英連邦ニッポン 4
東部標準時10月26日午前7時
キューバ沖
アメリカ海軍駆逐艦ジョン・R・ピアースの艦橋で艦長は心の中に生じている恐怖と不安を部下に見せまいと必死になっていたが、うまくはできなかった。周りの乗組員も艦長の落ち着かない様子に緊張を高めている。
24日の海上封鎖発動以来、キューバへ向かうソ連船は封鎖海域の外で揃って停止し、様子をうかがっている様子であった。それにピアース号の艦長をはじめとするアメリカ海軍の将兵は安堵した。どうやらソ連はアメリカと一戦を交えるつもりは無いようである。
ところが今日になって突然、現れた貨物船が封鎖海域に侵入したのである。それがピアース号の目の前を進む貨物船だ。
別に目の前を進む“敵”が怖いというわけではない。相手はただの貨物船である。ピアース号を沈める武器など搭載してはいない。
問題は、その船がなにかを積んで封鎖中のキューバに向かっているという事実であった。彼らは昨日午後5時にアメリカ海軍の封鎖海域に侵入し、ピアース号が追尾を続けていいた。キューバに向かう船に対しては臨検を実施し、合衆国に脅威となる物品を載せていないかどうか検査をしないといけない。命令に従い既に大統領に対して強制的な停船と臨検を実行する許可を求める通信を送っている。大統領からGOサインが届けば、それはただちに実行される。
ここでピアース号の乗組員が対応を少しでも誤れば、そのまま第三次世界大戦に発展しかねない。乗組員は誰しもが自分の故郷にソ連の核ミサイルが落下する瞬間を思い浮かべては神に祈った。そして誰もが自分たちの名前が歴史に残らないことを願った、第三次世界大戦の第一撃を実行した者として。
そこへ通信員が受領した通信文を手に艦橋へやって来た。
「艦長、ペンタゴンより直接命令です」
ペンタゴンには国防長官と海軍作戦部長が待機しており、大統領の命令が彼らを通じて直接伝達されることになっている。
艦長は通信員から通信文を奪い取るように受け取ると、芽を通した。予想通りの内容であった。
「これより貨物船を臨検する。停船命令を出せ」
スピーカーを通してロシア語が使える乗組員による停船勧告が流される。しかし貨物船はまるで何事も無かったかのように進みつづける。
「よし、威嚇射撃だ」
艦首の5インチ連装砲が貨物船に向けられる。
「撃て!」
同刻 蝦夷
日本空軍所属のキャンベラのほぼ全ての機体が出撃待機状態であった。目標は当然、ソ連であり、千歳基地の部隊にはハバロフスクが目標として与えられていた。
連日、低空侵入訓練を繰り返したパイロット達の緊張は俄然高まっていた。
「やっぱ戦争になるのかな?」
そんなパイロットの1人が呟いた。
「まさか。さすがにソ連もアメリカに本気で喧嘩を挑もうとは考えないだろう」
同僚が言った。
「だが、何事にも予想外の出来事ってのはあるもんだぞ?」
キューバ沖
臨検隊が内火艇から問題の貨物船に乗り込んでいくのが艦橋から見えた。貨物船に抵抗の様子は見られない。それは良い兆候であったが、いつ事態が急変するか分かったものではない。艦長たちにはすさまじい重圧がかかっていた。
やがて臨検隊が通信を送ってきた。
「禁制品は積まれていない。積み荷はすべて非軍事物資だ」
それを聞いて艦長は全身から力が抜けていくのを感じた。とりあえず最悪の状況は回避されたようだった。
「よろしい。キューバへの航行を許可する」
貨物船は何事も無かったかのように悠遊とキューバへと向かっていった。その様子を眺めながら艦長は思わずため息をついた。それを見ていた副長が艦長に尋ねた。
「こんなことが何時まで続くんでしょうね。このままではみんな、持ちませんよ」
全面核戦争の危機の渦中に放り込まれて、乗員たちはずっと緊張状態にあった。もはや限界は近い。しかし艦長は答えを持ち合わせていなかった。
「どうだろうな」
すると通信士がテレックスを手に艦長のもとへ駆け寄ってきた。
「艦長。緊急の報告です」
その声はどこか浮かれていた。艦長はテレックスを手にすると、すぐに目を通した。
「なるほど。これはいい傾向だ」
そこには封鎖海域の外で様子をうかがっていたソ連船団が進路を変えて、本国への帰途についたという報告であった。ソ連はアメリカ海軍に挑むことを回避したのだ。
「我々の勝利ですね」
副長の表情が緩んだ。だが艦長はまだ気分が良くはならなかった。
「どうだろうなぁ」
艦長は改めてキューバへ向かう貨物船の見た。彼らが向かう先には、まだアメリカ本土へと向けられた核ミサイルが存在しているのだ。
というわけで割り込み投稿機能を使って久々に続きを投稿してみました。
(改訂 2012/3/19)
実在の人物の名前をカット
(改訂 2016/3/21)
改めて事実関係を調べたうえで、内容を修正しました。