光の中で
ちょっと短めです。
女神像に触れたルミナリアは……
第7話です。どうぞ。
(あれ……どうなったんだ……?)
女神像に触れた瞬間、ルミナリアの意識は暖かい空間に漂っていた。
(ここは……川で溺れた後の……? そういえば身体の熱さが消えてる)
そこは、この世界に来る直前にいた場所であった。ルミナリアがさっきまで感じていた、身体が燃え尽きるかと思うほどの熱の奔流は、この空間に来ると同時に消失しており。今ルミナリアが感じているのは暖かさと安心感のみであった。違いがあるとすれば、あの時と違い頭の中がすっきりしていることだろう。
(あのときはわからなかったけど、この周りのあったかいものって……魔力……?)
フィアナから魔法について教わり、自分の奥に存在する魔力の感覚を知ったルミナリアは、自分の周囲のこの空間の暖かさが魔力と同様の物であることに気が付く。そして、その暖かさを魔力であると認識すると同時に身体を動かすことができた。ゆっくりと瞼を開くルミナリア。そこは暖かく美しい光に満ちた、見渡す限りどこまでも広がる空間だった。
「誰もいないのかな……」
ポツリとつぶやくルミナリア。そんな彼女の耳に女性の声が響いてきた。
「こんな形で来てもらってごめんなさい。どうしてもあなたに会わなければならなかったの」
「え……誰……ですか?」
きょろきょろと周囲を見渡すも姿は見えないが、その女性がすぐ傍にいる気配と、声だけはしっかりと聞こえてくるという状況に戸惑うルミナリア。その声は前回聞いた声とは違う人物の声のようだった。
「これを受け取って……これはあなたの旅路に必ず必要になるもの」
その声とともに目の前に現れる光の球。それがゆっくりとルミナリアの胸の中へと入りこむと同時に、身体の中にじんわりと広がる心地よい熱を感じる。
「これは……!?」
「今のあなたにはまだ使えるものではないでしょう。しかし、お姉さまに選ばれたあなたにはそれを扱いきれるだけの適性があるのです」
「何もわからない世界に飛ばされて! こんな姿になって! 僕はどうすればいいんですか!? 適性ってなんなんですか!?」
いままでの疑問をぶつけるルミナリア。
「ごめんなさい、今ここで全てを説明することはできません。私以外の4人の女神たちに会ってください。彼女たちはそれぞれの国に足跡を残しているはずです。それを探して――どうか――」
「待ってください! 待って!」
ルミナリアの叫びもむなしく徐々に消えていく気配。その気配が完全に無くなったとき、ルミナリアの意識は暖かさに包まれていった。
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「しっかりして! ルミナちゃん!」
「フィアナ……さん?」
ルミナリアが目を覚ますと、そこは先ほどの女神像のすぐ傍だった。どうやら意識を失った後フィアナに床に寝かされていたようだった。
「あぁ……よかった……!」
「わっ……」
ぽろぽろと涙を流しながらルミナリアを抱きしめるフィアナと、心配をさせてしまったことを申し訳なく感じるルミナリア。すぐ傍にいたシリルがルミナリアに話しかける。
「もう大丈夫? いったい何があったの?」
「あなたは……?」
「そっか、あんな状況だったもんね。改めて自己紹介させてもらうね。私はシリル。フィアナの幼馴染で神官をやっているわ。ほらフィアナ、心配だったのはわかるけど、ルミナちゃんが苦しそうにしてるからそろそろ離してあげなよ」
その言葉にフィアナがゆっくりと身体を離し、ルミナリアと立ち上がった。
「あの……僕はどれくらい倒れていたんですか?」
「あれから時間はほとんど経ってないよ。……さて、いったい何が起きたんだろうね、身体の調子はどう?」
「えっと、まだ少し体が重いですけど、もう大丈夫みたいです。さっきまでは体が燃えそうなくらい熱かったんですけど……」
「ならよかった」
「シリル。ちょっと相談に乗ってもらいたいことがあったんだけど、後日にしてもいいかしら? こんなことがあったばかりだし……今はルミナちゃんを休ませてあげようと思うの」
落ち着いた様子のフィアナが、シリルにそう提案した。
「そのほうがいいだろうね、神殿としてもこの結界の修復の儀式をしないといけないだろうし」
「あ……ごめんなさい!」
先ほど、目前でほどけるように消えて行った鎖が結界であったことを知ったルミナリアは、自分のやってしまったことに慌てて謝罪した。しかし、その様子を見たシリルは俯くルミナリアの頭を撫でながら優しく笑った。
「大丈夫! どうせ今度の豊穣祭の前には結界を貼りなおす予定だったんだよ! ちょっと予定が早くなっただけだし問題ないよ。でも今度神官長には事情を説明してもらうことになると思うけど……それだけはお願いね?」
「はい。わかりました」
自分のやってしまったことなのだ。ルミナリアに断る理由などなかった。
「よし!じゃあ私はこれから神官長と話をしてくるとしますかね」
「シリル、ごめんなさいね」
「いいっていいって、日程が決まり次第こっちから連絡するよ」
「ありがとう」
礼拝堂を後にする三人。シリルに見送られたルミナリアとフィアナは神殿前の広場で今からの予定を話していた。
「さて、ルミナちゃん、私の家にいらっしゃい? 泊まる場所もないんでしょ?」
「えっと……いいんですか? ただでさえ色々とお世話になっているのに……」
「気にしないで、何よりルミナちゃんみたいな可愛い子を見捨てるなんて私にはできないわ!」
「あ……あはは……じゃあお願いします。正直に言うとどうしていいかわからなかったので助かります」
調子を取り戻し、力強く語るフィアナに苦笑いしながらも、感謝するルミナリアなのだった。宿に泊まろうにも先立つものもなく、それを得るための方法もわからないルミナリアにとってその提案はとても魅力的だった。自分を助けてくれたフィアナならば信頼できる、というのも大きな要因であった。
「さて、早速移動したいところだけど、そろそろグリムも来るころじゃないかしら……噂をすればちょうどきたみたいね」
フィアナが見つめる先には、二人に気づいたのであろう、片手をあげて近づいてくるグリムの姿が見えた。
「おう、そっちも終わったみたいだな、ほらよ」
すぐ傍までやってきたグリムは小さな袋に包まれた何かをフィアナに渡した。
「ええ、詳しくは後で説明するわ。……? 今回の依頼の報酬ちょっと多くない?」
「どうせお前のことだ、ルミナを家に泊めてやるんだろ? あって困るもんでもないだろ、買い揃えないといけないもんもあるだろうしとっとけよ」
「……ありがとう。素直に受け取っておくわ」
「グリムさん……フィアナさん……本当にありがとうございます」
グリムは今回の角兎の駆除依頼の報酬の一部を、ルミナリアのために使えとフィアナに預けたのだった。ルミナリアはこの二人に会えて本当によかったと思うと、目元に涙がにじむのを感じた。
「さて、飯でも食いに行こうぜ! ルミナ、うまい店があるんだ! ほら、ついてこい!」
「ふふ、さぁいきましょう」
「はい!」
目元を拭い、差し出されたフィアナの手を取るルミナリア。そして、三人は夕暮れの街へと歩き出した。
さて、ルミナリアの身に起きた謎の現象と伝えられたメッセージ。
これから何が起こるのでしょうか。
でもしばらく日常回が続くかもです。
……異世界ファンタジーの日常って夢いっぱいだと思うんですよ!
引き続き感想や誤字の報告等お待ちしております。
ではまた次回で会いましょう。