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異世界情景  作者: 独楽犬
22/33

カサンドラの風車 6

ホーレン公国首都ぺトナ

「やっちまったなぁ」

 殿村はベッドに腰掛けて頭を抱えていた。その様子を穂村は冷ややかな視線で見つめていた。

 結論を言えば説得は完全に失敗した。その原因は聖職者を侮辱するような殿村の言動である。そのために会談は決裂してお開きになった。殿村が事の重大さに気づいたのは日が沈み、ようやくぺトナに戻った頃であった。外交官として穂村は殿村の軽率な発言にあきれ果てていた。

「あなたが居る限り、カサンドラ伯爵は交渉に応じないと思いますよ」

 穂村の指摘に殿村は「だよなぁ」とため息をついた。本国に交替要員を要請すれば、殿村が出世コースから外れるのは間違いないだろう。

「とりあえず明日、ホーレン公に相談してみますか」

 穂村は次善策を提示すると、殿村は早速飛びついてきた。

「そうだな。きっといい知恵を貸してくれるだろうな」

 そのすがる様な殿村の表情は穂村にはえらく情けなく見えた。会談の時の強気はどこに消えたのやら。



 その頃、マルティンは殿村に頼られていたホーレン公と向き合っていた。

「ホーレン公。それでも貴方はあの不信心者どもの言うとおりにするというのですか?」

 殿村の言葉は司祭とマルティンを酷く傷つけ、怒らせていた。だから殿村たちと一緒にぺトナへとホーレン公に直訴しにやって来たのだ。

「君の言いたいことは分かるが、しかし彼らの資本や技術は我が領土の発展に不可欠だ」

「領民を犠牲にした発展などにどんな価値があるというのですか?奴らは信用できません。奴らは疫病は司祭様の仕業だと言い張ったのですよ!」

 マルティンの語った殿村の言動は改革派のホーレン公も動揺させた。

「それは本当のなのか!」

「はい。私は司祭様が信頼できる人物であると約束しました。司祭様も身の潔白を訴えました。私達はそれを神に誓ったのです。しかし、あの日本人はそれを信用に値しないと言ったのです!」

 信心深いエフタル人にとって“神に誓う”とは大変重い言葉である。それを否定するのは最大限の侮辱だ。

「奴は神を信じていないのです。エトナ教会の信者ではないという意味ではありません。あらゆる神を信じていないということです。その意味が分かりますか?」

 信心深いエフタル人が最も恐れるのは異教徒ではなく無神論者である。信仰心を持つ者はどんな信仰にしろ、信じる神を超えることはできない。決して超えることの出来ない一線というものが必ずあるのだ。しかし信仰を持たぬ人間にはそれがなく、時に自らが神であるかのごとく振る舞いかねないのだ。

「あの者も、それにあの者の背後にいる者たちも何を企んでいるか分かったものではありません。日本人との関係を清算すべきなのですよ」

 必死に訴えるマルティンに対し、ホーレン公は深呼吸をして心を落ち着かせて冷静に言い聞かせた。

「なるほど。確かに日本政府は人選を間違えたようだ。誠実な対応のできる人間を新たに派遣し、問題を解決するように日本政府に要請しよう」

「まだ日本の言う“近代化”とやらに協力しようというのですか!その為に民が苦しんでいるというのに…!」

 あくまでも食い下がるマルティンに対してホーレン公は声を荒げた。

「現実を見ろ!マルティン。もう日本抜きでは何もかもが成り立たないんだ。時代は変わった。我々はそれに従わざるをえないんだ」

「その為に民を犠牲にしろと?」

「そうは言っておらん。しかし、目を背け、背を向けているだけでは何も進まんと言っているのだ」

 日本と手を切るつもりはない、というホーレン公の確固たる態度にマルティンは言葉を失った。決して良い関係を築いていたとは言えない両者であるが、マルティンはホーレン公を領邦君主としてそれなりに信頼をしていた。そして最後に頼ったその信頼は脆くも崩れさってしまった。

「分かりました。それがあなたの結論なのですね」

 震える声でホーレン公にそう告げると、マルティンは彼に背を向けた。

「伯領に一度帰らせていただきます」

「うむ」

 意気消沈して帰っていくマルティンの姿を見送ったホーレン公はその時、なにか嫌なものを感じた。



カサンドラ地方

 翌朝、自分の屋敷に戻ったマルティンのもとに古くからの家臣や思いを同じくする有力者が集まった。殿村と激論を交わしたあの会議室に彼らを集めると、厳かに宣言した。

「諸君。私は日本の使者、それにホーレン公と話をした。しかし彼らにはあの忌々しい病気の源を撤去するつもりは些かも無い。ホーレン公も日本の操り人形になっている」

 皆、予感はしていたとは言え、完全に出口を塞がれてしまったというマルティンの告白の衝撃は大きく、動揺して押し黙っている。

「もはや、このカサンドラに安然の日々を取り戻す方法はただ1つしかない。ホーレン公国より離脱し、カサンドラの独立を取り戻す!」

 予想外の言葉に消沈していた参加者全員が目を見開かせ、マルティンの顔を見つめた。

「それはどういう意味ですか?」

 参加者の1人、地元の有力商人が訪ねた。

「とても中央政府が認めるとは思えませんが」

「勿論そうだろう。我らの願いを皆で叩き潰そうとするに違いない。だが、やるしかない」

 それを聞いて皆が気づいた。マルティンは独立戦争を仕掛けるつもりなのだと。誰もがそこから話を進めることに躊躇した。誰もが発電プラントへの恐怖、そして日本とホーレン公に恨みを抱いていた。その一方でマルティンの主張はあまりにも非現実的で危険なものであった。

 次になにをすべきかが分からず、押し黙る参加者達。その中で1人の男がおもむろに両手を挙げた。

「カサンドラ独立、万歳!」

 それを皮切りに参加者達が次々と動き出した。

「カサンドラ独立、万歳!」

「独立万歳!」

「万歳!」

「万歳!」

 独立を謳う叫びは屋敷中に響いた。

あと1~2回で終わると思います。

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