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第二話 ウワサの男子


「野々花~3限目体育だよ。体育館行こ?」


「うん。裕翔がいないけど、一緒に行かないの?」


「や、いつも一緒にいるわけじゃないし。野々花は好きになったらずっと一緒にいたいの?」


「んー……どうなのかな。まだ分かんないよ」


「まずは、お兄ちゃんに勝てる男子を見つけようか」


 そんなことをセナと話しながら、体育館へ移動していたわたしたち。時間には余裕があっただけに、長い廊下を二人でゆっくり歩いていたら、聞き覚えのある声の男子に後ろから声をかけられた。


「星空と風岡、ちょい待った」


 聞き覚えというより、いつも聞いてるからすぐに声のした後ろを振り向いた。それは良かったけれど、裕翔の他に、知らない男子も立ってて少し驚いてしまった。


「裕翔、何? ウチら急ぐんだけど」


「てか、星空は先、行ってていい。用があるの、風岡だけだしな」


「は? 何かその言い方ムカつくんだけど。裕翔、あんた何考えてんの? その隣にいる男子、誰?」


 わたしよりも先にせなが気付いていて、彼氏の裕翔と隣の男子に睨んでた。裕翔はともかく、隣の男子は見たこともないしまだ声も聞いていないけれど、背はお兄ちゃんくらいで175センチくらいだし、何かの制汗剤をつけてるっぽくてふわっとした柑橘系の香りが鼻をくすぐってきた。


 そよ風が吹いたら流している前髪がなびきそう。眉もキリっと整えてるし、爽やか男子って感じ。そんな男子が裕翔といるなんて意外すぎ。友達なのかな?


「えっと、コイツ俺のダチなんだけど、クラスはもちろん違う。で、風岡に話があるっていうから連れてきた。ってか、どっちみち体育がコイツのクラスと合同だからその時でもいいっちゃいいんだけどさ」


「それで? その男子が野々花に何の用?」


「ちと星空は黙れって」


 せなが本気でムカついていて、喧嘩が始まりそうな気がしたので、わたしからその男子に話しかけるしかないみたいだった。


「えと、わたしに話があるって」


「うん。少しだけでいいから、そこの自販の前でいい?」


「あ、はい」


 体育館の手前廊下には、自販機が数台並んでいた。そこで話を聞くことにして彼に付いていく。


「俺、1Cの瀬木谷光琉せきやひかる。風岡、あのさ……風岡のことが好き――」


「――えっ?」


「好き……な人っていたりする?」


「わたしのことが好きな人? や、分かんないです」


「じゃ、じゃなくて……俺は風岡のことが」


「「野々花~! もうすぐ時間だからダッシュよろしく」」


「「うん! すぐに行くねー!」」


 体育館側からセナの声が廊下に響き渡っていて、わたしもつられて大きな声を出してしまった。そのせいで、瀬木谷くんが直前に言おうとしたことがすっかり消えてしまっていた。


「ごめんなさい。ネット張らないとなので、先に行きます。瀬木谷くん、また機会のある時に~!」


「あ……いや、俺も同じ体育だから」


「でした。じゃあ、一緒に体育館にダッシュで」


「うん、急ごうか」


 気づいたらセナも裕翔も先に体育館に行ってた。裕翔は、瀬木谷くんの肩を抱きながら「お前、何やってんだよ」なんてことを言ってた。瀬木谷くんは視線を落として誰からも分かるくらいの深いため息をついていた。


「あの男子に何か言われた?」


「んと、わたしのことが好きな人っているかどうか聞いてきたよ。それはさすがに分からないし、答えられなくてごめんって思ったよ」


「あー……それ、多分そうじゃなかったんだと思われ……」


「その後に何か別なことを言おうとしてたけど、セナの声でよく分かんなかった」


 これを言ったら、せなも何故かわたしの肩を抱いてきて、「すまんかった」なんて言ってた。そんな彼女が何だか可愛かった。


 体育は合同授業のバレーだった。だからといって、普段絡まない別クラスの人と話すかというと、今のところはそんなことは無くて、ゲーム中はボールを目で追ったりするので精一杯だった。


「野々花、おつー! 着替えたら屋上行く? そのまま昼突入だし」


「うん。それでいいよ」


 合同授業の時は3限と4限が使われるので、それさえ乗り切れば、待ちかねたお昼に突入出来るのが何気に嬉しい。結局、瀬木谷くんは授業が始まった時点で互いに近づくこともなく、話す機会は得られなかった。


 お昼は大体、セナと裕翔と一緒に屋上で食べていた。だけど、今日に限っては裕翔がいなくて、そのことをせなに聞いても、「気にしなくていいよ」って返事しか返ってこなかった。もしかしなくても、本当に別れるつもりなのかな。その心配をわたしがしても仕方がないのだけれど、何となく気になってしまった。


 わたしじゃない他の誰か、この場合はセナと裕翔のことになるけれど、知らないところで関係性が変わっていっているような、そんな気がした。わたしもいつかセナたちのように、関係が変わっていくことがあるのだろうかと思いながら、お昼を過ごすしかなかった。


「というか、野々花に話しかけてきた男子の名前は何?」


「瀬木谷光琉くん。裕翔の友達にしては釣り合わないよね」


「あー噂の――や、何でもない」


「言いかけてそれは厳しいなぁ。ウワサって、いいウワサ? それとも……?」


「ごめん! それについては確定してないんだよね。後できちんと調べとく! ってか、あいつに聞くのが早いし、聞いとくよ。あ、でも、そんな悪いウワサとかじゃないから、安心して?」


「わたしが知らないだけで、他の子たちは瀬木谷くんのことが分かるってこと?」


「うん、たぶん。教室戻ったら、さくらに聞いてみて。あの子、何気に情報通だし」


「分かった。セナが言うならそうかも」


 わたしに何かを言いかけた瀬木谷くん。せなが言いかけた彼のウワサのことは、少しだけ気になった。けれど、気になるというのはウワサの意味のことであって、彼のことが気になったわけじゃなかった。それは結局のところ、初めましての紹介に始まってうやむやなままで話が簡単に終わってしまったからだと思う。


 瀬木谷光琉くんのことはさくらに聞いてみよう。同じクラスの世話好きさくらちゃん。彼のことを気になるかもしれないのは、彼女に聞いてからだよね、きっと。

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