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異世界情景  作者: 独楽犬
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オペレーションC.C.

深海「あれ?英連邦ニッポンはまだ終わってないだろ?」

神楽「いやぁ、この後のストーリーがなかなか煮つまらなくてねぇ。結局、一時中断だってさぁ。まぁ気長お待ちください」

深海「・・・」

 皇紀2670年(西暦2010年)の春先、大日本帝國中をあるニュースが震撼させた。

『中華人民共和国が正規空母建造を正式に発表。2020年までに機動部隊を実戦配備』

 昔から中国海軍に注目をしていた者は驚きはしなかった。中国が空母保有を目指しているのは公然の事実であったし、露骨に対外進出へと方針を改め遠洋海軍への道を歩む中国海軍にいかに立ち向かうかは帝國海軍にとって重要な関心ごとであった。中国が太平洋、東南アジアへと進出しようというのなら膨大な海洋利権を有する日本との衝突は必至であり、関係者は長年その準備を進めていたのである。

 しかし世間は違った。マスコミは中国の空母建造をセンセーショナルに煽り、まるで明日にも中国と日本の間で戦争が勃発するかのように報じたのである。人々は中国の覇権主義に脅え、軍事支出拡大に後ろ向きな現政権に批判の矛先が向けられた。日本中がある種のヒステリーに襲われたようであった。

 そのような世間の動きに時の政権も反応せざるをえなかった。帝國議会の主要7政党のうち、4党から成る連立政権はそれまでの方針を改めて来年度より軍事予算を大幅に増加させること決定した。それとともに関係各所に中国の覇権主義に立ち向かう最善の方法を提案するように呼びかけた。それは秘密裏に指示されたものであるが、いくつかの提案は外に漏れた。例えば“東南アジア諸国との連帯を強めて、各国の防衛力整備には力を貸すべきである”“それらの国々が日本の兵器の導入を望むのであれば、積極的に応じるべきである”と言ったものだ。

 日本全体が中国との新たな“戦争”に向けて動き出していたのである。


 その日、ある政府関係施設の中ではパーティーが開かれていた。会場の正面には『C.C.作戦成功記念式典』と垂れ幕が張られていた。作戦を実行したCIRO―内閣情報調査局―において実行責任者である三輪明博は参加者を代表して挨拶をすることになった。

 演壇の前に立った三輪は一礼して挨拶を始めた。

「皆さん、皆様方の厚い支援のお陰でC.C.作戦は最終段階に達しました。その点につきまして実行責任者として感謝の意を表したい」

 会場に集まった参加者から拍手が沸き起こった。C.C.作戦、それはCIROが主導して前代未聞の対外工作作戦であった。

 作戦の概要はこうである。まず中国の現地工作員が空母推進派の人民解放海軍将校と接触して支援・指南をする。さらに空母非推進派にはスキャンダルを用意して失脚させる。さらに中国でも発達しつつあるインターネット網でも空母保有を訴える世論を形成させる。さらに外務省の外交官には中国関係者と接触した際には“いかに空母の存在が外交上有用であるか”をさり気なく伝えるようにさせる。こうした様々な工作活動の結果が、中国政府の発表だったのである。空母建造が中国の明確な政府方針となった。こうなってしまえば作戦は9割がた成功である。

「中国海軍が空母の建造を始めるということは、他のより実戦的、より脅威となる兵器システムに投入される資源が減少することになります。例えば潜水艦。例えば台湾海峡を勢力圏に収める強力な陸上航空部隊、例えば大兵力を輸送可能な水陸両用戦部隊であります。これらの戦力は我々が最も警戒すべき兵力であります。しかし、空母への資源集中により、それらの兵力の整備は鈍ることは間違いありません」

 空母という兵器システムがいかに金食い虫であり、海軍にとって大きな負担となるかはフランス海軍が如実に示している。かの国の水上艦隊は空母へのリソースのために戦わずして壊滅的な状況になっている。また欧州には小型空母を保有している国が多いが、NATOであるとかEUであるとか多国間同盟に頼らなければ有効な艦隊を組む事ができないのである。そういった事例を見れば空母の保有が必ずしも海軍力の増強にならないばかりか、結果として海軍そのものを弱体化させるかもしれない諸刃の刃であるということは明らかなのだ。

「我々が最初にこの作戦を提案した時、ある海軍将校はこう断言しました。『中国が空母機動部隊を建造したとしても、帝國海軍は十分にその行動を封じることができる』と。さらにこうも言いました。『現在の中国海軍の対潜能力の水準を考えれば、帝國海軍は「中国近海に原潜を1隻配備している」と記者会見すれば、中国海軍機動部隊は外洋に出るのに慎重にならざるをえなくなる』とも言いました」

 それもまた歴史の経験によって裏付けられた言葉であった。かつてイギリスに奪取された島嶼の奪還を試みたアルゼンチンの試みは、空母まで保有するアルゼンチン海軍の作戦がたった1隻のイギリス原潜に古い第二次大戦型の巡洋艦が撃沈されただけで頓挫したことにより崩壊したのだ。

 半永久的な水中作戦行動を保障する原子力機関を搭載した潜水艦が行動しているかもしれない―本当に行動している必要さえない!―海域は水上艦隊にとっては地雷原も同じである。本当に危険かどうかは実際にそれを踏んでしまった時にしか分からないのだ。しかも潜水艦は地雷と違って自由に移動でき、しかもずっと賢い。

 それは中国に立ち向かわなくてはならない帝國海軍やアメリカ海軍も同じである。中国海軍の潜水艦隊の質的・量的な増強こそが日本やアメリカの最も恐れる状況なのだ。それに比べれば小数の空母はずっと対応しやすい相手である。

「かくして我々は作戦に踏み出すことができたのです。その結果、我々は我が帝國の国防力、抑止力を実質的に向上させることができたのです。これほどまでに明確に、しかも鮮やかに成功した謀略作戦を私は知りません」

 三輪は心の中で“ついでに軍の使える予算も大幅に増えました”と考えたが、口に出しては言わなかった。公式―非公然の作戦に公式もへったくれもないが―には、この作戦の目的はあくまで“増大する中国の海軍力を平和裏に削り、帝國軍の抑止力を実質的に向上させる”ことであり、国防予算のかさ上げはあくまで副次的効果とされている。しかし、作戦計画に軍から出向して参加した者には後者も同じくらい、ないし、より重要な目的と考えていた筈である。

 勿論、空母機動部隊を建造するしないに関係なく中国の軍事予算は増加し続けているが、国防問題に関心のない多くの臣民にとってそれは何万光年先で起きた出来事と同じことなのだ。それよりアフガニスタンやイラクで、一部の識者が言うところの“アメリカの犬に成り下がって”―それが日本の国益にとって重要な派兵であることをは当然のように無視された―泥沼の死闘を続ける事への関心と批判が大きく、臣民は軍事費の増大には否定的な世論を形成している。というわけで軍備予算獲得には中国の軍備拡大を象徴するようなシンボルが必要であったのだ。かつて冷戦時代にソ連脅威論のシンボルとなった空母ミンスクのような。

 さらに三輪は会場の奥まったところに造船業関係者が集まっているのにも気づいた。日本と異なり海軍力、空軍力とも十分とは言えない東南アジア諸国は中国軍の空母保有をより実質的な脅威と捉える筈である。そして、手っ取り早く海軍力を底上げする手段となるのは潜水艦戦力の増強だ。潜水艦調達の相手に日本を選ぶ国もあるだろう。遅れをとっている日本の造船業者もドイツとロシアが多勢を占める潜水艦市場に食い込むいい機会に違いない。

「それでは我が帝國の安泰を祝して、乾杯!」


 様々な人々の思惑が絡み合い動き出したC.C.作戦、すなわち中国(チャイナ)空母(キャリアー)作戦。それがどんな未来を日本にもたらすが、まだ誰も知らない。

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