アムドリア観光と髪飾り
第68話です。どうぞ。
アムドリアの町へと繰り出したルミナリアとアルルメイヤは、宿屋が並ぶ麓の城門前の通りから一つ山頂側に登った通りの商店を覗きながら歩いていた。
「へえ……この辺のお店は商店街っていうよりお土産売り場って感じなんだね」
ルミナリアが店の前に並ぶ商品を見ながらそんな感想を漏らす。それもそうだろう。先程から目に入るのは工芸品やアクセサリーを取り扱う店ばかりなのだ。
「星屑の里もこんな感じだったよね」
「ん、アムドリア産の工芸品は綺麗で有名だから。旅人達のお土産として人気がある」
「なるほど。だから宿屋の周りにお店が集中してるんだね。ちょっとお店に入ってみよっか」
ルミナリア達が入ったのは、アムドリアの特産である水晶や鉱石を用いたアクセサリーを主として販売している店だった。
「ん、綺麗……」
アルルメイヤが、店の棚に並ぶ可愛らしいアクセサリーを見ながらため息を漏らす。
(普段はあんまり身だしなみに気を使ったりとかしてないけど、やっぱりこういうところは女の子って感じだな)
ルミナリアが、アクセサリーを見つめながらそわそわしているアルルメイヤを見ながらそんなことを考えていると。
「君たち、興味があるのかい?」
と、店のカウンターの店主らしき中年の男から声がかけられた。
「ん、えと……」
「はは! 試しに着けても構わないよ」
「だってさ。ふふ、アルル、良かったね」
ルミナリアが、アルルメイヤが手に持っている星の形をした銀の髪飾りを着けてみるよう促す。
「ん、どう?」
アルルメイヤが髪飾りを着け、ルミナリアへと微笑む。ルミナリアは、そんなアルルメイヤを見てうっすらと頬を赤らめた。
「……」
「ルミナ?」
「え? ああ!? うん、似合ってるよ!」
ルミナリアがはっとしながらアルルメイヤに返事を返す。
「ん、ありがと。ルミナも着ける?」
「いや、私はいいかなー……あはは」
ルミナリアが苦笑いをしながらアルルメイヤから一歩後ずさる。
「ふふり、着けてあげる」
「あっ! ちょっ!?」
アルルメイヤは、逃げようとするルミナリアの髪にアルルメイヤと同じデザインの金の髪飾りをさっと取り付けた。
「ふふ、ルミナも似合ってる」
「もー……」
そうしていると、再びカウンターの男から声がかかる。
「ははははは! 随分仲が良いね。どうだい? 買うなら半額で売ってあげるよ」
「え? いいんですか?」
「ああ、いいものを見せてもらったからね」
「ん、いいもの?」
心当たりのないことにアルルメイヤとルミナリアか目を見合わせる。
「ああ! いや、なんでもないんだ! で、どうだい?」
「ルミナ……」
アルルメイヤが上目使いでそっとルミナリアを見る。その姿に、ルミナリアがかつての出来事をふと思いだす。
(そういえば……昔優羽が小学生の頃、一緒にデパートに行ったときにこんな風にお願いしてきたことがあったっけ……)
ルミナリアが、懐かしさとほんの少しの寂しさを感じながらアルルメイヤを撫でる。
「わかりました。じゃあ、これお願いします!」
「あいよ!」
ルミナリアが財布からお金を払う。余談だが、ルミナリア達のお小遣いは道中の狩りで行った動物や魔物の素材を売った際の金額から出ていた。もちろん旅で必要なお金に関しては全員の共有のものとしてグリムが管理している。
「ルミナ、ありがとう! 大事にする」
アルルメイヤが髪飾りにそっと手を触れながら目を閉じる。
「あはは、喜んでもらえてよかったよ。じゃあ次にいってみよっか?」
「ん、次はどこに行こう……」
ルミナリアとアルルメイヤが楽しそうに店から出ていく。
「はあ……いいもん見たなあ……あんなかわいい子達、そうそう見られないぞ……」
店主の男がほくほくとした顔で呟くと、店内にいた数名の客達が同意するようにこくこくと頷くのだった。
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ぱくり、もぐもぐもぐ。
「んーっ!」
アルルメイヤがデザートのケーキを頬張り幸せそうな声を漏らす。これ以上ないと言うほどぱたぱたと揺れる頭の上の尻尾がその喜びを物語っている。
「相変わらずアルルは嬉しそうに食べるねえ」
お土産通りを見終えたルミナリア達は、アムドリアの中央を走るメインストリートを山頂方向へと登りながら歩き続け、気づけば昼になっていたため、中腹付近のオープンカフェへと立ち寄っていた。
「アルル、この辺は普通に野菜なんかを売ってるお店が主なんだね。ここから上にお店は殆どないみたいだね」
「ん、ここより上は居住区になってるみたい」
メインストリートの左右に枝のように伸びる通りは、麓付近の旅人向けの宿屋やお土産売り場。そこから少し登った位置に商人達が店を構える区画があり、山の中腹から上はアムドリアの住民達の居住区画となっていた。
「ん、なるほど……」
何やら納得したようにアルルメイヤが頷く。
「アルル、どうしたの?」
「ん、良くできてると思って」
「どういうこと?」
「ん、アムドリアは商人達が取引しやすいように気が配られてる。山の麓付近に商店を集めて、重い荷物を山の上まで運ばなくていいようになってる。そして、麓より少し上の住民達向けの商店で荷物を下ろした商人達が麓に戻ると、アムドリア以外で人気の工芸品売り場が待ってる」
「あぁ、つまり荷馬車に空きができた商人さん達が新しい商品を積み込んで帰りやすい、ということなんだね」
「ん、そういうこと」
「そして、山の上の方の居住区まで日用品を運ばないといけない人や、足腰の強くない人を助けるためにあるのが……」
そう言いながら、ルミナリアがメインストリートの中央を走る乗り物、ライナーを見る。
「このライナーって訳なんだね。なるほどね……」
「ん、帰りが楽しみ」
ルミナリア達があえてライナーを使わずに徒歩でアムドリアの町を巡っていたのは、ライナーに乗ることを楽しみにしていたからだった。
「それにしてもすごい景色だね……」
ルミナリアが山の麓方向へ延びる景色を見る。正面には邪魔をする物なく空が広がり、下には扇のように広がる町が続いている。
「ん……まるで空の上にいるみたい」
「だね。高いところが苦手な人は大変だろうね」
そう言って二人で笑い合う。
「ん、ごちそうさまっ!」
「よし、じゃあ次はどこに行こうか?」
ルミナリア達が食事と会計を済ませ、メインストリートへと戻ると、ふとアルルメイヤが切り出した。
「ねえルミナ。そろそろ気づいた?」
ふふん、とアルルメイヤが楽しそうな表情をする。
「え……?」
アルルメイヤの言っていることが理解できないルミナリアが首を傾げる。
「ん、ヒント。ここはどこ?」
「どこって……黄の国の王都アムドリア、だよね?」
「ん、正解。じゃあ、次のヒント。王都に無いといけないものがない」
「あるはずの……」
ルミナリアが考えを巡らせながらアムドリアの町を見下ろし、次に山頂方向を見上げる。そして。
「あっ!」
「ふふり、わかった?」
「そうか! お城がないんだ!」
「ん、正解!」
そう、この黄の王都アムドリアの町には城が存在していなかったのだ。
「でも、どういうことなの?」
「ん、正しくは存在してる。それは……」
アルルメイヤがその理由を説明しようとした瞬間。
「あー!! 避けてくださーい!!」
山頂方向からそんな声が響き、アルルメイヤの言葉が遮られる。何事かとルミナリアとアルルメイヤがそちらを見る。そして、頬をひきつらせる。
――ゴロゴロ……
そこには、ルミナリア達へと転がってくる直径一メートル程の丸い水晶と、それを追いかける眼鏡をかけた男の子の姿があった。
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では、また次回で会いましょう。




