礼拝堂と女神像
えと、ここでお知らせです。11/14の20時ごろに第5話の内容を一部加筆修正しております。今後にかかわる内容を入れてるため、それ以前に読まれた方は確認していただけると助かります…すみませんでした……
第6話になります、どうぞ。
休憩を終えた二人は、神殿の中にいた。
「こんにちは。シリルに会いたいんだけど、いるかしら?」
入口に入ってすぐの場所にある受付のような場所にいた男性にフィアナが声をかける。
「これはフィアナ様。シリル様なら先ほど薬の買い出しのために商店街に……」
「あら、すれ違いになっちゃったわね……」
「はい、もうじき戻られるとは思うのですが……お待ちになられますか?」
フィアナは神殿に勤める神官の知り合いを訪ねるために、男性に声をかけたのだった。会話に参加できないルミナリアは受付の横の扉に興味を惹かれていた。
「ええ、そうさせてもらうわ。その間、そこでそわそわしてるルミナちゃんを礼拝堂に案内してあげるとするわ。ルミナちゃん、中が気になるんでしょ?ふふ」
フィアナは受付の横にある開かれた両開きの大きな扉の向こうに見える広い空間を覗こうと、銀色の2つのしっぽを揺らしていたルミナリアに苦笑しながら声をかけた。
「はいっ!?」
突然出てきた自分の名前に思わず飛び跳ねるルミナリアに、受付の男性も笑みをこぼす。
「もしかしてそちらの可愛らしいお嬢さんは初めて神殿に来られたのですかな?」
「えと……はい、そうなんです……」
「そうでしたか。丁度今は礼拝が終わり人がいなくなったところなんです。ゆっくりと礼拝堂を見ていってください。きっと素晴らしいと感じていただけますよ」
自分が男であるときには付くことのなかった可愛らしいという形容詞に心の中で違和感を覚えると同時に、油断している姿を見られていた恥ずかしさに真っ赤になるルミナリア。傍から見たその姿は、どうみても可愛らしいと言われ、照れている少女にしか見えなかった。
「じゃあ案内してあげるわ、シリルが帰ってきたら礼拝堂にいると伝えてもらってもいいかしら?」
「かしこまりました、ではどうぞ」
受付の男性に促され入った扉の先は静けさに満ち、厳かな雰囲気に包まれた広々とした空間だった。
「わぁ……中も広いですね……」
外から見ても大きかったこの神殿だが、中はこの礼拝堂が大半を占めていると思わされるほどの広さがそこにはあった。礼拝堂の最奥にある精緻なステンドグラス越しに入ってくる光や、天井から吊られたシャンデリア、多くの長椅子が並ぶ通路に立てられた燭台などに照らされる室内の中、ひときわ存在感を放つ3mほどの大きさを持つ石像にルミナリアは目を奪われた。
「あれは……きれい……」
それは、礼拝堂の通路の奥にある一人の女性の石像であった。その石像の纏う神秘的な雰囲気は、一目見ただけで心を奪われるほどの美しさを秘めていた。
「フィアナさん、もしかしてあの石像は、この白の王都を作ったっていう女神さまの像ですか?」
「そうよ。そして、あの女神像はこの国が出来てすぐに作られたというのに、悠久の時を経てなお輝きを放っているの」
「もしかして、それも昔の魔法が?」
「あの女神像には強力な保護の魔法がかけられているのよ。近づけば分かるんだけど、その影響かうっすらと輝いてるの。ちょっと近くで見てみる?」
「ぜひ見てみたいです」
女神像の前にやってきた二人。女神像の周囲は1m四方の鎖の柵で覆われており、直接触れられないようになっていた。
「やっぱり何度見ても綺麗ね……ほら薄らと光に包まれているように見えるでしょ?」
「ほんとだ……」
ルミナリアが女神像を見上げる。後ろにあるステンドグラスからさす色とりどりの光に照らされながらも、自らも光を放つ女神像の美しさはまさに幻想的であった。いつみても感じる美しさに見とれていたフィアナの後ろから、コツコツと足音が聞こえてきた。
「フィアナ、待たせちゃってごめん!」
「あら、シリルおかえりなさい。ちょうどルミナちゃんに女神像を見せてあげていたのよ」
後ろから現れたのは活発な印象を受ける茶髪のショートカットの女性、シリルだった。彼女の纏う服は、白を基調とし金や青の装飾がありながらもそのスカートは短く、見た目は神官というよりも現代におけるアイドルのようなものだった。
「綺麗な髪ね、うらやましいな。こんにちは」
「ルミナちゃん、彼女はシリル、私の幼馴染よ……ルミナちゃん? どうしたの!? ルミナちゃん!?」
フィアナはそこでルミナリアの異変に気が付いた。ルミナリアが額に脂汗を浮かべ、目を見開き女神像を見続けていたのだ。
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時は二人が女神像を見上げ始めたときに遡る。
ドクンッ――
ルミナリアが女神像を見上げ始めた時、それは唐突に訪れた。急に身体の奥から何かが脈打つような感覚があったのだ。
(ぐっ……! この感覚はなに!?)
ドクンッ――ドクンッ――
感じる脈動が早くなると同時に熱い何かが身体の中を巡りはじめる。身体の異変を感じながらも女神像から視線を外せないルミナリア。その視線は徐々に女神像の顔の方へと向かっていく。
(身体が熱い……!)
隣ではフィアナが何かに気づいたのか後ろを向き誰かと話し出したようだった。
ドクンッ――ドクンッ――ドクンッ――
身体の奥に感じる脈動は徐々に大きく、早くなりつつあり、同時に感じる熱さはもはや体中を荒れ狂うようでもあった。
「――ミナちゃん? どうしたの!? ルミナちゃん!?」
ルミナリアの異変に気が付き呼びかけてくるフィアナ。しかし、その声はどこか遠く、かすんだようにしかルミナリアの耳に入っていなかった。
(身体が勝手に……なんで!?)
ルミナリアの身体は、本人の意思を完全に無視し歩き始めていた。目の前に見える女神像へと。フィアナが正面に回り込みルミナリアの肩に手をかけようとしたとき。
バチィッ!
「きゃあっ! これは結界!? そんな……」
フィアナの身体は、ルミナリアの身体に突然現れた、女神像と同じような美しく淡い光によって弾かれてしまった。
「フィアナ! いったいこの子は何者なの!?」
「わからない……私も昨日であったの……どうやら記憶をなくしているみたいだからあなたに相談するためにここに来たの……それがまさかこんなことになるなんて……」
ゆっくりと女神像に近づいていくルミナリア。そんなルミナリアを止めようと何度も手を伸ばすフィアナとシリルだったが、ルミナリアを包む光に弾かれつづけ、触れることすらできない。
「こんなの聞いたことない……! あの子何をするつもりなの!?」
シリルが今目の前で起きている未知の現象に焦りの声を上げる。
(止まってよ……どうして……熱い……燃えちゃいそうだ……)
ゆっくりと歩みを進め、女神像を囲む鎖の前に手をかざすルミナリア。すると、目の前にあった鎖が、まるで優しく紐をほどくかのように空中に溶けてしまった。
「そんな!? 神官長の結界が!?」
そう、その鎖はただの鎖ではなかった。1年に1度、神殿に勤める神官長が大がかりな儀式を半日かけて行いやっと完成させ、維持し続けていた結界だったのだ。
「ルミナちゃん!!」
ルミナリアに抱きつくように近づくも、先ほど同様に弾かれてしまい、床に倒れこんだフィオナがルミナリアに叫ぶ。だが、その歩みは止まらない。そして。
(あ……あぁ……)
伸ばされたルミナリアの右手が。女神像に触れる。
その瞬間。
ルミナリアの意識は白い光に包まれた。
さて、白い光の中でルミナリアが見るものとは……
最近この作品をRTするなどで紹介してくれる方がいらっしゃるのですが、感謝しかないです……うれしい……うれしい……これを励みに頑張ります!
誤字の報告や感想などもいただけるとよろこびますっ
ではまた次回で会いましょう。