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偽善者とバレンタイン 2019



 バレンタイン。

 それは、男たちに己の矮小さを気づかせる審判の日である。


 モテない男は当然として、モテる男であろうと自身がどれだけちっぽけな男なのかを痛悔する。

 どの地域、どの国、どの世界であろうとその絶対的な法則には敵わないのだ。



 たとえ話をしよう。

 モテモテの男がチョコを大量に手に入れることに成功する……この時点で舌打ちをしたくなるだろうが、とりあえず我慢を。


 そうして掻き集めたチョコは、自身がどれだけ女性からの好意を集められているかの証拠にもなりうる。

 故に男たちはその数を競い、一喜一憂しているわけだが……。



 十倍返し、という言葉を挙げてみよう。

 貰った品の価値を調べ、その十倍の価値を持つ品で礼を行うという悪しき風習だ。

 特にバレンタイン、並びにホワイトデーの場合はそれに該当する。


 先制は必ず女子、男子は後手に回ってしまうことは避けられない。

 女子とは与える側であり、男子とは授かる側──それは徹さなければならない理だ。


 

 相手がたとえチ□ルチョコのような、五円チョコのようなものを渡してこようと、男子はその十倍以上の価値を持つチョコを用意して献上しなければならない。


 また、安物のチョコを渡してくる女子ならばまだマシだ……自作自演のために材料を買い込んで失敗を演出した手作り(笑)を用意するモノや、価値は値段と高級品を贈ってくる者には気を付けるべきだろう。


 ──男子はその十倍、いったいどれだけの金銭を使わせるつもりなのだろうか。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 始まりの草原


 なんだかいろんな場所からお呼びがかかっているが、今日だけは有休ということですべてをバックレて逃げ出すことにした。


「今回のイベントで、チョコの種類が増えていればいいんだけど」


 運営側がどこかとコラボったのか、前回のバレンタインイベントよりも味の質というかもう知っている感が向上していた。

 俺としてはアポロさんや山里さんが来てくれれば嬉しいんだが……これは無理だろう。


「草原や、モテない奴が、夢の跡……つまんないし面白くないけど……心にクるなぁ」


 川柳を詠んで現実から目を逸らしてみたものの、それでも目の前の光景は変わらない。

 一心不乱にイベント限定のチョコレートでできた魔物たちを、殺戮し合う祈念者(プレイヤー)たち。


「いっそ哀れだ。勝ち組はそんなことしなくても、アイテムが手に入るというのに」


 男だけのパーティーの場合、魔物を倒すことでしか手に入らないアイテムを町で交換してようやくチョコが手に入る。

 だが、女性だけのパーティーや混合の場合は、町中で特定の動作をするだけで簡単に手に入れることができるのだ。


「まあ、殺して奪えるシステムなのはいいことだよな。今日だけはPKも自由だし」


 チョコを簡単な方のやり方で手に入れたプレイヤーは、自動的に町中でもPKを許諾する設定になってしまう。

 タダより安い物はない、その対価は己の命で支払うべきものなのだ。


「さてと、俺も参加しますか」


 暇な姿を見せれば、俺もまた十倍返しの被害者入りだろう。

 なればこそ、戦い続ける姿を見せる必要があった。


「──リア充狩りじゃー!」


 いやまあ、ここにはいないけどさ。



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