23話 殺害現場
家の周りを変なオッサンたちがうろついている。ま、それはいいとして、変な奴を見るとすぐに俺の友達にしないように。いいな、清隆君。
しかもその1人に声を掛けられた。親父のことを訊かれたんだ。なんで今更親父のことなんて……って思ったけど、どうにもおかしい。だってそいつ、まるで今も親父が生きてるみたいなことを言うんだ。
最近、家に帰ってきてないみたいだけど……
最近どころか9年前から帰ってきてません。いや、この場合、帰ってきてるって言うのか？ だってずっと家に居るんだから。いや、居るのは墓か。だったらやっぱ、家には帰ってきてないってことでいいんだよな？
帰ってこられてたまるか！
盆と正月くらいはいいけど。あ、正月じゃなくて彼岸だっけ？
いっそ清隆の手ぇ借りて、あのオッサン捕まえて目的吐かせるか？ 授業中、今日は眠らない代わりにずっとそんなことを考えていた。で、案の定、先生に怒られてクラスの奴らに心配された。
俺が上の空だと駄目なわけ？ おかしい？ 俺だって色々あるお年頃なんだよ。悩みだって、考えなきゃならないことだって沢山あるんだよ。
しばらくそっとしておいてくれ
そりゃ誰かに相談出来ればいいんだろうけど、わからないことてんこ盛りの今の状態じゃ、それこそ変に誤解されかねない。ってことを考えれば……ほらね、こんな感じで色々考えなきゃならないわけ。
で、考えたら、今の状況は誰にも話さないほうがいいって結論が出た。だから雪緒に会うことも、清隆に気づかれちゃいけない。学校が終わるといつもの感じで家に帰り、制服を着替えて、友達と遊びに行くってことにして家を出た。もちろん向かった先は雪緒が預けられている施設。なんか、児童福祉施設っていうの？ 家の事情で預けられてる子供とかがいる施設らしく、雪緒と同じ中学生も何人も居るらしい。
俺が施設に着いた時間には小学生どもが帰ってきていて、あんまり広くない運動場が五月蠅いくらい騒がしかった。そんな中で雪緒は、門の前で俺を待っていた。
「ごめん、遅くなって」
「ううん、いいよ」
なんかこれって、ちょっとデートっぽいよな。待ち合わせっぽいよな。いや、待ち合わせていたっていうか、約束はしてたんだけど。
雪緒は施設の職員に、家に物を取りに行くっていってたらしい。そのせいか玄関にいたおばさんが、すっげぇ変な物でも見るような目で俺を見ていた。別に俺、怪しくないし。
俺たち、異母兄弟ですから
いや、まだ言えないけどさ。雪緒の父親の写真ってのをとにかく確かめないと。一応親父の隠し子決定はしたんだけど、したんだけど、その、なんていうかね。途中でどうも妙なことになってきて。
早合点したかも……
とにかく雪緒の案内で彼女の家、つまり殺人があった現場に向かったわけだ。
駅から放射線状に伸びる幾つもの路地。その細かい路地の1つに店はあった。俺は勝手に閉店寸前の廃れた場末のスナックとか想像してたけど、実際にはちょっと喫茶店ぽい感じ。入り口の照明なんて花だし。でもシャッターが降りてては入れなくなっていた。
雪緒の案内で裏に回り、裏口から店に入る。ドアが開いて先に雪緒が入り、俺も続いて入ったんだけど、ちょっと薬品っぽい臭いがした。正直、臭いです。思わず鼻を押さえたよ。警察の現場検証とかで怪しげな薬品でもまいたのか？ ほら、科学捜査とかで使う色んな薬品。
店の中は結構狭くて、おまけに暗い。まだ日が暮れるには早い時間だ。なのになんでこんなに暗いのかと思ったら、窓がないんだよ。それで昼間でも暗いわけだ。
ま、スナックなんて夜しか営業しないから、窓なんて必要ないんだろうけどさ。でも照明を点けても薄暗い。多分そういう風に造ってあるっていうか、そういう演出なんだろうけど、なぁんか健全な男子高校生には暗いっていうか、胡散臭いっていうか、好きになれない感じ。
大人ってこんな場所が好きなの？
ま、そんなわけで窓が1コもないんだけど、代わりに壁が広くて、その壁に写真が貼り付けてある。店内に慣れているはずの雪緒でもよく見えないらしく、壁に顔を近づけて目的の写真を探していたけれど、すぐに見つけたらしい。綺麗にはがし、カウンターのところで待っていた俺のところに持ってきてくれた。
「これ、お父さんとお母さん」
ここじゃよく見えないからと2階の住居に上がってみれば、正直、汚いです。俺の部屋よりも汚いです。このあいだ変態2人に荒らされたけど、その時の惨状といい勝負です。
ひょっとして空き巣でも入ったのか？
「お母さん、掃除とかしないから汚くて」
ああ、いつもこんな感じなのね。どうやら俺の顔に出ていたらしく、雪緒は恥ずかしそうに笑っていた。ごめん、俺、正直者でさ。嘘とかつけないし、アドリブ出来ないし、おかげでいっつも清隆に殴られてます。
あの乱暴者！
明るいところで見た写真、そこに写る雪緒の父親を見て俺は自分の目を疑った。
つづく……誰が写っていたのか？
まさか本当に親父？ え？ ひょっとしてこの写真、心霊写真？ いや、今夏真っ盛りだけど、俺、その手の話はちょっと……
