偽善者とこどもの日 2019
こどもの日。
今回は鯉のぼりについてだ。
皐幟、鯉の吹き流しとも呼ぶそれは、正確にはこどもの日である端午の節句に行われるイベントではなく、梅雨の時期に訪れる雨の日に鯉を飾るイベントだ。
……それを考えると、快晴の日に映えて見える鯉のぼりはある意味間違いってことになるんだよな。
今では家族のように鯉を飾るため、何色か鮮やかな鯉が幟っているが……明治時代は黒色の真鯉と緋鯉の一対、それよりも前は真鯉しか飾られていなかった。
昭和時代になって、ようやく青色の小鯉が添えられる物が主流となる。
このとき、赤い裸の男の子が描かれた柄が出るようになったらしいが……某大物殺しな金色な太郎さんらしい。
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第一世界 特設会場
「第一回、こいのぼりコンテストーーー!!」
祝砲(自前)が鳴り響き、歓声が至る所で鳴り止まない……要らなかったかな?
俺と一部の眷属は、そんな光景を特設会場に用意された審査員席で眺めている。
「なぜか司会をやっているアリィだよー! なんだか定番になっているホウライちゃんは今回、参加者だから司会の権利は剥奪さ!」
アリィには今回、司会をやってもらった。
理由は本人が言ったことに加え、他の司会候補者も参加しているため、誰もやる奴がいなかったのだ。
「今回のこいのぼりコンテスト、その参加者の多さから予選まで行われました! そして予選を突破した三つのこいのぼりが、この場に集結したよー! さぁ、優勝して賞品であるメルスのお城に飾られるのはどれだー!?」
天空の城のことではなく、リーン城の一番上に設置した竿から飾られる。
なぜか国民たちがその座を求めて争っているのだが……十個もあればいいと思ったら、千個以上応募されたのでこうなった。
うん、最初は出たのを全部飾ればいいと考えていたが……景観的に問題があると言われてしまったため、リーンの将たちと相談した結果──なぜか一枠になったんだよな。
「どんどん紹介しましょう──まずは一番のメルス様教団チーム(笑)! こいのぼりの鱗一枚一枚が、メルス様(笑)を讃える絵が描かれているみたいだよ(笑)!」
アリィの半端ない笑みが漏れている。
構成メンバーの数が最大なのもあって、超巨大なこいのぼりに緻密な絵を施すようなことができたようだ。
「お次は迷宮学校一年生チーム! とっても可愛らしい絵がいいよねー。鱗の色が重ならないようになっていたる辺りは、なんだか計算されているけどねー」
カグが参加しているチームなので、まあそういうこともできている。
こいのぼり自体はとてもデフォルメされており、なんだかこう……和むんだよな。
「最後はXチーム! 名前非公開の彼らが描いたのは、ドラゴンのような鯉! 鯉の滝登りというメルスの世界にある言葉を忠実に再現しています──ちなみにこれ、ゴリ押ししたの三人だけですよー!」
誰が用意したのか知らないが、実に心をくすぐる名作だったと俺は思う。
残念ながら、同意してくれる人はごく少数だったが……やはり会場の中にも、同じ志を抱く同志が居るな。
「さぁ、投票を行おうー! それぞれこいのぼりの前に立って、その人数が投票数になるからね。座っているメルスたちはその一票が十票分ってだけ。決して、メルスの独断でこいのぼりが決まるわけじゃないよーーー!!」
……くっ、権威に屈さないことはいいことなんだが、どうにもゴリ押ししたい時には欲しくなるものだ。
「──というわけで、優勝はお察しの通りメルス教団チーム(笑)! そもそもこの世界はメルス教(笑)が多いんだから、この結果は当然だよねー!」
優勝はどれだけ抗おうと、民衆の力に負けてアレになってしまった。
城の上に飾られるであろうこいのぼりを眺め、少しげんなりとした気分になる。
「けどけどー、残った二つの作品も特別に、メルスが飾ってくれるみたいだよー! さぁメルス、やっちゃってーーー!!」
「あいよ──それじゃあみんなご注目! 世にも奇妙な空中遊泳!」
なんだかよく使っている魔導の中から、この状況に合ったものを選び出す。
そして、見つけ出したそれを意識し、高々に叫ぶ。
「魔導解放──“不可思議な玩具箱”!」
その効果範囲に入っていた二つのこいのぼりは、突然息を取り戻したかのようにピチピチと揺れ動き、そのまま空へ飛んでいく。
そして会場を中心に円を描くような軌跡を描いて泳ぎだす。
「と、いうわけであのこいのぼりは今日の間ずっと動いていられるみたいだよ。時々下に降りてきて、子供を乗せてくれるみたいだからよい子はここで待っていよう──それじゃあこいのぼりコンテスト、これにて閉会!」
アリィがそう纏めた瞬間──子供たちがいつの間にか用意されていた『発着場』と書かれた看板の下に集結する。
数が多いと落ちた時の回収に困るが……まあ、やれるだけやってみるか。




