偽善者とホワイトデー 2019
ホワイトデー。
バレンタイン同様、説明を既に済ませているので簡単に纏めると――リア充だけに行うことが許された奉納の儀である。
神はリア充にチョコを授けた。
リア充たちはその聖具を操り、世界に蔓延る魔物たちを遠き果ての深淵へ陥れる。
リア充はその威光に感謝し、与えられた聖具の何倍もの供物を捧げる――それがホワイトデーなのだ。
「……いろいろと違う気もするが、まあようはこんなものだろう」
「で、なんで俺まで駆り出されてんだよ」
「コアさんに贈るんじゃないのか?」
「そ、そうだけどよ……」
俺とカナタの二人は、厨房を貸切状態にしてホワイトデーのプレゼントを作成中。
共に贈るべき相手が居る身、例え片方の容姿が女子だろうと気にしてはいられない。
「元男を連れてくるっていうなら、リョクとかクエラム、微妙だがソウも引っ張って来るが……バレンタインを渡された、という条件が入るとお前しかいなかった。リア充コンビであるアマルとウルスは……いろいろと忙しそうだしな」
「まさか、異世界でTSして後にようやくこのイベントに関われるようになるとは……って、いろいろとおかしいだろ!」
「諦めろ。チョコを貰った時点で、非リアに許されるのはその何十倍もの品を届けることだけなんだ。悪魔と契約した時点で、俺たちに未来なんてない」
「あの悪魔め……」
カナタの材料を混ぜる音が、いっそう強くなったが気にしない。
ミニイベントで行われたチョコ乱獲によって、材料はほぼ無限にあった。
俺は異端審査会のような目にあったが、あの後眷属たちは普通にチョコを作った。
そしてカナタもまた、チョコを作り俺とコアに渡した。
俺は怒られながらも作り上げたココアクッキーを渡したんだが……コアがな。
チョコ自体に仕掛けをしたわけじゃない。
自分をコーティングして『わ・た・し』をしたわけでもない。
だが結果として――塔を建設したのだ。
事情は知らない、だが翌日の艶々した顔とゲッソリした顔を見れば良く分かる。
「大変だったんだな……お前も。全身チョココーティングの世界最強の龍に追われたり、一人一人は普通だけど、組み合わせて食べると状態異常を引き起こす仕掛け付きなんて小さい物とは大違いだな」
「…………いや、お前の方がヤバいだろ」
そうだろうか? 俺に実質的な被害は皆無だったし、カナタの方が大変だろう。
「ま、お互い様ってことで――よし、完成した。カナタ、味見頼む」
「オッケ……ェって、何これ」
「マシュマカロンだ。マシュマロの柔らかさとマカロンのサクサク感とネチネチ感を併せ持った一品……どうだ、イケるか?」
会話中に手を動かして作り上げた名作。
中にチョコも入れてある、極上の品だ。
「――――!」
それを口に含んだカナタ、物凄く幸せそうな顔をしています。
なんだか料理兼バトル漫画のタッチで幸悦しているんだか……ソーマを混ぜた覚えは無いぞ。
よし、これならバッチ『駄目だ!』……リにはならなかったようだ。
「何が駄目だったんだ?」
「旨すぎる……また同じ目にあうぞ」
「ふっ、構わないさ。例えどれだけ折檻されようと、俺は愛しきハーレムたちに愛を囁きたいんだ」
「……い、言ってて恥ずかしくねぇか?」
「…………超絶恥ずかしい」
カナタの予想は的中し、美味しすぎると怒られることになった。
だがいいんだ、笑顔で怒られたのだから。