10話 消化不良
どうやって警察は親父を特定したのか? 指紋から特定したってことは聞いたけど、どうやって採取された指紋から 「穂川周平」 を特定したのかがわからない。
いや、別にこんなこと考えなくてもいいんだけど、考える必要もないんだけど、考えているつもりもないんだけど、ずっと頭の中で回り続けてた。一晩中回り続けた。他にも1日であったことが、朝の寝坊からずっと、それこそ起きた瞬間から、1日で起った出来事が順位不動でずっと頭の中で再現されてた。
悪夢だ
もちろん1番再現回数が多かったのも、再現時間が長かったのもパンツだ。変態どもが俺のパンツを漁ってるところ。あそこが1番多かった。もう本当に悪夢だよ。おかげで眠っていたのか眠ってないのかよくわからない。
すげぇ眠いんですけど……
学校サボって寝ていたい気分なんですけど、駄目? 駄目だよな、やっぱ。仕方ないから学校で寝るか。
いや、それはまずい。だってさ、学校で授業中に居眠りして、間違ってパンツの夢なんか見てみろよ。寝言なんて言ってみろよ。絶対ヤバいだろ? 冗談じゃない。恥ずかしいなんて通り越して、もう学校行けなくなるじゃん。
いや、ま、うちの場合、清隆に引き摺って行かれるんだけどさ。喉仏、親指でゴリゴリされながら強引に連れて行かれるんだよ。で、学校に着く頃には三途の川の夢見てるんだよ、きっと……。
1人で登校します
小学校の高学年の頃だったかな? 清隆と一緒に登校しなくなったような気がする。それまでは割と仲良くて、朝はいつも一緒だった記憶はあるんだけど。
そういや、どうして一緒に登校しなくなったんだっけ? 1人で登校する、それが当たり前になっちゃって気にもしてなかったけど、喧嘩でもしたっけ? 俺は全然記憶してないんだけど、ひょっとしたら清隆は覚えてるかも。あいつ、妙なことをよく覚えてるんだよな。根に持つタイプじゃないけど、なんでかよく覚えてるんだよな。
ひょっとして根に持ってる?
ま、そんなこんなで眠い目擦って学校行って、案の定、授業中に居眠りをして先生に怒られた。さすがに廊下に立たされるなんてことはなかったけど、4時間目が終わってそのまま居眠りしてたら、後頭部にすっげぇ衝撃が走った。目の前、星が飛んだんですけど。こう、どう説明したらいいのかな?
あ、そうそう!
壊れたTVの画面っぽい? いや、ちょっと違うかな?
よくわかんねぇ
顔を上げてみたら清隆だ。なんですか、清隆君。お兄ちゃんは寝不足でとっても眠いんですけど。猛烈に眠くて、自分で 「お兄ちゃん」 なんて言っても鳥肌も立たねぇよ。
そんくらい眠いです
「弁当」
あ、やべ。俺、今日は弁当忘れてた。お兄ちゃんの忘れ物、わざわざ届けに来てくれるなんて清隆君てば優しい……あ、鳥肌立った。やっぱ駄目じゃん。キモいよ。
ってかちょっと待てよ、おかしくね? 何がおかしいかって? だってさ、今日は清隆、俺より先に家出てるんだよ。なのになんで俺の忘れた弁当持ってきてるわけ? おかしいじゃん。俺が忘れる前に弁当、持って行ってるってことじゃん。
ひょっとして、俺の分も食うつもりだったのか?
「母さんが、どうせ忘れるだろうから持って行けって」
ああ、母さんの機転ね。さすが母親、息子のことをよくわかってるじゃん。信用はしてないけど……。
ま、とりあえず礼は言っとくよ。ありがと、清隆君。これでもう用事は済んだはず。だから自分の教室に帰ってくれない? お前がいるとさ、クラスの女子がこっち見るから嫌なんだよ。俺まで目立っちゃうから。
ってか、なんか俺、目の敵にされてるんだけど。何もしてないのにお前と一緒にいると俺、クラスの女子から目の敵にされるんだよ。
怖いからさっさと帰れよ!
なんで女子に妬まれなきゃならないんだよ? そりゃさ、血は半分しか繋がってないけど、出てきた腹は違うけど、俺と清隆は兄弟なの。異母兄弟でも兄弟は兄弟なの。妬まれる覚えなんてないんだよ。だからこっち見るなよ、女子ども!
怖ぇよぉぉぉぉぉぉ!
自分の教室なのに、なんでこんなに居心地が悪いわけ? 勘弁してよ。ってか清隆、俺が弁当食い終わるまでいるつもりかよ? まさか一緒に食うつもりじゃないだろうな?
消化に悪いんだけど……
仕方がないから中庭で弁当を食べることにしたんだけど、清隆の奴、結局ついて来やがんの。
「マサ、昨日のこと考えてる?」
「まぁちょっとだけ」
隠してもバレるだろうから一応素直に答えておく。
「でもお前は気にしなくていいし、母さんにも言うなよ」
どうせ気にしてないだろうけど。清隆はそんな性格じゃないから心配してないけど、ま、一応言っとく。これでも一応……いや、一応じゃなくてれっきとした兄だから。
それなのに清隆の奴、いきなり胸ぐら掴んできやがった。だからすぐに暴力に訴えるその悪い癖、やめろってば!
「お前は……っ!」
唾がかかる距離まで顔を近づけて怒鳴るのもやめろって。そんなに大声出さなくても聞こえてるから。俺の耳、全然遠くなってないから。
しかもなんか言い掛けて、結局言わずに、今度は胸ぐらを掴んだ手で突き飛ばしやがる。なんなんだよ? なにがしたいわけ? しかもそのまま続きも言わずに行っちまいやがった。
なんなんだよ、清隆の奴!
つづく……もう清隆の奴、なんでこんなに乱暴なわけ? 俺が何かしたってのか? 何もしてないぞ。弁当忘れたくらいかな?
……いや、そのくらいで怒られる覚えはないぞ。わからないけど、とりあえず時間がないから弁当食うか。昼休みが終わっちまう。
あ、そうそう! この物語はフィクションです。