初めての人間
しばらく、と言っても時間の感覚が曖昧。
それなりにまた時が過ぎたのだと思う。
ここが深い洞窟だと思っていたのは、ゲイルの主観的感覚だったからなのかもしれない。
何しろ移動速度が遅い。
ナメクジが這う速度よりは速いはずだが、時速どの程度かと言われたらよくわからなかった。
今の自分の体の大きさと比較するものが怪しい生物ばかりなのだから。大トカゲだって人間から見たら数センチなのかもしれないし、その場合にアリはそのまま蟻んこの大きさなのかもしれなかった。
だがそれが違うとわかる。わかった。
複数の足音と、話し声。
話し声だ。
会話をする生物が、ゲイルのいる場所に近付いてきている。
足音の響き方からすると、異なる質感のものが地面に接している。普通、同種の生物同士なら、足音の質感が異なるなどということはない。
靴を履いている。
(人間か)
靴を履いて二足歩行で移動している会話を行う生物だとすれば、何か多少の違いはあるかもしれないが種別とすれば人間系統だと思っていいのではないだろうか。
数は、五体。
一人は足音を忍ばせるような靴を履いて気を付けている。
(野生の感覚には意味がないな。人間同士ならわからないかもしれないけれど)
洞窟に潜み住むよう出来ているゲイルにとっては、その程度の忍び足は児戯にもならなかった。
地面に接触しているゲイルの体全てが聴覚の役割も果たす感覚器官なのだから、鋭敏に知覚出来るのは当たり前なのだが。
五人は何かしらの報告らしい言葉を交わしながらゲイルのいる方へ近づいてくる。
大きさは、およそアリと同じくらい。
あのアリは大きいと思ったが、人間と同じくらいの大きさということになる。そしてゲイルはその倍の体積で、大トカゲはさらに倍以上。
何を喋っているのか言葉がわからないが、何かの足跡があるだとか何かを拾得したとかそういうことを報告しているようだ。
(洞窟探検家とか冒険者とか、そういうのだな)
足音の他にも金属の音がするのは武器や何かだろう。
彼らは松明を掲げていて、そこから何かイヤな臭いが広がっていた。
その臭いのせいか、洞窟に広く分布するアリが寄ってこない。便利なものがあるものだ。
ゲイルもその臭いは嫌いだが、逃げ出すほどでもなかった。彼らより大きな体だが、壁の隙間にぬるりと入ってしまえば見つかることはなさそうだった。
「※$#$&~?」
意味の分からないことを言いながら進んでいく。ゲイルの潜む前を、そのまま奥へと。
松明の灯り程度では凸凹だらけの壁の隙間など見えないだろうし、見えてもゲイルが動かなければただの水溜まりのように思うかもしれない。
彼らの武器がゲイルを傷つけられるのかどうかは不明だったが、燃えている松明を当てられたらダメージになるだろう。
体の大きさでは勝っているが、数では圧倒的に負けている。それにどのような攻撃手段を持っているのかも不明だ。
そのままやり過ごす。
彼らの進む先には、ゲイルが警戒する別のものが待っているのだから、やり過ごして彼らの行動を観察してみようと思ったのだ。
あわよくば、どちらかが死体になれば食べられるかも、という気持ちもあった。
※ ※ ※
パーティ『剛の連星』はこの数年間で有名になった五人組の冒険者だ。
リーダーのガランは二十代後半の男性で、彼が中心となってメンバーを集めた。
ガランと同じく接近戦を得意とする戦士のウルバと、斥候のチェイス、治癒と防御を担当するコーズに魔術士のビラセス。
全員を男で組んだことで面倒もない。男という理由だけではなく腕が立つとガランが認めたから組んだわけだが。
女関係で揉めるのは厄介だし、パーティ内に異性がいると気を遣うこともある。命がかかっている時にその遠慮が命取りになることも。
だから最初から本音で話せるような相手だけを選んだ。そしてそれは間違いではなかったと、ガランはそう思っている。
「大したお宝はなさそうだ。メラニアントの大群ってもこの針木の松明さえありゃ姿も見せねえし」
「メラニアント以外にもモンスターは出る。注意しろ」
「へいへい、まあ伝説の魔神でも出てくりゃ面白いだろうに。おっと」
軽口をたたく斥候のチェイスを窘めるが、愚痴っぽい言葉が止まらない。
「あのな」
「まあまあガラン、チェイスの気持ちもわかりますよ。ここまでまともなモンスターの一匹とも遭遇してないんですから」
「コーズの言う通りじゃな。黒涎山の風穴などと恐れられておったが、噂だけじゃったかの」
「ビラセスまで……こういう時が一番危ないんだぞ。なあ、ウルバ」
「……ああ」
ガランの言葉に低い声で頷き返したウルバに、他の三人がやれやれと顔を合わせた。
彼らの気持ちはわかる。ガランとて同じような気分だが、リーダーとして言わなければいけないから言っている。
チェイスが軽口を叩きながらも己の仕事はきちんとこなしているのもわかってはいるのだが。
「少し休もう」
「そうしようぜ。戦闘よりも持ってきた荷物でくたびれるわ」
少し開けた場所に出たのでガランがそう言うと、チェイスは真っ先に荷物を置いて腰を下ろした。
全員、荷物が多い。
不満の一つはこれだ。準備を万端にと思っていつもより多めの荷物になっている。
黒涎山というのは、近隣の町から歩いて数日程度というそれほど遠くない場所にある山で、長いこと人が踏み入ることがなかった魔境でもある。
それほど遠くないのに、人が入らない。
実際には向かった人間もいたのだが、帰らぬ人になったり、命からがら逃げだしたりしてその山の中がどうなっているのか不明だった。
メラニアントというのは非常に大きなアリのモンスターで、何より恐ろしいのは大群で襲ってくることだ。その巣があるというのは聞いていたから、メラニアントが最も嫌がる臭いを出す松明を大量に買い込んできた。
それ以外にも、山の洞窟などによく出るタイプのモンスターがいるのではないかと対策をしてきたのだが、今のところは無駄になっている。
ラージバットなど大した金になるモンスターでもない。魔石だけ取ってもそれも二束三文だ。
いや、冒険者を始めた頃であればその魔石の金も貴重だったが、ベテランになった今では一回の飲食代金程度。
「女神と魔神の決戦の地なんて言っても、宝の一つもありゃしねえや」
「ここが何もない場所だったから女神も決戦地にしたって話だから、宝箱はないだろうさ」
遥か太古の時代に、女神と魔神が戦った場所だと言われている。
今進んでいる洞窟も、魔神の流した血で山が溶けて出来たのだとか言われているが、神話の時代の話でどこまでが本当なのやら。
「せめて魔神の角の欠片でも残っていてくれればいいんだがね」
「私は女神の遺物の方がいいですね。せっかくなら」
「違いないのぉ、ふぉっふぉっふぉ」
戦いの後、この山は火に包まれていたのだという。
百年の間燃え続け、火が鎮まったらその後はモンスターの巣窟になってしまったと。
ただ、場所的に辺鄙なところだったし、失われた財宝が眠っているというわけでもなく、誰もこの山に入る理由がなかった。
モンスターの巣などどこにでもある。
それに、この山がそのようになった頃にはこの大陸には人間がいなかったし、今のような冒険者などもちろん存在していなかった。
黒涎山はずっとそのままで、その後に近くに町が出来て、原住民の古い伝承からこの山が女神と魔神の決戦の地だったと知られた。
物好きな冒険者が探索してみたら中にはメラニアントの大群。探索の魅力もなく、ただ放置されていただけの場所。
「ここを踏破すれば、俺たち剛の連星もいよいよ魔境制覇の箔がつくってわけだ。楽な仕事ならそれでいいじゃないか」
「そうですね」
冒険者の仕事の一つ、人跡未踏の地の調査と報告。未知の世界を切り開くこと。
それを成し遂げたという肩書がつけば、今のような傭兵稼業よりもっといい仕事も出来るしこの先につながる。
冒険者としての名はある程度高まったからこそ、次の段階に進みたいと。
そういう中で、この新大陸に残っている魔境の一つであるこの黒涎山に目を付けたのだ。
運がいい。
メラニアントは確かに厄介だが、対策さえしてしまえば何も問題はない。
「おそらく、この山のモンスターはメラニアントにあらかた食われてしまったんじゃな」
「ああ、ビラセスもそう思うか」
「そいつぁラッキーだったな。じゃあ松明がなくなるまで安全に調査できるじゃねえか」
チェイスの言葉に笑いが起きる。
確かに、ここまでモンスターが出ないところを見ると、この洞窟内のモンスターは小さなものを除いてメラニアントの餌食になってしまったのだろう。
だから非常に数が少なく、針木の松明を燃やしているガラン達にはそのメラニアントも寄ってこない。
(やったな、これは)
油断するなと仲間には言うものの、ガランにもつい笑みが浮かんでしまう。
色々な噂話から敬遠されていたが、ここに来て良かった。楽勝だ、と。
「……」
ウルバが洞窟の奥を睨んだまま動かない。
暗い。松明の光では届かない闇の向こうを見つめたまま、彼の愛用の武器である大剣を手に握りしめている。
「ウルバ……?」
「来た」
彼が立ち上がる。
と同時に、闇の向こう側にぎらりと光るものがあった。
一斉に立ち上がり、それぞれの役割に沿って戦闘態勢に入った。
「で、でかい」
松明の光を反射するのはおそらく瞳だろうが、ガランの頭上よりかなり高い位置にある。
人間の四倍ほどの大きさの――
「光よ!」
ビラセスの声が響くと、かっと周囲に光が満ちる。
その巨体を照らし出したのは、正解だったと言えるだろうか。
「グィタードラゴン!」
「まじかよ」
洞窟の奥から姿を現した暗い赤褐色の巨体は、勇者の冒険譚に出てくるような領域の魔物だった。
※ ※ ※
「逃げろウルバ!」
彼らが何を言っているのかはわからない。
ただ、大トカゲに出会ったことは彼らにとって災難だったことは間違いない。
大慌てで逃げ出そうとしているが、あの大トカゲはゲイルほど鈍くはない。即座に背中を向けてさよならというわけにはいかなさそうだ。
一人の剣士らしい男が対峙して斬りかかっていったが、体格差がありすぎる。
その剣撃も力の乗った重い一撃だったように風切り音からは感じられたが、大トカゲの鱗で弾かれていた。
他のメンバーが荷物を搔き集めて逃げようとしている中、その剣士ともう一人だけが大トカゲに向かっている。
もう一人は、少し距離を置いているようだが。
「いと巌しき壁の守護を!」
何かを叫ぶが、ゲイルには意味がわからない。
だが、剣士を襲った大トカゲの爪が、空気中に突如現れた壁により遮られたのを、音と空気の流れで感じる。
(魔法?)
不可思議な現象だった。この洞窟内であのような現象を見たことがない。
そんなことができるのか、と。先走って襲い掛かったりしなくて良かった。
「もういい、逃げるぞウルバ! コーズ!」
一斉に、という所だが、既に一人は駆け出している。足音を忍ばせるやつだ。
「コーズ、そっちはダメだ!」
「無理です! 後で合流を……」
彼らが言いかけている間に、大トカゲが息を吸い込み終わったのがわかった。
当然、その後には――
「ゴオオオオォオォォォオォォォォ!」
猛烈な火炎が吐き出されると、大トカゲの前方を焼き尽くそうとする。
先ほど空気中に現れた壁がまだ残っていたようで、いくらかはそれに跳ねのけられ、そして壁が霧散した。
炎で気流が乱れて、状況が掴みにくくなる。
ゲイルが隠れているのは彼らが戦っている場所から離れた小道だ。大トカゲが入ってくるには狭すぎる道。
体積で言えばゲイルにとっても窮屈な場所なわけだが、不定形のこの体であれば関係がない。
人間たちが歩く程度には問題がない。当然、この細い道に逃げ込んでくる。
数は、三人。
少し感覚を研ぎ澄ましてみると、別方向に向かう足音も響いていた。大きな道の方だ。
もう一人は、どうやら今の炎に焼かれて息絶えたようだった。大トカゲがその死体を咥えて、ごくりと飲み込む。
とりあえず一人を食べた大トカゲは、大きな道を逃げた人間を追うことを選んだようで、ゲイルのいる場所からは離れていく。
(こっちが一人の方がよかったけど)
獲物をきっちりと仕留めるのなら一匹ずつがいい。
とはいえ、こうして慌てて逃げてくる獲物というものを見過ごす手もない。
まあ見過ごそうとしたところで既に遅いのだが。
ゲイルはその小道の窪みにゲル状の体を這わせて水溜まりのように待ち構えていた。先頭を逃げてくる足音が近すぎた。
「うっぶわぁっ!?」
ゲイルの体に足を突っ込んだ男が盛大に転ぶ。
転んで、ゲイルの体に頭を突っ込んだ。
荷物を周囲にまき散らしながら、ぬかるみのようになっていたゲイルの体の中へ。
「ぶ、ぶぐぁぇ、ぼ……」
もがく男だが、逃がすわけにはいかない。これほどうまく獲物がかかるのも珍しいくらいだ。
(完璧)
呼吸をしようともがく男を、そのまま体内に取り込んで窒息させる。
生きたまま捕食した方がエネルギー摂取とすればいいのかもしれないが、この後もあるのだ。遊んでいる余裕はない。
少し遅れて走ってきた人間二人がゲイルの前で足を止めた。息を飲むように、空気が凍る。
最初の男が落とした松明が転がっていた。
それに照らされたゲイルの液体状の体の中に、もがきくるしむ仲間の体がある。
「あ……あぁ……」
「ブラックウーズ、じゃと……? このような、でかさで」
何となく、色の対比がわかる。
松明に照らされて、その光の吸収率で色がわかる。彼らの肌はそれなりに反射するが、ゲイルの体は光を反射しにくい。
自分はきっと黒いのだろう。
暗いのだろう。
「しっかりせんか! ええい、祝焦の炎篝より、立て焼尽の赤塔!」
片方の人間が何事かを叫んでゲイルに武器を向けた。
(っ!)
その武器から炎が噴き出す。
大トカゲまでではないが、まぎれもない炎が。
(あつい! いたい、いたいっ)
直撃された。大トカゲの炎ほどではないとはいえ、正面から直撃というのは初めての経験だ。
ゲイルの体の表面が焼け、体積を減らす。
(魔法って……喋るだけでそんなことが出来るなんて)
さらに男が何かを叫ぼうとする。
ゲイルは咄嗟に、自分の中に取り込んでいた男を吐き出した。
「あ、ああっ! チェイス、チェイス! しっかりしろ!」
魔法を使った方ではない男が駆け寄る。
魔法使いの方は、仲間に炎を当てるのをためらったものの、ゲイルから警戒を解かない。
次の一撃を放とうと、タイミングを窺っていた。
(ずるい)
ゲイルの中に感情の炎が揺れる。
(ずるいじゃないか)
自分にはそんな技はない。喋れないし、何もない場所に炎を出すような力はない。
(喋るだけで攻撃出来るなんてずるい! それはズルだ!)
激しい怒り。
命の危機以外には感情の起伏を感じなかったはずのゲイルが、強い感情で揺さぶられる。
理不尽な力で傷つけられたことに、怒りを覚えた。
暗い感情が、絶対にこの人間を許さないと訴える。
ゲイルは他の二人を無視して、その男に近付いた。這い寄った。
「知性の欠片もない汚らわしい魔物じゃ。死ぬがよい」
再び武器を向けられる。
近付いた状態で再度の直撃を受けたらまずいかもしれない。
だからそうはさせないのだ。
「うん?」
魔法使いが、後ろを見る。
誰かに呼ばれたように、わずかに首を回して。
「むごぉっふぐ!?」
その喉の奥にゲイルの手が突っ込まれた。
這い寄りながら、岩陰に伸ばした手で彼の背中を引っ張った。
後ろから呼びかけようとする者だとすれば、彼にとっては仲間なのかと思ったはずだ。
一瞬だけ注意が逸れた。
(喋らせなければいい)
その喉を塞いでしまえば、炎を出すことはできないだろう。
ずるい行いを許さない。
魔法使いがゲイルをどう思っていたのかわからないが、ゲイルには多少の知性がある。相手の行動を予測することが出来た。
口に突っ込んだ触腕ごと魔法使いを自分の体内に取り込む。
男の手から炎を噴出させた武器が落ちた。
「あ、あぁっ! ビラセスを離せ、この化け物め!」
ようやく立ち直ったらしい最後の一人が、剣を片手にゲイルに斬りかかってくる。
(剣か。どうなんだろう)
どちらにしても、この距離では回避できない。
ゲイルは自分の遅い速度を自覚している。彼の剣を避けることはできないとわかっている。
だが、斬られたところでどうなのか。
「うらぁ!」
にゅるり、と。
剣がゲイルの体を通り過ぎていく。
斬られた時に剣に引っ付いた粘液が飛び散って、ほんの少しゲイルの体を減らした。
「こ、この!」
もう一度の攻撃は、動揺のせいか雑で、ゲイルが取り込みかけている魔法使いの男に傷をつけた。
「むうぅぅぅ!」
悲鳴とも抗議ともつかない呻き声が上がる。
「す、すまないビラセス。どうすれば……そうだ!」
剣では意味がないと思ったのか、男はばっと周囲を見回して落ちていた松明を拾った。
(ああ、それの方がマシだな)
剣よりは有効だろう。
ゲイルはぼんやりそんなことを考えながら、男の行動を見守る。
見守るというか、自分の動作が鈍重すぎて待ち構えるしか出来ないだけだが。
「これならどうだ!」
じゅうぅ、とゲイルの体が焼かれた。
「よし!」
効果があったと喜色を浮かべる男だが、しかし。
(……痛かったな。さっきの炎ほどじゃないけど)
松明を液体につけたらどうなるのか。
そんなに難しい話ではないと思うのだ。このゲル状生物が考える限り。
「あ、あっと……ひぃ」
当然、消える。酸素の供給がなくても燃え続けるようなことはないらしい。
消えた松明に混乱する彼の手から、その松明を奪い取る。
食えるだろうか? 食えるかもしれないがやめておこう。嫌な臭いがするし。
ぽいっと、そこらへ投げ出す。
最初に捕まえた男に当たって小さく呻いた。まだ生きている。
魔法使いの男は既に意識を失いかけていた。そうすると、残るのは一人。
「あ、ああっ……」
最後の一人は、頭を振りながら後ずさる。
ゲイルに取り込まれた仲間と、地面に倒れている仲間を見て、もう一度震えながら頭を振った。
「……すまん」
謝罪の言葉だったのだと思う。
「俺には、娘が……すまん」
ゲイルがそれを記憶している間に、男は背中を向けて逃げ出した。
途中、拾えた荷物だけを持って、走り去っていく。
(正しい判断だな)
彼が一人でこの洞窟を抜けられるのかはわからないが、ゲイルには追えるだけの速度がない。
少なくとも、このゲル状生物に殺されることだけはないのだ。
彼の攻撃手段ではどうやら有効打がなかったようなので、仲間を助けたいと思ったところで無駄なこと。
逃げた仲間を残された男たちがどう思うのかは別として、正しい判断だとゲイルは思う。
(さて、と)
炎の魔法で燃やされてちょっと熱くなってしまったが、どうやらゲイルの勝利のようだ。
残された食料をただ摂取してもいいのだが。
(……少しだけ、観察してみるか)
洞窟の奥の方から金属の音が響いた。一人だけ別方向に逃げた男だろう。
大トカゲの足音の位置と近い。どうやらあちらも無事に片付いてしまったようだ。
(あの大トカゲが強いのか、この人間が弱いのかわからないけど)
弱った大トカゲを捕食するという展開は難しそうだった。
※ ※ ※