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異世界情景  作者: 独楽犬
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英連邦ニッポン 1

 今回は感想欄での発案を基にイギリス連邦日本国世界です。原案では第二次大戦後にイギリス主導で占領という話ですが、それではそれほど変わらないと思うので開国後にイギリスの植民地となり第二次世界大戦後に独立したという設定にしました。

1962年10月21日 東シナ海 日本王室海軍(ロイヤル・ジャパニーズ・ネイビー)航空母艦HMJS<翔鷹(しょうよう)

 空母<翔鷹>はかつてイギリス海軍に所属し<パイオニア>という艦名を与えられていた。第二次大戦中に航空機の補修と補給を行なう航空機整備艦として活躍し、大戦後に本国では用済みとなったので、英連邦(コモンウェルズ)傘下の国に売りつけることになったのである。買いとったのは日本であった。

 英連邦日本国。1870年代にイギリスの植民地となりイギリス帝国の一角を担った。その後、ロシアが朝鮮半島に進出、占領した為に日本はイギリスとロシアの利権が激突する最前線となったのである。その後、第一次世界大戦と第二次世界大戦に植民地として欧州に兵力を派遣しつつ自治権を拡大していき、第二次大戦後の1947年に独立国となった。まもなく独立15周年を祝う記念式典が首都の江戸で行なわれることになっている。

 ともかく独立国となった日本の海軍に配備された<パイオニア>改め<翔鷹>。その任務はソ連の潜水艦を阻止することである。東西冷戦真っ只中の今日の情勢は、イギリスとロシア帝国が激突していた1900年代初めそのままであり、日本の重要性が俄然高まっていた。



 その日、東シナ海における哨戒を終えて母港の呉を目指す<翔鷹>機動部隊に来客があった。その人物はシコルスキーS-55ヘリコプターをイギリスでライセンス生産したウェストランド・ホワールウィンドに乗り込み、主力艦載機であるフェアリー・ガネット艦上対潜機の並ぶ甲板に着艦した。ホワールウィンドから降りたのは海軍最高司令官である杉江一三(すぎえ いちぞう)提督であった。

 艦橋に案内された司令官は機動部隊司令官の井村少将と対面した。

「いったい何事ですか?提督」

「緊急事態だ。休暇はお預けだ。機動部隊は哨戒任務を継続してもらう」

 杉江提督の“休暇はお預け”宣言に艦橋の空気が明らかに重くなった。井村はその原因に考えを巡らせていた。

「何なんですか?藪から棒に。朝鮮でなにかあったのですか?報告は受けていませんが」

 日本周辺でなにかあるとすればソ連の支配下にある朝鮮である。しかし井村の推測は見事に外れた。

「いや。朝鮮じゃない。キューバだ」




江戸千代田 総督府

「我が空軍がキューバで発見したものはSS-5<サンダル>と思われる準中距離弾道弾です。キューバから発射すればワシントンを攻撃できます」

 かつて江戸城が建てられた場所に建造された総督府に集められた日本の指導者たちを前にアメリカの駐在武官、ロジャー・マッケンジー少将は本国からもたらされた驚くべき事実を報告した。

 集まった指導者は総督サー・ジョナサン・バロー提督、日本国首相、閣僚、それに軍の首脳たちである。

「さらにより大型の中距離弾道弾の存在も確認しています」

「それでアメリカはどのような対応を?」

 首相がアメリカの駐在に尋ねた。

「キューバにミサイルを置くことは絶対に許しません。撤去させるために武力行使を含めたあらゆる手段を実施するつもりです」

 この言葉は日本の首脳を縮こまらせた。日本に直接は関係のないキューバのミサイルであるが、アメリカがなんらかの軍事行動に出た場合には第三次世界大戦に発展しかねない。そうなれば当然、日本も巻き込まれる。

 駐在武官はさらに説明を続けた。

「手始めにアメリカはさらなるミサイルの搬入を防ぐため、キューバを海上封鎖することを決定しました。大統領は明後日、それを発表し実行します。貴国にもそれを支持してほしい」

 第三次世界大戦への発展もありうる非常時にさすがの首相も即答できなかった。




10月22日 蝦夷 陸軍演習場

 日本陸軍では毎年秋に北転演習と呼ばれる大規模な演習が行なわれる。つまり本州以南の部隊が戦時を想定し北海道に大移動するのである。北転機動の演習そのものは前日に終了したが、今日は特別に北海道駐留部隊が北転部隊を相手にまわしての対抗演習が追加され行なわれることになった。

 臨時の演習にみな不満であると思いきや、北転部隊を除いてやたらと士気が高かった。それもその筈である。北転部隊は九州・中国地方の部隊からなる師団で、その中には薩摩近衛連隊や長州近衛連隊などの部隊が含まれているからだ。薩長連合は幕末期にイギリスと手を組んで日本植民地化の原因となったのである。植民地時代にも優遇され、その証拠に薩摩や長州の部隊には“近衛”の称号が与えられている。だから多くの日本人が彼らを怨んでいる。植民地時代に冷遇された会津地方などの人間であるならなおさらだ。

 会津竜騎兵連隊に所属するセンチュリオン戦車の戦車兵たちも64口径83.4ミリ20ポンド戦車砲を本当に撃ちこんでやりたい気分であった。

「しっかし、なんでわざわざ臨時の追加演習なんてするんでしょうね?」

 ある戦車の砲手が呟いた。

「なにかヤバイことが起きているのかもしれないな」

 戦車長が答えた。この時点でまだ現場の兵士たちにはキューバでの異変について伝えられていなかった。

「だが、本当にヤバクなった時には俺たちの出番は無いかもしれないな」

 戦車長は遠くに見える建造物、アメリカ軍が日本に貸与している中距離弾道弾ソアの基地を眺めながら言った。

(改訂 2012/3/19)

 実在の登場人物をカット

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