その4
その4
開演10分前になった。
オールスタンディングのフロアにぞくぞくとイギリス人が入ってくる。
マイクはまだ無い。
ステージ袖で、ミキが言った。
「多分渋滞だね」
リョウコがスマホを見ながら言った。
「最悪。イギリス、ポーツマス・ダニエルストリートを中心に20万人が集中、イギリス政府は異常事態宣言を発表。治安部隊に加え、軍も投入か?原因は日本人ロックバンドの動画か?だって」
「新宿の5万を軽く抜くとはね」
「マイクは?」
「さっき恭之助さんに状況メールしたら、まかせろ!って来た。おじいさんのバイク画像にコメントつけてる」
「なんて?」
「リリアントワネットが使うマイクを運んでいます。道を開けて!」
「でももうあと5分だよ」
リリアがPCのマウスを触った。
「ライブ映像よ。なにこれ……」
ドローン空撮が、見渡す限り街を埋めている人々の光景を映し出している。
それがモーゼの十戒の映画のように割れて行く。
そこを黄色いバイクが疾走してくる。
「信じられない……」
「あっここ。この店……」
言い終わらない内に、ステージの方で
ドンッ
と音がしてタイヤの軋む音とエンジン音がした。ステージに走って行く。
黄色いデカイバイクの上で、白いコールマンヒゲの老人が笑っていた。
タンクバックから、2本のゴールデンマイクを差し出した。
2本のマイクは繋がれ、そのマイクを老人とリリアが持った。
安藤君が通訳する。
「姫様。遅れました。御約束のマイクでございます。お納め下さい」
リリアが言う。
「あなたはモーゼですか?」
「いえ。1字違いのモーゼスキャバリエと申します」
「入り口から、素晴らしいジャンプと着地でした。これからモーゼとお呼びしても良いですか?リリアと呼んで下さい」
「おぉリリア姫。あなたが群衆を割ったのです。あなたの道を、この栄光のトライアンフで駆け抜けられた事を名誉に思います」
フロアを埋めた群衆から拍手が起こった。
そして、フロアから声がした。
~感動のシーンを邪魔して悪いんだけど……その…ライブ、やってくんない?~




