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high tension  作者: 藤瀬京祥
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27話 遠い道(1)

 そもそもの始まりは雪緒の母親が殺されたこと。警察が親父を 「かなり重要な参考人」 ……いや、俺、それがどういう意味なのかまだよくわかってないんだけど、疑われてるってことはわかる。もちろん犯人として、だ。その理由は、死体のそばに親父の指紋がついたコップが落ちていたから。


 9年前に死んでるんだけど


 雪緒に聞いた話じゃ、母親が殺された夜、親父は殺害現場となった閉店寸前の廃れたスナック……は俺が勝手に想像してたんだけど、実際に雪緒の母親が経営するスナックはごく普通の店だった。ま、酒なんて飲めない俺が普通のスナックがどんなものか、なぁ~んてわかるはずないんだけどさ。


 ちょっと脱線しちゃったから話を元に戻すけど、雪緒に聞いた話じゃ、母親が殺された夜、親父は殺害現場となった店に来ていたっていうんだ。だ亜kら雪緒は、親父の指紋が店にあるのはおかしくないって言うんだけど、あり得ないんだよ、そんなこと。だって親父は9年前に死んでるんだからさ。


 これ、不動の事実


 1回死んだ人間は絶対に生き返らない。2度死ぬなんてあり得ない。

 もしそんなことが本当に起るとしたら、それは1回目は本当に死んでなくて、いわゆる仮死状態ってやつだっただけじゃね? 仮死は死亡じゃないだろ? 死んだ感じになってるだけだろ?


 たぶん……


 9年前に死んでるはずの親父の指紋、それは6年前にも駐車違反で切られた違反切符に押されていた。今回の事件で、その指紋と一致したってことで警察は親父を 「かなり重要な参考人」 と思ってるんだけどあり得ないんだよな、そんなこと。


 死んでるんだから


 問題の駐車違反で捕まった奴は、なんでか 「穂川周平」 つまり親父の運転免許証を持っていた。住所もうちだったから間違いない。そいつはどうやってか、親父の名前で免許を取ってたってわけ。どうやらそいつが雪緒の父親らしいんだけど、これが親父によく似たオッサンだった。

 借りた写真を持って親父の父親、つまりじいさんを訪ねてみると、親父がじいさんの実子じゃないことが判明。これ、まだ清隆には話してないから、バレないように気をつけないと。ってかこんな話、する機会なんてこの先あるのかな?


 なさそうだ


 その親父の故郷と思われる町を訪ねてみた。じいさんの家よりもさらに田舎で、駅前にはなんにもない。なんにもなさ過ぎて、視界だけはやたら開けている。


 すっげぇ見晴らしの良さ


 本当になんにもなくて、道路がずっと向こうまで見渡せる。それでも駅前周辺には何軒か店とか家とかあったんだけど、ちょっと駅から離れると本当になんにもなくなる。雑木林っていうの? ただただ木と草だけの中を道路が一本走っているだけ。バスもないからさ、その一本道をずっと歩く。


 ひたすら歩くだけ


 見るものもないし、誰も通りかからないし、10分も歩かないうちに寂しくなってきてさ、30分もしないうちに悲しくなってきた。そのくらいなんにもない、ただの一本道。こんなことなら清隆を連れてくればよかったって、ちょっと後悔するぐらいなんにもない。

 1時間を過ぎた頃、危うく涙が出そうになった頃、ようやく目指していた町名が道路脇に見えた。分岐した道を、脇に逸れる。その先の目指す集落があった。


 開けたそこは結構広くて、家もかなりの数が建っている。でも周囲はギリギリまで草木がぼうぼうで、集落の部分だけ掘り返したって感じで家が建ち並んでいる。

 仕事でいないのか、集落に踏み込んでも人の姿はほとんどない。ちょっと廃村じゃないかって疑ったくらい、人気がないっていうの? ひっそりとしていて、そのくせたいていの家は庭側の窓とか全開。


 すっげぇ不用心


 今時の家じゃなくて昔の古い家で、中には屋根が傾いていたり、縁側が崩れ落ちていたりしてる家もある。でも廃屋じゃないらしく、洗濯物が干してあったり庭に花が植わっていたりする。


 ちょっとタイムスリップした気分だ


 古き良き日本みたいな農村だ。そんな集落を歩いてみる。番地がわからないからそうするしかなかったんだけど、それほど広くはないから、すぐ集落の外れに辿り着いてしまう。そこで一軒の廃屋を見つける。


 どう見ても廃屋だろ


 玄関の引き戸は外れていて、ガラスも割れていて、玄関前からのぞき込んだ屋内は薄暗く、破れた屋根の隙間から光が漏れている。畳もない剥き出しの床板は泥だらけで破れていて、好き勝手に生えたらしい雑草が、これまた好き勝手に枯れている。何気なく顔を上げてみたら、玄関脇の柱に掲げられた表札が見えた。すっかり風化して消えかかった文字は、辛うじて 「佐々木」 と読めた。


 親父の家


 人が住まなくなってどれくらい経ったのか。どれくらい経てばこんなに壊れてしまうのか。わかんないけど、かなりの年月が経っていることは確かだ。今、親父が生きていれば40代半ば。じいさんの家にもらわれてきたのが11歳の時だから、誰も住まなくなって30年くらいってとこかな?


「おいお前、そこで何してる?」


 突然掛けられた声に振り返ると、大きな籠を背負ったおっさんが立っていた。

 つづく……またオッサンが出てきたよ。ここんとこ、ずっとオッサンばっか。ひょっとしてこれから先、ずっとオッサンしか出てこないとかっ?

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