偽善者とエイプリルフール 2025
※忘れた方への人物紹介
リラ:『星銀の少女』、献上献身ガール
???
「……なるほど、そういうことか」
見覚えの無い景色、そして断絶している記憶からすべてを察する。
間違いない、今年もまたこの日が訪れたのだろう──エイプリルフールが。
現実におけるその日、一日限定で使用できる魔導『非ざる在りし証明』。
俺を存在しない、しかし存在し得たどこかへ誘うIFルート構築魔導だ。
「聞いた話だと、前がフーラとフーリとレミルで、その次がネロだったんだよな……しかもどっちも割と荒廃した感じ。でも、今回は違うみたいだな」
俺が居るのは、AFOの世界ならばごくありふれた街並みの中。
人々が行きかい、生を謳歌している……逆に言えば違和感しかない世界。
留まっていても何も分からないので、とりあえず歩を進め散策開始。
俺という異物が紛れ込んでも、何も気にしないような世界……やはりおかしい。
そもそも、この魔導で行き着く世界にはある程度条件が存在する。
──対象となった眷属が、死を願った世界線であることだ。
なので一回目は英雄と呼ばれるほどに死を生み出した『双天英雄』の下へ、二回目は災凶種に成り果てようと命の輝きを探求し続けた『僭屍満候』の下に辿り着いた。
「なら、ここはいった、い…………」
考えに耽りながら歩いていた。
辿り着いたそこからは、あるものを観ることができた。
かつて訪れ、そして彼女と共に祈った地。
昔は鬱蒼とした森の中に在ったソレ──神殿が森を切り開き、誰でも通えるよう整備された形で存在している。
「つまり、ここはリラのIFなのか……いやまあ、たしかに平和なのはそれでか」
時間も無いのでさっさと移動開始。
何か特別な日なのか、多くの人々がそちらへ向かっている様子だ。
何となくだが、この世界はIFであってIFでないことも分かってしまう。
──ある意味、俺たちの選択こそがIF的なものだったからな。
◆ □ ◆ □ ◆
神殿には神族を崇める像が置かれている。
その名はティーザ、リラ曰く献上の女神とかつて教えてくれた。
だが当時と違うものが一つ、この神殿には存在している。
──女神の隣で目を閉じ、祈りを捧げる一人の少女の像だった。
「『己の生涯で得たすべてを捧げ、数多くの者に救いをもたらした献上の使徒』ねぇ……名前が無いのが、あの娘らしいよ」
このIFルートにおいて、彼女は自らのすべてを──衣服だけでなく、スキルをも人々に与えた。
それが可能な力を持っていて、そうすることを彼女が当然だと思っていたから。
そして、同時にあることも分かる──彼女は自らの死すらも、捧げて願ったのだろう。
「どうせなら、その時に呼ばれていれば助けられたのかもしれないのに……」
すべてはIFの話、だがほぼ間違いなく正史であれば起きたであろう事象。
だからこそ、俺の目は像の下に書かれた文面を読み続けてしまう。
彼女に救われた人々たち、彼らは与えられたモノと共に幸せになっていった。
その恩返しをしたい、そう思い彼女を探したがどこを探しても見つからない。
最後に残ったのは森とその奥にある神殿。
凶悪な竜が住まうはずのそこにその姿はなく、人々は神殿に辿り着き見つけた──血塗れで息を引き取った少女の姿を。
自らの命を捧げ、竜種を討った彼女の在り様を見て、人々は悔やみ嘆いた。
自分たちが彼女に嘆願しなければ、死ぬことは無かったのかもしれないと。
「……救いが無いよ、まったく。どうせなら原作みたく、ただリラが幸せになるだけの話でいいだろうに」
だからこそ、運命の女神も彼女に干渉したと分かるからこそムシャクシャする。
救いの無い終わりが、最終的に良いものになれば……そう思ったからこその束縛だ。
彼女の献身が人々を救う、しかし彼女自身は救われない。
それに彼女自身がそれを望んだ以上、運命は変わらない──理不尽でも無ければ。
「幸せかはともかく、あの娘自身は満足感はあったんだろうな……これ、俺がここから居なくなった後、どういう風に伝わるんだ?」
まあ、それは起きれば分かるはずだ。
時間切れとなり消える世界──たった一人の少女が犠牲となり出来たIFから、俺は逃げるように去っていく。
◆ □ ◆ □ ◆
童話世界 献上神殿
「……死んでた……」
「俺が言うのもなんだけど、なんかいろいろと台無しだよ」
念のため、魔本『星銀の少女』を再読してみたのだが……うーん、よく分からん。
リラから自分がエイプリルフールの魔導の対象となったと聞いて、すぐに確認した。
彼女の場合、どのような選択を取ろうとだいたい身包みとスキルを剥がされる。
俺みたいに彼女自身の献上を、徹底的に妨害でもしない限り。
そんな状態で、本来の目的地である神殿まで行こうとしたらどうなるか。
例の竜種に阻まれ、死ぬか命を擲ってどうにかするかの二択しかないもんな。
「……でも、不満も後悔も無かった……本当にこれで良かったか、まだ何かやれることは無かったか……そう最後まで考えてた……」
「で、それを感じてどう思った?」
「……共感した……」
うん、もうどうにもならないや。
すべてはもしも、IFの話なのだ。
たとえ(失)笑話でも、目の前の彼女がそれを知った……それだけでも充分だろう。
彼女は童話の魔本に封じられた存在の中でも、極めて特殊な立場です
ゲーム的に言うなら、どんなルートでも最終的に死ぬ系ヒロインです
WEB小説だとなんだかんだ、転生主人公が救いたくなるタイプです
……まあ、当作品だといきなり救われましたけど




