姉妹達は暴走する
また姉妹達が大騒ぎするようです。
第56話です。どうぞ。
夜の宿の部屋、ベッドから身体を起こすルミナリアの前では珍しい光景が広がっていた。
「あ……あはは……」
アルルメイヤとフィアナがグリムに正座させられていたのだ。
「お前らホントなにやってんだよ……ルミナと風呂に行って騒いでたと思えば……」
「ん……ごめんなさい……」
「ちょっとやり過ぎちゃったわね……」
アルルメイヤとフィアナが謝罪しているのは先程の風呂場でのこと。ルミナリアを女の子に慣れさせるという名目で再び大騒ぎをした挙げ句、不調だったルミナリアがのぼせてしまったのだ。
「ルミナちゃん、ごめんね?」
「ん、ついついやり過ぎた……」
「あはは……さすがにあれは……ね?」
ルミナリアが思い出すのは、密着してくる二人の色々と柔らかい感触。なんとか逃れようともがけばもがくほどぴったりとくっついてくる二人に揉みくちゃにされているうちに倒れてしまったのだ。
(ホントに……あんなのは慣れないよ……思い出すとお腹が疼くというか……ってだめだだめだ! お、落ち着こう……)
以前、男だった頃ならば、分かりやすい状態になったであろう。女の子となってしまった今の身体は、目に見えない部分が疼いてしまうのだった。
「調子が悪いやつを普通風呂で暴れさせるようなことしないだろ……ルミナ、お前まだ顔が赤いけど大丈夫か?」
「だっ! だだだ大丈夫だよ!」
「そうか? 無理すんなよ?」
「うん」
グリムが再び目の前で肩を落とす二人を見ながらもう何度目になるかわからないため息をつく。
(違うことを考えて落ち着こう……)
ルミナリアがぶんぶんと首を振り、頭を切り替え、目の前の光景について考える。
(ん? これってよく考えなくてもすごい状況だよね?)
今まさにグリムに正座させられている二人は、片や貴族の生まれのフィアナ。片や本物の白の国のお姫様。
(うわぁ……余裕で外交問題に発展しそう……)
とんでもない状況だった。人によってはこの光景を見ただけで卒倒しそうなほどだった。
「じゃあお前ら、わかったなら明日一日ルミナをちゃんと見てやれよ?」
「ええ、もちろんよ」
「ん、わかった」
(あ、話が終わったみたい)
ルミナリアが考え事をしている内にグリムのお説教が終わっていた。
「じゃ、俺は部屋に戻るからな。まったく……もう無茶すんじゃねぇぞ?」
グリムがそう言いながら部屋から出ていく。
「さて、ルミナちゃん。そう言うわけで私たちはグリムから大事な任務を与えられたわ」
「ん、大事な任務」
フィアナがにっこりと笑いながらルミナリアへと話しかける。その横ではアルルメイヤもニヤニヤと笑っている。
「ごめん、よく聞いてなかったんだけど……」
「明日は私達がばっちりとお世話することになったから、よろしくね? ふふふ」
「………………え?」
「「ふふふふふふふふ」」
(嫌な予感しかしない! グリム! どうしてくれるのー!!)
ルミナリアの不安は消えることなく、妙に静かな夜が更けていくのだった。
 
 
 
 
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「はい、ルミナちゃーん。あーん」
「お……お姉ちゃん……あの……自分で食べられるんだけど……」
朝、ベッドに腰かけるルミナリアの眼前には、スプーンを差し出すフィアナがいた。
(これ、一体何が始まったの……)
 
 
 
 
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なかなか寝付くことができなかったルミナリアがいつもより遅く目を覚ますと、既にフィアナとアルルメイヤが目を覚ましており、ルミナリアを見つめていた。
「ルミナちゃん、おはよう。ふふ」
「ルミナ、おはよう。ふふり」
「う……うん、おはよう……え、何!? 何!?」
ルミナリアがベッドから降りようとすると、怪しい笑みを浮かべたフィアナとアルルメイヤに再びベッドに戻されてしまい、どうしたものかと思っていたルミナリアの前に朝食が用意されたのだ。そして、今に至る。
 
「お姉ちゃん、あのースプーン……」
「だーめ、私達はグリムからちゃんとお世話するように言われてるの! だからルミナちゃんは私達にぜーんぶ任せていいのよ! だから、あーん」
「えー……」
促されるままにフィアナが鼻息荒く差し出すスプーンをぱくりと咥えるルミナリア。
「美味しいかしら?」
「うん、美味しいけど……やっぱりこれやめない? 自分で食べられるから、ね?」
ルミナリアがひきつった笑みを浮かべながらフィアナの持つスプーンへと手を伸ばす。しかし、その手はスプーンへと届くことなく、止められてしまった。
「ルミナ、ルミナはゆっくり休むべきだってグリムも言ってた」
「でもここまでされなくても大丈夫だよ!?」
「ん、私達に任せて、あーん」
「ダメだ聞いてない!? あむっ……」
拒否権なく食事を運ばれ続けるルミナリア。
(あーなんだろこれ。雛鳥にでもなった気分というかなんというか……うーん……)
その後もスプーンを奪うことが出来ないまま食事を終えるルミナリア。しかし、これは始まりに過ぎなかった。
「さて、じゃあルミナちゃーん。そろそろお着替えしましょうか? うふふふふふ」
そう言ってフィアナが持ち出してきたのは、ルミナリアがフィアナと出会って直ぐの頃、一緒に買い物に行った際に買ったふりふりの黒いロリータ服だった。
「ちょっと!?」
「ルミナちゃんったら、せっかく可愛いのに着てくれないんだもの!」
普段からなるべく女の子っぽくなりすぎない服を選んで着ていたルミナリアは、その服を大事にはしていたものの着ることなく過ごしていた。しかし、フィアナにはそのことが不満で仕方なかったのだ。
「ちょっと待とうよ!? ほら、服なら自分で着替えられるし、もう少し動きやすい服だってあるよね!? うん! その方がいいよね!」
ルミナリアがそう言いながらベッドから降りようとすると、背後からアルルメイヤが抱きついてきた。
「ア……アルル……?」
「ん、私も見てみたい。見たことないから」
「た、確かにそうだけど……」
アルルメイヤの頭の上ではふりふりとあほ毛が揺れていた。
「うふふふふふふ」
「ふふり」
「待って!? 待って!? 誰か……助けてぇぇぇぇ!!」
 
 
 
 
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「はっ」
ルミナリアが我に帰り、ベッドから身体を起こすと、すっかり変わり果て、可愛らしくなってしまった自分の姿が映る鏡と、昨晩見たばかりの光景が視界に入った。
「嫌だって……言ったのに……」
ルミナリアが涙目で見つめる先では、再びアルルメイヤとフィアナがグリムに正座させられていた。ただし、二人の頭には立派なたんこぶが出来上がっていた。
「お……おう、ホントにちゃんと帰ってきたな。もう完全にダメかと思ったぞ……」
「え? え!?」
「いやな、部屋に来てみたら虚ろな目をして何かぶつぶつ呟き続けてるお前と明らかにテンションのおかしいコイツらがいたもんだからな……昨日あんだけ言ったのに……ったく」
グリムが呆れた様子で目を覆う。
「だって、グリムがルミナちゃんのお世話するようにって」
「ん、そーだそーだ」
「誰が無理矢理しろだなんて言ったよ!? 大体昨日散々俺が言ったことは───」
(あー……これ、長くなるやつかなぁ……出来れば着替えたいけどなぁ……)
そんなルミナリアの頭に浮かぶ先程のアルルメイヤの言葉。
(確かにアルルには見せたことなかったっけ。せっかくお姉ちゃんが買ってくれたものだし……まぁ、たまにはいっか……)
ルミナリアは、未だに説教の続く姉妹を見ながら困ったように微笑むのだった。
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では、また次回で会いましょう。




