お腹がすきました
書きながらお腹がすきました……晩ごはんの時間に投稿です。
ルミナリアは、この世界で初めての本格的な料理に出会います……そのお味は……
それでは第8話です。どうぞ。
夕陽に染まる町並みを歩く三人の姿は、屋台が並び、人混みで賑わう大通りから外れた場所にある飲食店の並ぶ通りにあった。
通りには様々な店が立ち並び、どの店からも食欲をそそる香りが溢れていた。
「いい匂い……歩けば歩くほどおなかが空いてきそうな場所ですね!」
「そうだろ? ここはいつでもうまそうな匂いがするもんで、腹ペコ通りなんて呼ばれたりもするんだ。で、今向かってるのもこの通りにある店だ。味は保証するぜ! 肉料理はジューシーでうまいぞー!」
「私のおすすめは、シチューね、濃厚な味が堪らないわよ」
きゅぅ――
「ぁ……」
「お?」
「あらあら」
周囲に満ちる食欲を刺激する香りと、二人の話に、ルミナリアの腹の虫が鳴き始める。どうやらすぐ側にいた二人には聞こえてしまったようだ。
「はっはっは! ルミナの腹が本人の代わりに早くつれてけって催促してるみたいだな!」
「もー! どうしてこのお腹は……!」
「可愛い音だったわね? どこの怪獣かしら?」
「やめてくださいよー!」
二人にからかわれ思わず赤くなるルミナリアなのであった。
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「ははは、悪かったって、そんなにむくれんなよ」
「あんなに人をからかうグリムさんが悪いんです!」
通りを歩くこと約10分。三人は木造の一軒の店の前にやってきた。
その店に到着するまで散々グリムにからかわれたルミナリアは、冷ややかな視線でグリムを見つめていた。
「まぁ確かにあれはグリムのやり過ぎね、ふふ」
ルミナリアの後ろに立つフィアナは、目の前にあるルミナリアの頭を優しく撫でながら笑っていた。撫でられる感触が嫌いではないルミナリアは特になにも言うことはなかった。
「とりあえず中にいこうぜ?」
グリムはそう言うと、目の前のドアを開け店の中に入っていった。ルミナリアとフィアナもそれに続く。
店の中はそれなりの広さを持つ、暖かみを感じる作りになっており。カウンターと8つあるテーブルでは、既に食事をしている客達で賑わっている。
「いらっしゃい、あら、グリムにフィアナちゃんじゃない」
「おばちゃん! またきたぜ!」
「サリアさんこんばんわ、テーブルは空いてますか?」
店に入った三人に、ふくよかな体型をした女性、サリアが話しかけてくる。その身に纏う雰囲気はまさに「食堂のおばちゃん」というものであった。
「丁度テーブルが空いたところだよ! あら? その子は?」
「こんばんわ、し……ルミナリアです。昨日草原でグリムさんとフィアナさんに助けていただいたんです」
思わず進藤と名乗りそうになるルミナリアだったが、なんとか間違えずに自己紹介と事情の説明をする。
「草原で角兎に襲われてたところに偶然私達が通り掛かって、ちょっと行く宛のないこの子を私達で保護してるの」
「あら、それは大変だったろうに……今日はたんと食べていきなさい! わたしが腕によりをかけて作ってあげるからね!」
そう言うと三人をテーブルに案内するサリア。促され、椅子に座ったルミナリアはテーブルの真ん中には一枚の板が置かれていることに気がついた。
「俺はいつものを頼む! ルミナ、お前はメニューを見て気になる物を選びな。今日は俺の奢りだ!」
あるきはじめてすぐの頃、当分の間は二人がルミナリアの生活費を工面してくれるという話をしていたのだ。
「グリムさん……ありがとうございます」
「さすが太っ腹ね、もちろん私の分も出してくれるのよね?」
「ぐ……ま、まぁいいだろ! ほら、早く決めな!」
「ふふ、ありがと♪」
「あはは……」
グリムの発言に便乗し、子どもっぽく微笑むフィアナ。グリムは一瞬苦い表情をしながらもしながらも強がることにしたようだ。そんな様子にルミナリアは苦笑するのだった。
そんな会話をしながら覗きこんだ板には見慣れない言語が並んでいたのだが、ルミナリアはやはり問題なく読むことができた。その中には元の世界でも見慣れた名前の料理もあったが、中には名前からは全く想像が出来ないような料理もあった。
「私は彩りシチューで」
「えっと……僕もシチューでお願いします」
ルミナリアは知らないものに挑戦することはやめ、フィアナのおすすめ、かつ聞いたことがある名前であるシチューを選ぶことにした。
「あいよ、じゃあ待ってな」
サリアは、三人の注文を聞くと、厨房の方へと歩いていった。
「さて、じゃあそろそろ神殿で何があったのか聞いてもいいか?」
サリアが見えなくなると、グリムが真面目な顔になり話し始めた。
「ええ、神殿でシリルに話を聞く予定だったんだけど、ちょっとトラブルがあって話を聞けなかったの」
「トラブル? 何があったんだ?」
グリムの問いに困ったような表情をするフィアナ。
「あれはどう説明するべきなのかしら……グリムは神殿の礼拝堂にある女神像のことはもちろん知ってるわよね?」
「当然だろ。で、その女神像がどうしたんだ?」
「私達が神殿に着いたとき、丁度シリルは神殿にいなかったの。それで、私はルミナちゃんに礼拝堂と女神像を見せてあげることにしたんだけど……そこでルミナちゃんの様子がおかしくなって……」
そこまで話してルミナリアをちらりと見るフィアナ。
「ルミナちゃんはあのときの事を覚えてる?」
「はい……フィアナさんとあの女神像を見ていると、急に身体が動かせなくなったんです」
「何か変だって思って話しかけても反応がなかったから驚いたわ」
「隣でフィアナさんが声をかけてくれているのはわかったんですが、何を言ってるかまでは耳に入ってこなかったんです。それからは身体の奥から何かが脈打つのを感じ始めて、それと同時に身体が燃えるかと思うほど熱くなって……気がつけば周りの結界を壊してあの女神像に触れていたんです……」
「おいおい……女神像の結界を壊したってのか……!? ほんとにおまえさんは何者なんだ……?」
グリムの驚愕の表情に、思わず口をつぐんでしまうルミナリア。
そんなルミナリアの様子にグリムが話しかける。
「あー……そんな顔すんな。俺達はお前を保護するって言ったろ? 今さらそれを変える気はねーよ」
「そうよ? だから安心してちょうだい」
二人はそう言ってルミナリアに笑いかけた。
「ありがとうございます……」
ルミナリアもそんな二人に答えるように笑い返した。
(それからの事なんてとても話せないよね……これ以上心配をかけたくなんてないし……何よりあの内容だし……)
なにより、ルミナリアは初めて出会った二人にこれ以上心配をかけたくなかったのだ。
(まずは、二人に頼りっぱなしの現状をどうにかしながらこの世界の女神について調べなきゃ)
そして、心の中でとりあえずの今後の方針を定めるのであった。
それからは、ルミナリアが冒険者であるグリムとフィアナが今までにどんな経験してきたのかに興味を持ち、二人の語る内容に目を輝かせていた。
三人の楽しげな様子は料理が運ばれてくるまで続いた。
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「はいよ! お待たせ! ルミナリアちゃん、熱いから気を付けるんだよ!」
しばらくすると、サリアがテーブルへ料理を運んできた。目の前のシチューから立ち上る香りはルミナリアの知っているシチューと同じように感じた。違いがあるとすれば、使用されている具材だろう。中でも彩りを放つ赤や黄色の野菜には特に目を引かれるルミナリアだった。
「わぁ……おいしそう……」
「ふふふ、これだけ喜んでもらえるとはうれしいねぇ」
サリアはルミナリアの様子に笑みを浮かべる。
「ほら、グリムはこれだろう?」
「お! これこれ! 俺にとっておばちゃんの店と言ったらこれなんだよ!」
一方、グリムの目の前には、ボリュームたっぷりの大きな骨付き肉が鉄板の上に鎮座していた。その肉を乗せる鉄板は、未だに熱を持ち、じゅうじゅうと肉の焼ける音を響かせている。それは、この肉が焼き立てであることを視覚と聴覚から伝えてきた。そして、何よりの特徴はその香りだろう。その肉にかかっているだろうソースだろうか、まるで果実のような芳醇な香りがルミナリアの元まで届き、ルミナリアは思わずごくりと喉をならしてしまった。
「ふっふーん、物欲しそうな目をしてるな?」
「えっと……えへへ」
ルミナリアは悩むのも一瞬。素直に頷いた。
「いいだろう、少し分けてやるよ。おばちゃん、皿を1枚もらえるか?」
「あいよ、ちょっと待ってな」
サリアが皿を持ってくると、グリムがナイフでその肉を切り分けていく。その肉はよほど柔らかいのか、ナイフはすいすいとその肉を進んでいた。
「ほらよ、喰ってみな? うまいぞー?」
「グリム……それサリアさんの料理よ? なんでグリムが得意気なのよ?」
まるで自分の作った料理であるかのように得意気な表情を浮かべるグリムを、フィアナが呆れるような視線で見つめていた。その様子を見ているサリアはとても楽しそうだった。
「じゃあ、いただきます……あむ……!!」
目の前の皿の上にある肉を、フォークで口に運んだルミナリアの目が見開かれる。
口に入れた途端に、ソースが持つ芳醇な香りが広がる。そして、噛み締めたその肉は驚くほど柔らかく、強い旨味を伝えてくる。一度食べ始めたその手は止まることなく、あっという間に目の前にあった肉を食べてしまった。
「はぁ……」
肉を食べきったルミナリアは、感嘆の吐息をついた。今までこれほど美味しい肉を食べたことなどないと、素直に思わされたのだ。満足げな表情をしていたルミナリアだったが、自分をニヤニヤと見つめる三人の目に気がつくとその顔を赤くしてしまった。
「こほんっ……とっても美味しかったです!」
「そうかいそうかい! そっちのシチューも美味しいよ、食べてごらん?」
サリアに促されスプーンを手に取るルミナリア。シチューに沈むスプーンの感覚がそのシチューの濃厚さを伝えてくる。
「はむっ……んーっ!」
そのシチューは、口に入ると共に、濃厚な味わいを舌に伝えてくる。じんわりと広がるその味は優しく、野菜の甘味が溶け込んでいるようだった。彩り豊かな野菜達は、知らないものばかりだったが、シチューとの相性は抜群であり、口の中に様々な旨味を伝えてくるのであった。
「サリアさん! このシチューも美味しいです」
「ほんとにルミナリアちゃんが食べてるのを見てると嬉しくなるよ!」
「ふふ、じゃあ私達も食べるとしましょうか」
「おう!」
食事を始める三人の前の料理は、あっという間になくなってしまった。以前はもっと量を食べることができたと思うルミナリアだったが、小さくなったその身体はシチューと、サリアが――
「サービスだよ?」
と言って持ってきてくれた小さなフルーツタルトを食べ終わる頃には満腹になってしまったのだった。
「ごちそうさまでした!」
この世界にきて初めて食べた本格的な料理は、とても満足の行くものであった。
おいしそうな表現って難しいですね!
少しでもおいしそうな様子が伝わってくれたならうれしいです。
感想や誤字の報告等お待ちしております。
では、また次回で会いましょう。