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異世界情景  作者: 独楽犬
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英連邦ニッポン 2

10月23日 宗谷海峡上空

 東から太陽が昇り、人々が学校や会社に向かって家を出る頃、千歳の日本王室空軍(ロイヤルジャパニーズエアフォース)基地を2機の戦闘機が飛び立った。日本空軍の主力戦闘機であるグロースター・ジャベリンだ。スクランブル発進である。イギリス初の本格的全天候型ジェット戦闘機として開発されたジャベリンは主に夜間迎撃作戦に投入されている。

 パイロットは地上のレーダー管制に従って目標を追った。やがてジャベリン自身の搭載するレーダーも目標を捉えた。

「デカイ機体だな」

 レーダーの反応は大きい。この大きさの侵犯機となると機種は限られる。そしてパイロットの思った通りの機体が空に浮かんでいるのが見えた。

「見えた。目標を目視確認した。間違いない、バジャーだ!」

 ツポレフ16、NATOコードネーム<バジャー>は1950年代にソビエトが生み出した革新的な爆撃機の1つで、その存在が知られたときにはボマーギャップという衝撃を西側にもたらした。バジャーは空軍では核兵器を搭載して戦略爆撃機として使われ海軍ではミサイルを装備して対艦攻撃機として利用される。日本に対する領空侵犯をはじめとする各種の示威行動に用いられるのもバジャーなのだ。

「南下している。東京急行のコースだ」

 パイロットは管制塔にそう報告すると、継続して追尾するように命じられた。

 長距離爆撃機を日本の太平洋岸に沿って南下させる東京急行は珍しいことではなく、空軍のパイロットたちには日常の一部のようなものであるが、それでもここ数日のようにスクランブル回数は極端に増えたことはなかった。

「いったい、なにが起きているんだろうな」

 パイロットはキャノピー越しにバジャーのケツを見ながら呟いた。



 その頃、アメリカは前日22日の午後7時であった。アメリカ大統領は緊急のテレビ記者会見を行い、キューバにソ連のミサイル基地が建設されていることを発表した。アメリカ中の人々が目の前に突然現われた脅威を怖れ、脅えている中で大統領はキューバにミサイルの撤去を断固求め、海軍を駆使して海上封鎖を決行することを訴えた。




江戸 首相官邸

 大統領は演説台から降りたのを確かめると、徹夜で首相官邸に詰めている首相はテレビの電源を切るように指示した。

「それで首相。どういたしますか?」

 国防大臣が首相に尋ねた。同席していた日本総督も黙って首相の返事を待っている。首相は一度深呼吸をすると、ゆっくりとした口調で切り出した。

「日本も西側の一員として為すべきことを為さなくてはならない。至急、記者会見の準備だ。アメリカの行動を支持する声明を発表する。国防大臣。全軍の警戒レベルを上げるんだ。ソ連軍の行動に注目するように」

 いよいよ日本もキューバ危機と本格的に関わっていく事になるのである。



日本海 日本海軍T型潜水艦HMJS<蛟竜(こうりゅう)

 <蛟竜>はイギリス海軍が第二次大戦中に建造したTボートの1隻で、戦後に日本海軍に貸与された艦である。さすがに旧式化しているので日本海軍はイギリス海軍の最新鋭潜水艦であるオベロン級の導入を検討しているが、配備されるのはまだ先の話である。

「艦長。聴音装置(アスディック)に感あり。潜水艦です」

 聴音手の報告に艦長は即座に反応した。

「艦種特定できるか?」

「友軍ではありません。通常動力艦で、おそらく…ソ連艦です」

 艦長は追尾を決心した。



日本海 航空母艦HMJS<翔鷹>

 ソ連海軍太平洋艦隊の潜水艦部隊が一斉に動き出したという報告は<翔鷹>にも伝えられていた。井村司令官はキューバの危機について報告を受け取っていたので、それが意味するところをすぐに悟った。

「やりにくい状況だ」

 戦争一歩手前。軍人にとっては一番やりにくい状況である。平時であれば距離を保って最低限の礼儀を示せばいい。戦時なら撃沈すればいい。だが今は平時でなく、また戦時でもない。戦時ではないので攻撃を加えることはできないが、平時ではないので艦隊の安全を守らなくてはならない。

 井村提督は彼を待ち受けているであろう状況を考えて、頭を痛めていた。

(改訂 2012/3/19)

 実在の人物が登場するシーンをカット

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