ー最終話
ー最終話
美里は、ステージ衣装が掛かっているハンガーの中から、ポールスチュワートの衣装袋に入っている、スーツ一式とタイトスカートを取り出した。
恭之助が高級車1台買えるフィギュアを売って作ってくれた服だ。
異常に顔の広い恭之助は、ハーディエイミスのデザイナーにデザインさせ、生地もこのデザイナーが選んだ。そして、三陽商会に縫製仕立てさせた。ライセンス契約が切れるまで、バーバリーの国内向け生産をしていた。今はポールスチュワートとライセンス契約している。
恭之助に言わせれば、世界最高ナンバーワンの縫製仕立てだそうだ。
「こいつを着て、グラミー賞を受け取るんだ。なんだよ?ジョークだと思ってるだろ?俺は本気だ」
まだ動画の視聴回数も100を越えない、無名の頃でクラブテラに出演交渉していた。
いつか。ここでプレイしようと、移転前六本木のトリニティブルーで食事していた時の言葉だ。
美里は、その言葉を噛みしめるようにスーツを着た。
クラブテラに入って行くと、オーナーが黙って手を握りしめて泣いた。
「消えて行った連中の無念の為にも、メジャーで売れてくれ」
「ここまで来るんだって無理だと思ってました。だから、行くんだと思います。たくさんの人に押し上げられて。オーナーには、誰も居ない最初に押し上げて頂きました。これからもお願いします!」
「ここから先はもう、僕の力は及ばない。駄目だったら、ここに帰ってこい。歌う場所はちゃんと開けておく。行きなさい。山谷さんが待ってる」
オーナーは美里の体を回して、背中をドンっと押した。初ステージで、出て行けない自分をそうやって押し出してくれた。
山谷さんは変わる事なく、淡々とメイクを始めた。
「今日は、スプレーじゃないんですね?」
普通に化粧筆だった。
「ライブではないと聞いたので。通常仕様です」
「これからメジャー契約します」
「やっとスタートラインですか。立てない人もいるんでしょうけど。これから高いレベルで走り続けなきゃ。美里さん達が今の音楽のレベルを作って行くんですね。大変だ」
「みんなが押し上げてくれるなら、それに応える事は精神的に無理じゃないです」
念入りに丁寧に仕上げてくれた。
「記念写真とりますよね。写真写りも良い感じにします。これ泣いても良いメイクなので我慢しなくてもいいですよ」
エリアとレスターか奈美んちょ、ゴトコットンが入ってきた。
「美里~そのスーツ。生地がなんか違う?」
エリアが触って感触を確かめてきた。
「シャネルっぽい…けど…マークがない」
ゴトコットンが言うと、か奈美んちょが言った。
「デビ夫人のマークのないシャネル~!」
美里は右手を振って否定した。
「バーバリーやってた三陽商会のオーダーメイド」
エリアが、あ~という顔をした。
「知ってる。仕立て良いんでしょ。さては恭之助君?」
美里はウンとだけうなづいた。
全員メイクが終わると、クラブテラの応接室に移動して待った。




