ー第2話池上商店街ナイトパフォーマンスストリート
ー第2話池上商店街ナイトパフォーマンスストリート
ドルフィンホテルは、クラブテラから歩いて10分くらいの場所に有る。
恭之助から握らされたメモには、999号室のドア前でコールするよう電話番号が書かれていた。
シャッターの降りた商店街で1人だけ少年が歌っている。さすがに夜も8時を廻ると女の子はいない。
音楽を始めた頃の自分のように、路上でフェンダーにミニアンプで歌っている少年の前で足を止めた。
5人が手拍子をしながら聴いている。ブルーススプリングスティーンかぁ…チューニングが合ってないな…2弦がフラットしてる?…声は良いけど抜けてない…完コピじゃなくて独自アレンジのセンスは悪くない。
歌が終わった。美里も拍手する。
この少年が今夜の美里の事情を知ったなら、なんと言うだろう?
少年が美里を見た。
「44のミサトさん?」
5人の観客も美里を見る。
「似てるでしょ?よく言われる」
笑ってみせる。
「だめですよ。そのギターケースのデコレ。レスターか奈美んちょが勝手に10分で仕上げた奴ですよ」
「だったらどうする?」
「ハングリーハートを一緒に歌って頂けませんか?動画Up してましたよね?。ソロ活動の時」
「オーケー、2弦を直してくれたら歌いましょ!」
少年はハニカンだ。
「すいません。やっぱプロは違いますね」
少年と熱唱した。誰の為でもなく、ただただ歌う。ギャラもダウンロード数もメジャーもない。
歌うって、こんなに愉快な事だったなんて忘れていた。
少年も自分も観客も熱唱して歌いきると、大声で笑い合った。
「44ってメジャーデビュー近いって聞きましたけど?するんですか?」
美里は少し考えた。
「しないの。ごめんなさい。メジャーでやるには、ぜんぜん勉強が足りなくて。もう一度メンバー全員勉強し直して、またメジャーに挑戦する。待ってて!」
そう。何もかも足りなかった。この5年を更地にしてやり直してやる。
「なんかアドバイスお願いできませんか?」
「ミュージシャンは音楽の兵士。どんな事が起ころうと、最後までプレイする。世界が終わる瞬間にも、成すべき事は歌いきる事よ」
少年はうなずいて泣いた。
「凄いアドバイス、泣けます」
美里も自分の胸に刻み込んだ。




