偽善者とひな祭り 2019
ひな祭り云々で親バカを極めている大人たち、誰も彼もが自分の娘こそが一番だと自負するため、舞台裏では『うちの娘1グランプリ』が行われているのだが……子供たちはそれを知らない。
いや、別に教える気も無いけどさ。
俺も俺で、ミントとカグの素晴らしさを熱く語っているわけだし。
「よーし、みんなでひなあられを作ろう!」
『おー!』
「作り方は二つあるから、どっちでも好きな方で作ってみてね!」
日本においてひなあられは、関東と関西で作り方が異なる。
関東は……そう、ポン菓子とか呼ばれるお菓子に似ているんだよな。
関西はモチを膨らませる感じだ。
去年はどちらかといえば大人たちのためのひな祭り、みたいな感じになってしまった。
なので今回は子供が大人のためにお菓子を作りプレゼントする企画を用意したのだ。
「おれは弾ける方かな?」「わたしは膨らむ方がいいわ」「どっちも作りたいなぁ……」
「うんうん、決まった方の場所に行ってね。並んである材料とレシピ通りに作れば、とりあえずちゃんとした物ができあがるよ」
いつの世も、アレンジを勝手に加える者が現れるものである。
その理由は人によるが、その大半がより美味しくしたいという願いから生まれているからこそ、性質が悪いんだよ。
関東組はモチ米を170℃の油で揚げさせ、弾ける音を楽しませた。
関西組はひし餅をオーブンに入れて、膨らむ様子を楽しませる。
ワイワイと、そしてキャピキャピしながらお菓子を作る様子にほっこりしながら、同時に片目を輝かせてその景色を送信していた。
父母に見せておかないと、頑張っているところを見せられないからな。
「うんうん、みんな美味しそうだね……だけど、一度食べてみようか」
「……うわ、甘すぎる!」「渋いよー」「なにこれー」「……普通に美味しいけど」
「美味しい物を食べてもらいたいって思うことは大切だけど、想いを籠めるすぎると苦しくなっちゃうんだよ。だから、大切なのは十分な量にすること──喜んでもらいたい、それだけでいいんだよ」
そう言われ、再び挑戦を始める子供たち。
当然ながら、二回目は美味しくなった。
◆ □ ◆ □ ◆
そうして出来上がったお菓子を、大人たちは号泣しながら食べている。
そこまですることかよ、とツッコみたいところだが……今の俺には、そんなことをする余裕もない。
「美味い! 美味いよ──ミント、カグ!」
「ふふーん、パパのために頑張ったんだ!」
「おにーちゃんが喜んでくれると思って、わたしも一生懸命作ったよ!」
「うぐっ……本当に、ありがとう……」
俺もまた、同じように泣いていたからな。