双子姉妹との約束①
薬草。
この世界における薬草はそのまま使用する訳ではない。薬草をすり潰して抽出したエキスをポーションにして使用する。
ポーションは万能薬では無い。
ある程度の体力消費、傷は回復するが病には余り効果が無い。
毒・麻痺・呪いを消す効果も無い。
あくまでも傷と体力回復にしか効果は無いと言われている。
ポーションの中でも稀にある高級品ハイポーション。薬草の中でも非常に貴重な月光草から抽出される。
ハイポーションはどんな重傷者でもたちまち回復させられる万能薬と言われている。
月光草が取れる場所は不明で幻とされているーー。
「ちょっとあんた待ちなさいよ」
エリーナがエルの後を息を切らしながら追いかけて来た。
「・・・あの子たちが一瞬ね。僕と重なって見えたんだ」
「えっ?」
エルは背後にいるエリーナを目をくれずに静かに話し出した。
「父さんが病にかかってさ。診療所まで走ってお医者さんに家まで来てって頼んだんだ。
お医者さんは来てくれなかった・・・。
お金がたくさんかかるよって。払えないでしょって。
どんなに頼んでも、どんなに叫んでも僕の声は誰にも届かなかった・・・。
僕が父さんを見殺しにしたんだってずっと思っていた。何も出来ない自分が悔しかった」
「・・・・・・」
「ーーけど、あの子たちは違う。
自分たちで行動をおこしてる。
あの時の僕よりもずっと、ずっと立派で勇気がある。
あの子たちの力になりたいんだ。
例えその先の答えが間違っていようとも、
可能性が1パーセントでもある限り」
「うん。がんばろ・・・」
☆
短刀を右手に握り締めてただ必死に前に進む。
振って、振って、振って、振って
ミレアとクレアの姉妹の思いを込めて剣をがむしゃらに振った。
一歩、一歩、森の最深部を目指してーー。
そこに月光草があるとは限らない。
けど、あると信じて今は進む。
「ねえ、あんた薬草の生えている場所分かるの?」
「うん。実は昨日、その薬草を偽勇者と取りに行く所だったんだ。その薬草を売って一儲けするって目的でこの森に入ったんだ」
「そうだったんだ・・・。っで薬草はありそうなの?」
「・・・分からない。最深部まで到達してないしこの周辺には全く生えてなかったよ」
「うん・・・確かに私も周辺に身を凝らして見てたけど全く生えてないわね」
エルとエリーナの視線の先には雑草が生い茂っているが薬草というレアな類いは生えていない。
残念そうにエリーナが肩を落としていると、
「残念がっている暇はないよ」と、エリーナの肩をポンと叩くとエルは再び、シンラの森の最深部を目指して進むーー。
エルはその後5回程の戦闘になったが全て無傷で魔物を殲滅させた。
聖剣エルリーナの影響は大きいが何よりもエル自身が戦闘に慣れてきたのが大きい。
後は剣の師匠に弟子入りし本格的に剣の型を修行したい所だ。
エルとエリーナは昨日、ミレア、クレアの姉妹と出会った所までやって来たーー。
「ここまで成果なしか・・・」
「うん。予想はしていたけど本当に薬草って生えてないのね」
「やはり最深部を目指さないと駄目なのかもしれないね。先を急ごう」
「ええ・・・」
エリーナは誰かに見られている殺気を感じ振り返るがそこには何も無かった。
気のせいだと思い首を傾げながら先に行くエルの後を追いかけた。
茂みにひっそりと息を殺し今か今かと、その時を待っている影がいた事を知らずに。
☆
「姫え、姫はまだ見つからんのか?」
「はっ、今全力で国中探しております」
「全力で探しているのにもう二日目だ。
なぜ見つからん?」
「推測ですが、何者かが匿っている可能性や逃走に荷担する者がいる可能性があります」
「ぐっ、、何としても連れ戻すのじゃ。
この際、懸賞金をかけても構わん。
手助けする者、荷担する者は処罰せい!」
「仰せのままに」
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『 目撃情報求む エリーナ姫誘拐される。
有力情報には報酬 100,000ルピー
誘拐犯討伐とエリーナ姫保護者には500,000ルピー
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「姫様が誘拐・・・」
「この厳重なノイシュヴァンシュタイン城に忍び込んだって事か?」
国中がこの前代未聞の号外に騒ついていた。
瞬く間に世界中に広まったエリーナ姫誘拐事件に世界中の関心が集まった。
「お久しぶりです国王様」
「おお!君はシュナイデル君か、来てくれたのか」
国王に久々の笑みが戻ったと同時に安堵の表情を浮かべた。
国王をここまで安心させる信頼関係のあるシュナイデルと呼ばれた青年、貴族間の中では最強の剣術の腕前を持つ人物である。
剣術の腕前なら冒険者に匹敵する程である。
実際、国王はこのシュナイデルをエリーナ姫の将来の婚約者として未だに考えているのである。
「はい、勿論です。実際・・・その姫は本当に誘拐なのですか?」
シュナイデルは誘拐の可能性は極めて低いと最初から疑っていた。別の可能性が高いと読んでいる。
「んん・・・」
渋い表情で言葉を詰まらせる国王を見て、
ホッと胸をなでおろす。
シュナイデルの中の仮説が立証された。
「ーーですよね。家出・・・ですか?」
「シュナイデル君・・・その・・・内密に頼むよ」
「勿論です!私が必ず連れ戻してみせますよ」
「シュナイデル君、姫を頼む」
「はい、このシュナイデルにお任せください!!」
シュナイデルは気合が入っていた。
国王にアピールする絶好のチャンスだ。
シュナイデルは一目見た時からエリーナ姫に惹かれていた。
しかし、何度アピールしても見向きもされなかった。
シュナイデル自身、背は高く美形の顔立ち、サイドを綺麗に刈り上げて前髪をアシンメトリーに流している。誰が見ても一目でイケメンと分かる。それ故、数多くの縁談があったが全て断っていた。それも全てエリーナ姫の為だ。
そして何より貴族の名家、グリューネ家の長男なのだ。
国王としてもこの上ない縁談の相手であり人柄も悪い噂など一切聞かない。
まさに理想の相手なのだ。
シュナイデルはノイシュヴァンシュタイン城をちらりと一目すると、馬を走らせた。
エリーナ必ず僕が君を見つけ出し、城に連れ戻すよ。
君は僕と結ばれる運命にあるんだからね。
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