教えてフィアナ先生!
ようやく出発した一行ですが、ここでようやく魔法のことをルミナリアが思い出します。
そして同時に現在の世界についての簡単な説明がやっと入り始めます。
そんな第4話、どうぞ。
夜営地を発って少したった頃、ルミナリアは、後ろからフィアナに抱き締められるような形で馬に乗っていた。
「そういえば、フィアナさんが僕を助けてくれたときに使った火の玉はなんですか?」
先ほどの馬に乗る際の顛末でひとしきり笑われた後軽く落ち込んでいたルミナリアだったが、フィアナの励ましで元気を取り戻していた。そして、ルミナリアは、フィアナが馬上から放ったあの火の玉のことを今になって思い出した。
「え? ただのファイアボールよ?」
「え?」
ただの、とさも当然のように言われても理解できないルミナリア。
「おいおい……ルミナ、お前自分でプロテクション使っておきながらまさか魔法のこともわからないとか……その様子だとわからないみたいだな……」
「僕、魔法なんて使ってました?」
ルミナリアにはそんな自覚などなかった。
「ほら、ルミナちゃんが角兎から身を守った光の膜みたいなあれよ。安定していない不完全な物だったけど、あれは確かにルミナちゃんが使った魔法よ」
「え? あれって僕がやったんですか!?」
そう、あのときルミナリアのかざした手の前に現れたのは、ルミナリア自身が無意識に発動させた魔法だったのだ。
「あれが……魔法……」
「どうやら魔法について、何てことも忘れちゃってるのね。それならホリティアまではまだ距離があるし、その間に簡単に教えてあげるわね。もしかしたら何か思い出せるかもしれないわよ」
「はい。お願いします」
「魔法の話ならフィアナの方が分かりやすく説明できるだろ、任せた。なんせ俺は魔法はからっきしだしな」
「よし、じゃあまずは魔法とはなんなのかって言うところから教えてあげるわね」
こうしてフィアナの魔法についての説明が始まった。
「魔法って言うのはね、かつてこの世界に存在した女神様たちの血を継いでいる私たち半神族に与えられている力のことなの」
「半神族?」
「そう、これは子供向けの絵本なんかにも載ってるおとぎ話なんだけどね?」
ルミナリアにとってはまた新たに現れた新情報だが、それはこの世界の常識的知識であった。
「今よりも遥か昔、この世界では人族と神々が共存していた、と言われているの。でも、あるときその神々の中からこの世界を支配しようと目論む物たちが現れたの。それが今で言う邪神たちね。
それから、その邪神たちと神と人の連合との間で起きた戦いのことを神界戦争というの」
「神々の戦争……」
それは、ルミナリアのいた世界では神話として伝わっているような話だった。
「戦争は十年もの間続いた、なんて言われているわね。その戦争は結果的に言えば邪神たちを封印することに成功した神と人の連合の勝利となったのよ。
その戦争は激しく、神々に比べて遥かに非力な存在であった人々は大半が死んでしまったといわれているわ。でも、その中でも活躍した人たちがいたの。それが女神の加護を与えられし五英雄よ。
英雄たちは加護のお陰で強力な魔法を操り邪神たちや邪神の僕である魔物と戦ったと言われているわ。当時は魔法を使える人は神々を除いていなかったらしいから、その力はまさに奇跡的だったんでしょうね」
ルミナリアは、初めて魔法を見た今の自分の心境は、当時の人々の心境とおなじだったのではないか、などと考えながら頷く。
「それからどうなったんですか?」
「戦後、神々は再び邪な思いを持つ神が現れては人々を困らせることになってしまうと考え、この地上を去ったの。でもその英雄たちに加護を与えた5人の女神たちだけは地上に残り、英雄たちを中心に生き残ったわずかな人たちと共に五つの国を作ったの。今向かっている白の王都ホリティアもその一つよ」
そう言って、フィアナは遠くに見える街を指差した。
「じゃあ、今この世界で暮らしている人たちはみんなその英雄と女神の子孫、と言うことになるんですか?」
「そのとおりよ。私たちの身体には女神の血が受け継がれているの。今ではもうその血も大分薄まってはいるらしいのだけど、結構個人差があるみたいなの。
魔法を発現させる力、魔力は女神の血をその身体にどれだけ継いでいるか次第で変わるとも言われているわ。
そうね、昨日の夜、ルミナちゃんがバングルに意識を集中したときに何かを感じなかった?」
「そういえばあのとき身体の奥から暖かい何かがバングルに流れ込んでいくのを感じました」
ルミナリアには、自分の奥底にある暖かな何かを、意識するとしっかりと感じとることができていた。
「うん、ちゃんと魔力を感じられていたみたいね。そこまではっきりと感じ取れているならルミナちゃんには私と同じように魔術師としての適性があるのかもしれないわね」
今まで魔法なんて存在しない世界で暮らしていたルミナリア。今まで暮らしていた文明の利器が発達した世界との違いに驚かされながらも、自分に魔術師としての適性があるかもしれないなんて言われてしまうと少しわくわくするものがあった。
「僕もフィアナさんみたいに火の玉を撃ったりできるんですか」
「あら、急に目を輝かせちゃって、そんなに私がかっこよかったのかしら? ふふ、 いいでしょう! フィアナ先生がお昼ごはんの時にでも魔法を教えてあげる!」
「ありがとうございます!」
「フィアナ先生の授業は終わったみたいだな。ちょうどバングルの話が出てたところだし、俺からも少し話をしてもいいか?」
フィアナの話がキリのいいところまで来たとき、隣の馬上で静かに話を聞いていたグリムが話しかけてきた。
「このバングルですか? これにまだ何かあるんですか?」
「あぁ。実はこのバングル、身分によって材質が違ってるんだよ」
「身分……ですか……」
「あぁ。俺は平民の出だから銅製のバングルがついてるんだ。ほら、これだ」
そういって自分の左腕を見せてくるグリム。彼の腕には確かに銅製のバングルが巻かれていた。
「で、フィアナは元々貴族の娘なもんで銀のバングルがついている」
「私自身としては身分なんかにこだわる気はないんだけどね。これが私のバングルよ」
フィアナがルミナリアの前で握っていた手綱から右手を離し、左手首にまかれていたスカーフを外し、ルミナリアにバングルを見せる。そこには確かに美しい光沢のバングルが巻かれていた。
「で、問題はルミナリア、お前のバングルなんだよ。お前のバングルなんだが材質がわからねぇんだ」
「え?」
そういわれて改めて自分のバングルをじっくりとみるルミナリア。すると、そのバングルはフィアナのバングルのような銀に近いものであったが、ルミナリアのバングルはうっすらと青が混じっていることに気がついた。
「確かに違うみたいね。私もじっくり見ないと気づかなかったわ」
後ろから同じように覗きこんでいたフィアナも違いに気づいたようだ。
「これは何製なんでしょうか?」
「さぁなんだろうな……少なくともルミナは平民の出ではないだろうな」
「商人なら鉄製、だからそれも違うわね……もしかして……いや、そんなことがあり得るかしら……」
「フィアナさん、何か心当たりがあるんですか?」
ルミナリアのバングルに首をかしげていたフィアナ。彼女には何か思い当たるものがあるらしいが、その表情は冴えない。
「えぇ……まずあり得ない話ではあるのだけれど……5つの国の王族たちのつけているバングルは、貴族の銀のバングルなんかとは比べ物にならないほど稀少な素材が使われていると言われているけれど……まさかね……」
不意に訪れた沈黙。ルミナリアは自分の産まれがとんでもないものであった可能性を示唆され、不安を覚える。しかし、グリムがその沈黙を破った。
「あぁやめだやめ、んなこと今ここで議論してもしかたねぇだろ? とりあえずルミナはルミナ、今はそれでいいじゃねぇか。だいたい、フィアナはさっき自分でいってただろ?身分なんかにこだわるつもりはないって」
「……そうね、ルミナちゃんはルミナちゃんよね!」
「わわっ」
背後からルミナリアを抱き締めながらフィアナが微笑んだ。背中に感じる柔らかな2つの感触にやはり戸惑ってしまうルミナリアなのだった。
「さて、話をしてたらそろそろいい時間だな。この辺で昼飯にするか」
そのグリムの言葉にフィアナも賛成し、近くの木まで馬を進める。
馬を停め、軽々と馬から降りるグリム。ルミナリアはやはり一人で馬から降りることができず、再びグリムに抱えてもらいなんとか馬から降りるのであった。
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「さて、魔法の練習するんだろ? 飯は俺の方で用意してやるからいってきな」
「ありがとうグリム、じゃあ私たちは少し移動しましょうか」
「はい、グリムさんありがとうございます」
その場にグリムを残し少し離れるルミナリアとフィアナ。
「よし、じゃあ魔法を見せてあげるわね」
そう言って右手を前に出し、手のひらを上に向ける。
「灯火よここに――トーチ」
「わぁ……」
フィアナが呪文を唱えると、彼女の手のひらの上に小さな炎が現れた。それは昨日見たよう激しく燃え盛るような火の玉ではなく、これが夜だったのならば優しく周囲を照らしていたであろう静かに揺れる炎であった。
「すごい……これが魔法……」
「ふふ、これはトーチという魔法。火属性に適性がある人なら誰もが使えるような基本的な魔法よ」
フィアナが開いていた手のひらを閉じると、手のひらの上で静かに揺れていた炎がスッと消えた。
「ルミナちゃんはあのとき光の膜、プロテクションを使っていたわね。光属性魔法に適性があるという証拠ね、残念ながら私には適性がないから使えないけど、魔法の基礎は全属性共通だからある程度は教えてあげられるわ。あのときどうやって魔法を使ったか覚えてる?」
「えっと、あのときは角兎が飛びかかってきそうだったから思わず手を前に出したんです。そして気がつけば光の膜が僕を守っていたんです……」
「不完全とはいえ無詠唱であれを使ったの……!? もしかするとルミナちゃんには才能があるのかもしれないわね……本格的に魔法を学べば私なんかよりもよっぽど優秀な魔術師になれるかもしれないわよ?」
あのとき無意識で使った魔法だったが、どうやら詠唱も無しに発動させるのはこの世界では難しいことらしい。もっとも、今のルミナリアは魔法の使い方など全くわからないため再現のしようなどなかったが。それもさっきまでの話。今は魔法を教えてくれるというフィアナが目の前にいるのだ。ルミナリアのその青い瞳をキラキラとさせながらフィアナを見つめた。
「魔法を使うにはまずはどうすればいいですか?」
「ふふ、慌てないの。ルミナちゃんにはまず魔力をしっかりと流す感覚を覚えてもらおうと思うの。そのためにもさっきの灯火の魔法と同じような光魔法、ライトを教えるわ。いきなりは出来ないかもしれないけど、やってみましょう」
「はい!」
「じゃあ目を閉じて」
言われた通りに目を閉じるとルミナリア。
「意識して、身体の奥にある魔力、ルミナちゃんが感じた暖かい力を」
「ん……」
ルミナリアはあのとき感じた力へと意識を集中する。すると、身体の奥に宿る暖かな力をはっきりと感じることができた。
「あ……」
「うん、できたみたいね? やっぱりすごいわ、その感覚を掴むだけで何ヵ月もかかる人だっているのよ? じゃあ次ね、今からあなたが使うのは照明の魔法。さっきの私みたいに手を出して、それを上に向けて」
言われた通りに右手を出すルミナリア。
「イメージして、あなたの手の上に出す小さな灯りを、それはルミナちゃんの中にある暖かい力を受けて輝くの。身体の奥から手に向けて力を流しながら……イメージして……」
「はい……」
ルミナリアがイメージしたのは、先ほどのフィアナの灯火のように、手のひらの上で優しく光る光の玉。具体的なイメージを固めるとともに伝わる感覚、今まで暮らしていた魔法の無い世界では感じることのなかった、自分の奥にある魔力を流すという感覚をはっきりと捉えることができた。
「そんな呪文も無しに……まさかここまでとは思わなかったわ……目を開けてみて……」
「え……? わぁ……」
驚くフィアナの声で目を開けたルミナリアは、自分の目の前に浮かぶ、優しく輝く光球を見つめ感嘆の吐息を漏らした。
「これが……僕の魔法……!」
「そうよ、成功おめでとう。私の時は10日かかってやっと魔力の流れを掴んだのよ? まずはこれが出きるようになれば、なんて考えてたんだけど、まさかいきなり魔法の発現、しかも無詠唱でやっちゃうなんて……正直これは規格外ね……ルミナちゃん、もしかすると、あなたは記憶をなくす前は物凄い魔術師だったのかもしれないわね? ふふ」
「ありがとうございますフィアナさん!」
そう言って手を閉じたルミナリアの前から光球が消える。嬉しそうに笑うルミナリアを見るフィアナの目は、まるで手のかかる妹を見る姉のような目であった。
「その魔法くらいなら安定して使えたみたいだけど、ちゃんと呪文も教えてあげるからもう一度やってみましょうか」
「はい!」
再び目を閉じ、手を上に向けるルミナリア。
「私に続いて唱えてねーーー柔らかな光よここに」
「柔らかな光よ、ここに」
「「ライト」」
ふわりと、まぶたの裏からも柔らかな、暖かい光を感じる。そして目を開くルミナリア。そこには先程よりも強く、大きな、しかし優しさと温もりを感じる光球があった。
「うん、お見事、しばらくはこの魔法を繰り返して感覚を覚え込んでいきましょう」
「はい!」
二人の魔法の練習は、昼食の準備を整えたグリムが呼びに来るまで続いた。
ここにきてやっと魔法が使えるようになり始めたルミナリア。
次こそついに町に到着する予定です。(汗)
次回で会いましょう!
…誤字等あれば教えていただけると助かります