４話 探し物はなんですか？
人生の分岐点で選択を間違えた俺はリセットボタンを探してるんだけど、これがなかなか見つからない。やっぱり探し物はお巡りさんに訊くべきかなぁ～とか思ったんだけど、目の前で刑事が俺のパンツを漁ってるし……
パンツの洗濯と人生の選択
一見似ているようで全く違うこの2つ。きっと俺はこの問題をテストに出されても選択間違えるんだろうなぁ。ほら、1度あることは2度あるっていうじゃん。あのパターンだよ。こういう悪い流れって、なかなか断ち切れないんだよね。
でも兄弟なのに、清隆は綺麗さっぱりざっくり切っちゃうんだよな。そういうとこ、母さんとそっくりでさ……あれ？ 清隆は母さんの子じゃないのに？
ああ、これはきっとあれだな。
氏より育ち
こそあど言葉が増えるのは歳の証拠っていうけど、俺はまだ高校生だから。全然歳じゃないから。記憶力も全然大丈夫だから。記憶力が危ないのは俺じゃなくて、目的をすっかり忘れて俺の部屋を漁ってるこの2人の刑事だから！
しかもやっとパンツに飽きたと思ったら……
今度はベッドの下？
いや、そんな狭いところ、本当に人間、入れないから。入りたくても入れないから。
いや、別にエロ本とか隠してるからいってるんじゃなくて、本当には入れないから。
だって無理でしょ？
ほら、あんたらの腕だって入らないじゃないか。ってか腕、太くない？ それ、筋肉っていうより脂肪だよね？ 袖まくりしたって無駄だから。腕の太さは変わらないから。そんな押し込んだら腕の皮がむけて……ほら、血が出た。言わんこっちゃないじゃん。俺のせいじゃないからね。あとで救急箱持ってきてやってもいいけど、あんたらの出方次第だから。
猫じゃらし？
ねぇ、なんで猫じゃらしなんて持ってるわけ？ どっちが持ってきたの……あ、2人とも持ってる。
いや、そうじゃなくて、猫じゃらしでなにしてるわけ？ うち、猫飼ってないよ。そら猫とか犬なら入れるんだろうけど、探してるの人間でしょ？ うちの親父でしょ？
あ、でも骨なら入れるじゃん！
ってかあんたら、本当に誰探しにきたの？ なにを探しに来たの？ 親父は死んでるの、この世のどこを探したっていないんだよ！ 机の下とか椅子の下とか、避難訓練じゃないんだから！
いい加減にしてくれよ！
川端だか森崎だか知らないけど、もう忘れたけど、いるわけないんだよ。なんでわからないんだよ。もう！ 俺の部屋、ぐちゃぐちゃにしてくれて。
そりゃ最初からちょっと散らかってたけどさ。朝は寝坊して時間がなかったから仕方がないだろ？ だからはじめからちょっと散らかってたけど、さらに散らかしてくれて。どうするのさ、この部屋！ 母さんが帰ってくる前に片付けないと、晩飯抜かれそう。
こいつら、ちょっとは同情して手伝ってくれないかな？
無理だろうけど
「どういうことだ？」
川端だか森崎だか知らないけど、なんか俺が嘘でもついたように訊いてくる。
違うから！
あんたらが勝手に勘違いしただけだから。俺はお空の上にいるっていいたかっただけなんだから。
本当は地獄だけど
「あのですね、刑事さん、いったい親父になんの用があるんですか？」
どんな用があろうと、恨みがあろうと、いや恨みはないか。恨みはなくても死人に口無し。今更親父に会ったところで何も訊けないわけだが……いや、会えないけどさ。とりあえず確かめることにする。
「実は先日、殺人事件が起こりました」
日本全国殺人事件津々浦々。今時珍しくもない。森畑だったか川崎だったか忘れたけど、手帳を取り出して書かれていることを読み上げ出す。これ、ちょっとTVドラマで視たことあるかも。
でもさ、殺人事件があったところの住所なんていわれても、それがどこなのかさっぱりわからない。わからないけれど刑事は勝手に読み上げる。
あ、俺が訊いたんだっけ？
いや、俺が知りたいのは、警察が親父になんの用があるかってことだけで、あんたらの仕事に興味はない。なぜなら俺は将来、絶対に警察官にはならないからだ。
今、決めた
またしても俺のそんな決心をよそに、2人の刑事は勝手に事件の概要まで読み上げてくれる。俺、そんなことまで訊いてませんから。聞きたくありませんから。なんかこう、大人の長い話を聞いていると眠くなってくるんだよね。ああ、だからきっと授業中眠くなるんだ。
勘弁してよ
「その事件に親父が関係あるんですか？」
あり得ないだろ？ だって死んでるんだから。死人に口は無いけれど、手も無いから。
いや、死体に手はあるけれど、骨にも手はあるけれど、でも筋肉ないから。腕力も握力もないから、絶対に人は殺せないから。反撃されたらすぐバラバラになっちゃうから。殺すどころか壊されちゃうから。
これぞまさしくバラバラ殺人
俺は露骨に胡乱な眼で2人の刑事を見てやる。どう考えたってこの刑事たちのいってることは不可解だ。死んだ人間を殺人事件の関係者として探すなんて、あり得ないだろう？
だが続きを聞いてみれば、実は、不可解なのはこの2人の刑事ではなくて親父だった。
「その現場から、穂川周平さんの指紋が採取されました」
「現在警察は、かなり重要な参考人として穂川周平さんを探しています」
だからあり得ねぇだろっ？
つづく……もうさ、本当に俺、リセットボタンが欲しい……
あ、そうそう！ これいわないと。 「この物語はフィクションです」 これでいい？
