偽善者とバレンタイン 2023
バレンタイン。
それはチョコを求める男たちの戦いであると共に、与える女たちの戦いをも意味する。
……まあ個人的なことを言うなら、俺には縁など無かったわけだが。
最近では、VR世界内でチョコを渡すのも流行っていると知り合いから聞いた。
こちらの世界でなら太らないし、チョコにもバフという理由を付けられる。
大義名分を持って渡すならば、男性側も女性側も問題無い……ということなのだろう。
甘いモノは嫌いなヤツも、カロリーを気にするヤツも関係無いからな。
◆ □ ◆ □ ◆
始まりの街 クランハウス『ユニーク』
「──はい、これ」
「………………“解病回復”」
「……死にたいの?」
「いやほら、正直に言うとありえないと思ってたから──危なっ!?」
ナックルに呼び出された俺は、いつものように彼を待っていたのだが……なぜかそこにアルカが、チョコを持って現れた。
デレ皆無のツンドラさんが、どういう風の吹き回しかと疑った果て、新種の病気にでも感染したと思ったのだが…………うん、さすがにからかい過ぎたか。
どうしたものかと考えていると、クランハウスの奥からユウが現れた。
……どうやら展開を察していたのか、すぐに彼女に近づき宥めようとする。
「もう、師匠もアルカもダメだよ。お互い素直に……きゃっ!」
「ユウ、アンタも死にたいの?」
「酷い!? せっかくみんなで協力して作ったんだから、僕にだって発言の権利はあると思うよ!」
「…………ふんっ!」
一先ず魔力を周囲に広げていたアルカが、それを解除する。
ユウはそっぽを向く彼女に苦笑しながら、[アイテムボックス]から箱を取り出す。
「はい、これは僕からのプレゼント。アルカのといっしょに食べてね」
「ああ、貰っとく。お返しは三倍か?」
「……師匠の三倍って、なんか怖いからいいかな? うん、お気持ちだけ貰っとくよ」
「……まあ、否定はしないけど。アルカも、ありがとな」
「! 好きにすれば。言っとくけど、他のクランメンバーにも作ってあるから」
ここで『勘違いしないでよね!』とか言われたら、それこそアレだな……と思うが、真顔で言う辺りはさすがだ。
──うん、ホワイトデーは三倍(+α)でお返ししようか。
◆ □ ◆ □ ◆
「ねぇ、アルカ。それで、表情を隠す魔法まで作って誤魔化した感想は?」
「…………別に、これは通用するかを試すために使っただけよ」
「ふーん」
「なに、その顔」
「それはこっちの台詞かな……うん、今のアルカの真っ赤な顔なら、師匠も──」
──その後しばらく、ユウの姿を見た者は居なかったという。




