慣れた母親の字そのものだった。
「ママ・・・」
「うん・・・ママの字・・・」
* * * * * * * * * * * * *
ミレア・クレアへ
この手紙をあなた達が読んでるってことは、
ママは夜空のお星様になっています。
もうあなた達をぎゅーーっと抱きしめることも、頭を撫でてあげることも出来ません。
あなた達が泣いている時に慰めてあげることも・・・。
でも、これだけは覚えていてほしい。
ママはあなた達の笑った笑顔が大好きです。
だから、どんなに辛くても姉妹仲良く笑っていてね。
ママはずっとずーっと大好き。
ママの自慢の娘です。
ママの娘に産まれてきてくれてありがとう。
いつまでも見守っています。
ママより。
* * * * * * * * * * * * *
「ママ・・・」
「ミレア、泣かない!」
クレアが涙を拭うと、お墓の前で無理矢理の笑顔を作りニコッと白い歯を見せた。
「私たちが・・・泣いてたら・・・ママが悲しむから・・・」
「ママが・・・安心して、天国に行けないから・・・」
だから、最後はママに笑顔を見せてあげたい。
姉妹は涙をぐっと堪え二人揃って笑顔を見せてた。
まるで、私たちは大丈夫だよ。
だから、安心してね。
と、メッセージを送るように・・・。
姉妹の瞳から一粒の雫が滴り、光となり消えたーーーー。
まだ昇ったばかりの朝陽に双子の姉妹の笑顔が眩しく見えたエルとエリーナだった。
お墓に供えられた月光草が風に揺れていたーー。
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