ー第3話ドルフィンスイート999
ー第3話ドルフィンスイート999
部屋数が999有る訳ではない。ドルフィンホテルの最高級スイートの部屋番号が999になっている。
入口は地下駐車場の専用駐車エリアに専用エレベーターが有る。メモの数列を入力するとエレベーターが降りて来て、ドアが開いた。
上がって降りると、木製のドアが有る。
美里は柔らかい光に照らされたドアを見た。
「?…なに」
少し開いていて、よく見ると手首が見えた。
引き返そうと思う気持ちを、好奇心が押さえつけた。
ゆっくりとドアを押してみる。室内は明るくて、廊下の先にバスローブを着た男が倒れており、背中を向けて誰かが立っている。太い首と筋肉で盛り上がった肩。44ヘッドクォーターとプリントされたTシャツ…。
「恭之助……何やってるの?」
恭之助が振り返った。彼は趣味で古武道を15年やっている。足元の黒いスーツのボディーガードと、少し先に倒れている黒いスーツも一瞬にして恭之助がやったらしい。
バスローブは美里を抱く為に準備オッケーのスフィア会長だろう。
「会長をぶん殴りに来たんだろ?やっといたよ」
「何で判ったの?」
恭之助はナイフのような目を緩めて、微笑んだ。
「何年サットの彼氏をやってる?話す前から何やらかすか判ってたよ」
「どうするのこれ?」
美里は会長と二人のボディーガードを見た。
「俺はこの業界じゃ終了だ。だがサットは、またメンバー集めて出直せ」
「待って。二人で成功しなかったら意味ない。恭之助とじゃなきゃ意味ないんだよ!」
美里は目から涙があふれるのを感じた。
「俺は。名前と姿を変えて業界に戻ってくる。戻って、サットがピンチな時、必ず守る。サットが成功する時、必ず近くにいる。サットには俺と判らなくても。約束する」
美里はボディーガードをまたいで恭之助に歩み寄った。
「サット。俺がウソついた事はあるか?」
「ないよ」
「俺は信用できない?」
「ずっと信じてきた。これからも信じたいよ」
「だったら、黒い二人が起き上がる前に、ここを出ろ。リリア達を集めて事情を説明して44を解散しろ。クラブテラの社長に謝っといてくれ。スタッフにも納得してもらうまで説明しろ……」
美里は恭之助を遮るように抱きついた。
「サット!いくんだ!」
「イヤだよ!離れたくないよ!」
恭之助は美里を無理に突き放した。
「しっかりしろ!ロックンローラー!振り返るな!お前が音楽を選んだんじゃない!音楽がお前を選んだんだ!音楽に背を向けるな!行けっミサトっ!」
美里は泣きながら、後ずさりした。
足元のボディーガードがうめき声を洩らした。
最後の恭之助を記憶に焼き付けて、美里は振り返った。
そして。
疾走た。
明日に。




