戦い未だ終わらず 1
今回の舞台は“世紀末の帝國”と同じ世界。休戦協定の締結を翌日に控えた欧州戦線。連合軍の一員として派遣されている帝國陸軍の守る街です。
1946年8月14日 ドイツ マルクトレドヴィッツ
第二次世界大戦欧州戦線は膠着状態に陥っていた。ジュネーブで休戦交渉が行なわれている中で連合、枢軸両軍はエルベ川や山地といった自然の要害を間に挟んで睨み合いを続けていたのである。マルクトレドヴィッツはそんな最前線の一部になった街なのである。
マルクトレドヴィッチはフィヒテル山地の一角を成していて、かつてのドイツとチェコスロヴァキアの国境から15キロの位置にありチェコ側の街ヘプに続く4つの街道が合流する交通の要所である。今はかつての国境線がそのまま両軍を分ける戦線になっているので、その重要性は増している。その街の防御を任されたのは日本陸軍第1軍(軍団扱い)であった。
第1軍は4個師団をもってフィヒテル山地一帯を担当していて、大規模な会戦は起きていないものの山地を構成する800メートル級から1000メートル級の山々に築かれた陣地を巡って一進一退の攻防をドイツ軍相手に繰り広げていたのである。そして第1軍はマルクトレドヴィッツに第三師団を派遣してその防備を任せていた。
マルクトレドヴィッツ郊外に置かれた師団司令部では作戦会議が行なわれていた。
「山地での戦いは我々が有利に進めています。問題は街道です。現在、我が師団に配属されている戦車連隊を中心に防御線を敷いておりますが、シャーマン戦車ではドイツ軍の新型戦車相手に分が悪い。待ち伏せならばともかく、遭遇戦になると危険です」
作戦参謀が前線の状況を師団長に報告した。無論、強力なドイツ戦車に対抗する術は存在しないわけではない。バズーカなどの歩兵用対戦車兵器も豊富であり近接戦闘を挑む手もあるだろう。だが危険も伴う。戦車に対抗するならば、より強力な戦車で挑むのが一番なのである。無論、彼らも軍人なのだから兵の命を惜しむようなことはしない。しかし戦況に決定的な影響を与える激戦の最中ならともかくとして、休戦を目前にした小競り合いで無為に兵を失いたくないと考えているのである。
「斥候隊の報告ではドイツ軍部隊の中には新型の虎戦車の存在が確認されました」
情報参謀が作戦参謀に続いて指摘した。ティーゲルII戦車。70t近い重量に強力な88ミリ砲を搭載する。連合国軍からはキングタイガーと呼ばれるその戦車は間違いなく今大戦における最強戦車の1つに数えられるであろう。
だが師団長はいかにも余裕といった表情をしている。
「その点は心配ない。連合軍司令部もここの防備に関して関心を抱いているようでね。新型戦車を装備した部隊がこちらに派遣されることになっているんだ。明日、到着するらしい」
マルクトレドヴィッツ市街
鷲峰一郎は新任の少尉である。彼は士官学校本科を卒業すると早速、欧州に派遣された。そしてアメリカ兵の運転するジープに乗って彼は配属された第三師団を目指してマルクトレドヴィッツまでやって来たのである。
ジープが止まると鷲峰が荷台から飛び降りた。振り向いて、運転手に別れの挨拶をすると司令部を目指して歩き出した。しかし鷲峰はその途中で大変なことに気づいた。
「司令部、どこだ?」
彼は司令部の場所を知らなかった。すると彼は兵士の一団を見つけた。彼らが敬礼をしたので、鷲峰は答礼をして訪ねた。
「1つ聞きたいことがあるんだが」
「お尋ねしたいことがあるのですが」
兵士たちの代表らしい1人の二等兵が鷲峰とほぼ同時に言った。
「少尉殿から」
「師団司令部への行き方を知らないか?着任したばかりで」
「すみません。実は私もそれをお尋ねしようと思っていたんですよ」
「そうか。じゃあ一緒に探そう」
鷲峰は兵士たちを率いてまた歩き出した。改めて街の様子を眺めると、砲撃を受けたのか損傷した建物が目立つ。それを見るとここは戦場なのだと思い知らされる。
すると前からまた兵士の集団が現われた。彼らは2人1組で担架を持って運んでいる。そして担架は5つ。担架の上には人が乗っているようで、その上に布が被せられている。しかしどれもぴくりとも動かない。そしてその集団を1人の軍曹が率いてる。鷲峰が下士官を引きとめた。
「君、訪ねたいことがあるんだ。師団司令部はどこにあるのかね?」
「新任ですか?これを引き渡してから案内します」
軍曹は担架を指した。
「ここで待っていてください」
「ところで戦死者かね?戦闘があったのか?“今は全戦線で膠着状態で、どこも大きな動きはなく安定している”と聞いたのだが?」
「はい。戦死者です。そして大規模な戦闘もありません。毎日、何人か死ぬ。これが日常ですよ。お偉さま方には“大きなこと”ではないでしょう」
それだけ言うと集団を率いて軍曹は去っていった。
(改訂 3/19)
実在の人物が登場するシーンをカット