偽善者と七夕 2020
七夕。
これはもともと中国の行事だったものが、日本に伝わったとされる。
乞巧奠という催しなのだが、針の穴に綺麗な糸を通して捧げものをしていたんだとか。
しかしまあ、七本の糸を通していったいどうしろという話だ。
まあ、針仕事を行う者たちの間で行われていたことで、祈る内容も針仕事関連である。
こっちの世界で言うところの、裁縫術のスキルレベルのアップを祈っているのだ。
あまりに範囲が狭すぎる……さて、今年はいったい何をしようか。
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少々重々しい雲が天を覆う中、俺はイベント会場の舞台上で民たちに語り掛ける。
「前回は一人しか恩恵にあやかれないイベントだったが、今回は違う。みんな、それぞれに糸を通す七つの穴が付いた魔道具が配布されたと思う」
今回の七夕イベント用に、大量生産を行った魔道具だ。
複製魔法が無かったら、たぶん根を上げていただろうな。
「この会場の至る所に、糸の素材となる七夕にちなんだアイテムを並べてある。そこには糸の効果が記されているから、みんなは好きな糸を選んで穴を繋いでいくんだ」
宇宙……星海にも行けるようになった今の俺は、そこで素材を集めることができる。
さすがに地球と星座は違うので、七夕関係の星からには行けないけどな。
それでも星に関するアイテムや、その他大自然から集めたアイテムなどもある。
他にもさまざまな補正効果をもたらすアイテムを、糸にして用意した。
「その魔道具は、その糸を通す順番などで効果も変わるからな。正直、狙ってやらない限りその効果が被るとは思わないな。まさに自分だけの願いを込めて、創られた魔道具になるわけだ」
それを創り上げるために、多少の苦労をしたわけだが……それはまあ、喜んでくれている民たちの表情を見れば、報われたと思えるからいいとしよう。
ちなみに糸の通し方と言っても、本当に七つの穴をどこから通して行くかというだけなので、子供が適当に通すだけで完成できる単純な構造だ。
システム的な話をすると、穴を通す魔道具自体の効果はあんまりない。
そこに糸を通すことで、リソースが入って素材に合った効果を発揮するという感じだ。
「今回は何かを競うわけじゃない。綺麗な色で決めるのではなく、どんな願いを込めるのかが重要だ。一年続く祈りだ、肌身離さず持つものだからしっかりと考えてくれよ」
『はい!』
「いい返事だ。さて、当然だがこの祭りは一日限りのモノだ。しかし、忙しいモノも居ることを考慮し、一月後の今日もまた行う。家族の分も作ろうとか、そういうことは思わなくていいぞ」
ただし、今日作ったヤツは次回作ることはできない。
願いを書き換える……なんてことは、あんまりしてほしくないからな。
「さぁ、祭りを開催しよう! 魔導解放──“移りゆく天なる意気”!」
魔導を使い、雲を一気に払う。
すると夜空に輝くのは、満天の星空と鮮やかな天の川。
本来、AFOの世界では見られない代物だが……ここは俺の世界だからな。
いろいろと迷宮や世界の設定を弄り、本日限りでやってもらいました。
「俺も楽しもうか……今回は、サポートとしてだけどな」
どんな糸にどんな効果があるのか、それぐらいは教えていくつもりだ。
みんながどんな願いを紡いでいくのか、今から楽しみだな。




