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異世界情景  作者: 独楽犬
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英連邦ニッポン 3

10月25日 日本海 HJMS<翔鷹>

 日本海軍機動部隊は相変わらずソ連潜水艦の追跡を続けていた。ソ連の潜水艦の雑音は大変騒がしいので、追跡は容易であった。

「<桶狭間>から報告。目標丙はズールー級です」

 <桶狭間>はイギリスのバトル級駆逐艦を基に第二次大戦中に建造された日本海軍の主力駆逐艦の1隻である。114ミリ連装高角砲2基とスキッド対潜臼砲を装備して空母護衛の任についている。

「ズールーにフォックストロット…通常艦ばかりですな。虎の子の原潜は出てこないのか…」

 艦長が葉巻を片手に言った。

「なにか原子力機関に問題を抱えているのかもしれないな。それともキューバ沖に集中したいので太平洋では事を荒立てたくないのか…」

 後世で判明した情報によると、どうやらその両方であったようだ。



 この日、地球の裏側―まだ現地では前日の24日であるが―では海上封鎖部隊がキューバ沖に展開していた。第136機動部隊の名称を与えられた封鎖部隊は空母8隻を含む延べ183隻の艦艇を動員した大艦隊であった。さらにアメリカ戦略空軍はデフコン2を発動し、672機の戦略爆撃機と381機の空中給油機が空中待機ないし出撃待機の状態になった。アメリカ合衆国はいよいよ戦闘態勢を整えたのである。



 空母司令部には新たな報告が入った。それは艦載機であるフェアリー・ガネットの編隊からの報告であった。“世界一醜い航空機”とも称されるガネットであるが、レーダーを装備して外気を吸引するために浮上した潜水艦を追跡する能力があった。

「ガネット部隊が潜水艦の潜望鏡らしきものを発見しました。位置は…」

 通信士が報告するとともに、広げられた海図の上に新たにソ連潜水艦を示す駒が置かれた。駒の数は9つになっていた。




10月26日 江戸 首相官邸

 首相と首脳陣はニューヨークの国連特使から現地で行なわれている安全保障理事会の緊急会議について逐一報告を受けていた。ソ連特使は反米気質の強い第三世界の国々の支持を得て会議を有利に進めていた。

「不味いなぁ」

 首相は呟いた。国連の場でソ連の主張が押し通されれば、日本がアメリカ支持の立場を固持するのも難しくなるだろう。

 特使の言葉によればアメリカがキューバにいかに不当な圧力をかけているかを力説するソ連特使の前に、アメリカ特使はたじたじになっているように見えたという。

「おい。今後の対応について再検討する必要があるかもしれない。緊急閣議の準備をしておいてくれ」

 首相は隣に座っている官房長官に指示を出した。しかし、その間に地球の裏側で行なわれている緊急会議の流れは変わりつつあった。




同刻―ただし現地時刻では10月25日― ニューヨーク 国連本部

 ソ連特使はアメリカの行動の不当性を訴えていた。アメリカ特使はソ連の非難に顔を歪ませながら耐えていた。

 そしていよいよアメリカ特使の演説時間がやってきた。アメリカの反撃の始まりである。演壇に立った特使は先ほどまでとは打って変わって自身ありげな表情になっていた。

「それではソ連代表。貴方は、キューバにはソ連の弾道ミサイルは存在しないとおっしゃった。間違いありませんな?」

 アメリカ特使の質問にソ連特使が首を縦に振った。

「そのとおりだ。ミサイルは存在しない」

 それを聞くとアメリカ特使は笑みを浮かべた。

「では、いったいこれはなんなのでしょうか?」

 アメリカ特使は写真が印刷されたパネルを会議室内に集まった各国の代表に見せつけた。それはU-2偵察機が捉えたミサイル陣地の拡大写真であった。会場中がどよめき、ソ連特使も心底驚いたという表情をした。この時、彼はキューバのミサイルの存在を知らされていなかった。

「特使。簡単な質問に答えていただきたい。キューバにソ連の弾道ミサイルは存在するのか?YesかNoか?通訳はいらないでしょう?」

 ソ連特使はこの時、返すべき答えを持ち合わせていなかった。それが真実なのか、それともアメリカが世界を騙すべくおこなった謀略なのか分からない。下手な発言をすれば、祖国ソビエトの外交的な信用を失う事になる。

「その答えは、議論の結果としてやがて明らかになるでしょう」

 ソ連特使のはぐらかしの言葉にアメリカ特使は首を横に振った。

「貴方がそういうおつもりであるのなら、私は答えを地獄が凍りつくまでお待ちしましょう」

 その様子を見た者全員が確信した。アメリカの勝利だ。

(改訂 2012/3/19)

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