偽善者とエイプリルフール 2026
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「──嗚呼、まあそりゃそうだよな」
この空間で意識を覚ます、それと同時に自分がどういった状況にあるのかを理解する。
ここは魔導“非ざる在りし証明”によって再現された、眷族たちのIF。
俺はその記憶を持ち帰ることができず、ここに来るたびにそれを思い出す。
前回は少々特殊な、ただ独りの犠牲で出来上がった平和な世界だったが──
「──人外魔境。一面木々だな……何もかもが枯れてるけど」
どこまでも生い茂る樹海。
ただし葉っぱはどの木も生えておらず、痩せ細った状態……だというのに、どこまでも高く伸びている。
葉っぱと言えば、太陽から光を受けて光合成するというのが学校で学んだこと。
だがそれは無く、枯れそうな植物……栄養はいったいどこからか、言うまでもない。
「あんまり時間が無いからな……逃げるとしますか」
食虫植物というものはあるが、どうやらこの世界だと食人植物が流行っているようで。
彼らの手(根)が届く範囲に現れた餌目掛けて、彼らはその触手を伸ばす。
チートスキルや武具(っ娘)が使えない状態だが、魔力操作の応用で大跳躍し回避。
枯れ枝を動かし天井を構築しようとしていたが、それらを突き破り──上空へ。
「目的地は…………アレだな」
ただ一つ、遠目に見えるソレだけがこの世界で唯一の緑色だった。
青々と生い茂り、空高く伸びる大樹──魔力を足場とし、そこへ向かう。
身体強化で蹴り上げ、魔力で作り上げた円錐の障壁で風を遮り速度を高めた。
それを数度繰り返すと、大樹が揺れ動き、無数の葉っぱが落ちてくる。
「魔物か? ……とにかく邪魔だ」
葉っぱが折り紙のように畳まると、鳥のような形となって襲い掛かってきた。
だがそのすべてを無視、障壁任せにごり押しすれば突破できる。
「『噴魔』!」
トドメに足から魔力を一気に放出。
眼下では地面が蠢き、地中から現れた巨大な根が俺に伸びてきていたが──それらもすべて無視、大樹の麓へ一直線だ。
◆ □ ◆ □ ◆
「はい、到着」
身体+魔力スペックのごり押しで、最奥へ辿り着いた。
そこには巨大な洞が一つ、そしてそこには腕と腰よりしたが樹に埋まった女性が。
「あっちよりも育った見た目だな……予想はしていたけど、立派になったもんで」
「誰」
「んー、信じてもらえるかはともかく、いちおう別世界でお前さんと契約させてもらってるヤツ」
「…………嘘、本当に」
ユラル──樹の聖霊にして、【神樹支配】の固有スキル保有者。
それゆえに危険性を疑われ、終焉の島に封じられた女の子(精霊種的には)。
俺は彼女と契約し、終焉の島を出た。
……そしてここに居る彼女は、それとは異なる道を辿った存在である。
ユラルという名前は、俺が契約を交わしたあの娘に付けたもの。
たとえ同一存在と繋がりで分かってもらえたが、そこだけは間違えてはいけない。
「まあ、時間が無いからサクッといくぞ。ここでの邂逅は魔導による限定的なもので、俺がここに居続けることはない。数分か数十分か……とにかく、時間が来れば勝手に居なくなるから安心してくれ」
「何をしに来たの?」
「ランダムだし、何なら俺自身はここに来たことを覚えてられない。けど、代わりにここのことを知ることができるヤツが居る……」
「それが、そっちの私」
ユラル曰く、精霊の姿は当人の好みで調整可能らしいが、素の姿というものは自分が司る概念の発展度合いで決まるらしい……彼女たちで言えば、その生育次第なわけだ。
終焉の島で見た彼女の樹より、ここのソレは遥かに大きい。
それだけ成長し──様々なものを糧としてきたわけだ。
「ということで聞くぞ──満足か? 今の世界に、自分に……生きていることに」
「……そうじゃない、って言ったら?」
「それを望むなら、俺は……」
今、この場にソレに適した武具は無い。
だがそれでも、彼女がソレを望むのであれば……。
「……ぷっ、あはははっ! そんな真剣な顔してくれるんだ……ふぅ。いいの、これが私の罪。世界樹を討ちたくて、そのために魔に堕ちたけど……これは契約だから。最期までやり切らないとね」
そう笑顔で語る、騙る彼女の頭上にずっと浮かんでいた。
──『破界樹靈[イルヴィンスール]』、それがこの世界における彼女の名前。
この世界線において、彼女は対価を支払い力を手に入れたのだ。
世界にとって討つべき存在、災凶種……彼女は死が願われる存在となっていた。
「契約は絶対、そっちの私もそう言ってるんじゃないの?」
「……口を酸っぱくしてな。穴を突こうとすると根っこで引っ叩いてくるよ」
「ふ~ん、そんなことするんだ……やってみてもいい?」
「……それがやりたいことなら」
全力で防御態勢を取る俺を見て、冗談だと笑う彼女。
……見たばかりの頃の、乾ききった顔では無くなっている。
それから少しだけ、言葉を交わした。
俺は忘れるであろう彼女の過去、それがユラルの糧になると許してくれて……そして最後に──
「時間みたいだね。さっきも言ったけど、今の私でもまだ完全には根絶できなかった。それだけ相手は手強いからね……そっちの私も頑張ってって伝えてね」
「……覚えてられたらな」
「約束だよ?」
最後に笑顔を浮かべた彼女。
少しだけ面影があり……でも何かが違う、暗さを思わせるその笑みに見送られながら俺は──
◆ □ ◆ □ ◆
夢現空間 修練場
目の前にそびえる大樹。
それを仰ぎ見る俺──その隣には、若葉色の髪の少女。
「たぶん、メルスンが居なかったら……ああなってたんじゃないかなって。誰とも繋がりが持てなくて、頼れる相手も居なくて。でも力が欲しい……あの島でそれを続けていたらああなるんだろうね」
「…………」
「時間を掛けて、瘴気も取り込んで、魔物化してでも……って。でも私はメルスンに会えたから、今の私が居るんだよ」
「…………」
「……ねぇ、聞いてる?」
「感動したいんだけどさ……これ、これの説明を先にしてくれない?」
これまでもユラルは、様々な植物や樹を生み出してきた。
中には手作り(意味深)の世界樹を糧として生み出す、なんてヤバい代物もある。
今回生み出したソレもまた、それらと同等の……いや、それ以上の存在感を放つ。
そこに眷属たちが挑んでいるのだが……戦えている時点で異常である。
「あ、アレ? アレこそ、私の可能性の一つである『イルヴィンスール』です!」
「いるう゛ぃんすーる」
「正確にはその紛い物。【神樹支配】でできないかなってやってみたらできちゃった」
「えぇ……」
何でも、俺が忘れたユラルの未来は災凶種だったらしい。
で、ユラルはそんな自分を不完全ながら生み直すことができるようになったと。
「記憶は無いし、災凶種でもない。あくまで私が再現できる範囲まで。それでも大陸一つ滅ぼせるぐらいには強いんだから!」
「……そのようで」
なお、彼女が自慢げに誇る大樹は数分後に根元からぶち折られることに。
……大変ご立腹で頬を膨らませる彼女をなだめるのに、それ以上の時間を要しました。
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※『破界樹靈[イルヴィンスール]』
終焉の島に封じられ、それでもなお足掻き、島中のエネルギーを吸い上げた樹聖霊が至った存在
それは封印されていた者たちの一部を解き放ち、あるいは糧とし──固有種となる資格を手にした
魔物となった彼女は世界樹を討ち、災凶種のトリガーを引いた
──世界がある限り世界樹は滅びない、彼女は世界樹を滅ぼすため、世界を滅ぼすことを止めない
≪条件を達成しました≫
≪種族:【破界樹】及び【破界樹靈】を解放しました──この種族は特殊な方法でのみ顕現可能です≫
≪このアナウンスは秘匿されます≫




