月下の語らい
ルミナリアはアルルメイヤへとどう答えるのか…?
第43話です。どうぞ。
「ユウって誰?」
アルルメイヤの質問に対して、ルミナリアは動揺を隠せなかった。
(どうしてアルルが優羽のことを!? なんで!?)
「ルミナ?」
「えと……な、なんのこと?」
アルルメイヤがルミナリアを見詰める。その瞳は初めて二人が会ったときと同じ深みを感じる緑色。ルミナリアは、その瞳が自分の隠している大きな嘘を見抜いているかのように感じてしまった。
「ん、じゃあもう一つ。ねぇルミナ、ルミナの記憶喪失は本当?」
その質問に再びルミナリアの心臓が跳ねる。
(なんとか誤魔化さないと……知られたくない! 私が……僕が元々男だなんて!)
「ど、どうしてそう思うの……かな?」
「ん、ルミナ、きて」
アルルメイヤが、部屋のベランダへと出るための扉を開き空を見上げる。ルミナリアもアルルメイヤに続きベランダへ出る。ベランダから見上げる空では、今でも炎が破裂音とともに空を彩っている。
「ルミナ、綺麗だね、この……ハナビ」
「う、うん……そうだけど……」
それがどうしたのだろう、ルミナリアがそう思っている時だった。
「ん、ルミナ、これはハナビって名前じゃない。これはフレイムアートっていう火属性の魔法と火薬を使った見せ物」
アルルメイヤのその説明でルミナリアは悟った。もう誤魔化しは効かない、と。
「あ……あぁ……」
「ルミナ、私にルミナのことを教えて?」
ルミナリアがその場にペタりと座り込む。アルルメイヤが触れたルミナリアの肩は小刻みに震えていた。
「ルミナ……?」
(油断してた! ここは日本じゃないんだ! それなのに……それなのに……!)
ルミナリアが俯き、この世界に来てからの経験を振り返る。見たことのない生き物がいて、聞いたことのない食べ物があって、それなのにどこか前の世界と似たような場所での生活の中でルミナリアはすっかり油断していた。異世界故に生じる知識のズレが存在してしまうということを完全に失念していたのだ。
(アルルに僕のことを知られたら……もうアルルと一緒には……あっ……)
そのとき、ルミナリアはふと気がついた。自分は友達だといってくれたアルルメイヤと一緒に居たかったのだと。この繋がりを失うのが怖かったのだと。そして同時に、そんなアルルに嘘をついている後ろめたさを感じた。
(そうだ、僕はあのとき決めたんだ。アルルを裏切るようなことはやめようって。もしかしたら、こうやって嘘をついて一緒にいたことが一番の裏切りだったのかもしれない……)
ルミナリアの頬を涙が伝う。アルルメイヤがルミナリアをそっと抱き締める。
「ねぇルミナ、私は意味もなくルミナが隠し事をしているなんて思えない。だって、ルミナが優しいってこと、私は知ってるから。それに、私はルミナのことをもっと知りたい。ルミナは友達だから……」
アルルメイヤの優しい言葉がルミナリアの心に響く。それは、こんなにも想われているという嬉しさと、そんなアルルに嘘をついているという悲しさが混ぜ合わさったような感覚だった。
(こんな僕を心配してくれている友達に本当のことを話そう……嘘はもう……やめよう……)
「………ょ」
「え?」
「そうだよ……隠しててごめん……私には、いや、僕にはちゃんと記憶があるんだ……」
ルミナリアがアルルメイヤからそっと身体を離す。
「僕は、この世界の人間じゃ無かったんだ」
「え……?」
「こことは違う世界、この世界にあるような魔法なんかない世界で暮らしていた進藤 和希っていう人間。男……だったんだよ……優羽っていうのは僕の妹の名前だよ」
空に再び破裂音とともに鮮やかな炎が踊る中聞かされたのは、予想の遥か上を行く内容だった。アルルメイヤもこれには驚く他なく、瞳が驚愕に見開かれていた。
「ルミナ、それは……」
「嘘なんかじゃないよ、と言っても信じられないよね……でも本当のことなんだ。元の世界で死んだ僕は、いきなりこの世界に飛ばされて、草原の真ん中で目覚めて、何もかもがわからないことだらけで、どうしていいかわからなかったんだ! だから僕は記憶喪失だなんて嘘を使ってここに居たんだ……本当は男だって知られたら気持ち悪いって思われるんじゃないかって……怖かったんだ……」
「ルミナが男だった……? それに、死んだって……?」
「そう、僕には帰るところ何てもうないんだ! だから! だから……出会えた人達との繋がりを無くすのが怖くて仕方なかったんだ……嘘をついてて……ごめん……なさい……あぁぁぁぁぁ」
ルミナリアが声を上げて泣き始める。これでもう、アルルメイヤやフィアナ達とは一緒には居られない。そう思うと涙が止まらなかった。心が痛くて仕方がなかった。
(これで、よかったんだ。これでもう、優しい人達に嘘をつかなくていいんだ。僕は……僕は……)
――ぎゅっ
アルルメイヤが再びルミナリアを抱き締める。
「アルル……?」
「ねぇルミナ、ここにいるのは誰? 今、私が抱き締めてるのは、誰?」
「それ……は……」
突然のことに困惑するルミナリア。
「僕は……私は……」
「ふふ、わからないなら教えてあげる。今ここにいるのは私の友達になってくれたルミナリアって女の子。前がどうかなんて気にしない。ルミナはルミナ。違う?」
「アルル……僕は男だったんだよ! アルルのことを……その、男としてそういう目で見ちゃったことだってある……だから……」
ルミナリアの告白に頬を染めてしまうアルルメイヤ。その手の話は知識としてはあったが、耐性がないのだ。
「そ、その……そういう気持ちになるのは……えっと、仕方ないと思う。でも、ルミナは私に何かしたりはしなかったよね?」
「う、うん……だって、アルルは友達だから、裏切るようなことはしないって決めてたから……」
「ん、ならそれで十分だと思う。私もルミナのことを友達だと思ってるから」
「アルル……こんな僕なんだよ……?」
「ん、ルミナはルミナ。もう一度言うけど、今、目の前にいるのはルミナリアっていう私の大事な友達。ちょっと変わった経緯があるだけ」
ルミナリアが顔をあげると、どこか恥ずかしそうなに微笑むアルルメイヤの顔があった。
「アルル……あぁ……うあぁぁぁぁ!」
アルルメイヤが自分を受け入れてくれた、本当のことを知った上でこの世界での居場所をくれた。それは、ルミナリアにとって大きな救いだった。それが嬉しくて、でもやっぱり少し申し訳なくて。ただただ涙が止まらない。そんなルミナリアが泣き止むまで、アルルメイヤはルミナリアを抱き締めていた。
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「えと……その、ごめん……」
「ん、落ち着いた?」
「う、うん……」
ルミナリアが泣き止む頃には、夜空で鳴り響いていた音も止み、綺麗な二つの月が輝くのみとなっていた。
「ルミナ、話してくれてありがとう。でも、ルミナ、少し納得したことがある」
アルルメイヤがルミナリアへとくすくすと楽しそうに笑う。
「え、何?」
「どうしてルミナがかわいい服を嫌がるのか、あとたまにだけど女の子らしくない仕草をするときがあるのかっていうこと、ふふふ」
「あー……それは……だって、ね? あはは……」
二人が笑っていると、夜風にのって楽しげな音楽が聞こえてきた。
「これは?」
「ん、ルミナ、立って。ほら、街の広場の方を見て」
「何かあるの?」
ルミナリアがアルルメイヤに手を引かれて立ち上がり、街の方を見ると、大きな焚き火があり、その周囲で踊っている人々が目に入った。
「豊穣祭の最後の締めくくり。ああやって音楽に乗せて踊る。ねぇルミナ、踊ろ!」
「わわ、待ってよ!?」
アルルメイヤがルミナリアの手を取り、音楽にあわせて二人でくるくると回るように踊り始める。
「ちょっと!? 踊りなんてわからな……おっと!?」
「ふふ、ルミナ下手っぴ。ほら、ゆっくり。いち、に、いち、に」
「こう、かな?」
ルミナリアがアルルメイヤにリードされながらゆっくりとステップを踏む。
「ん、そんな感じ」
「いち、にー、いち、にー、あはは! 難しい!」
二人が楽しそうにくるくると回り続ける。自分の好きなものや、思い出のことを話しながら。いつしかルミナリアも素直に以前の自分のことを話すことが出来ていた。そんな時間にも終わりが来る。音楽が止み、焚き火の火が消えたとき。それは豊穣祭の終わりを意味している。長いようで短かった三日間が終わる。
「ねえアルル、改めて聞いてほしいことがあるんだ」
「ん、なに?」
「うん、私はルミナリアとしてここにいる、これからもよろしく」
「ん、よろしく」
「あとね、アルル、お姉ちゃんにも、本当のことを話そうと思うんだ。お姉ちゃんにも嘘はつきたくないから……一緒に居てくれるかな?」
「もちろん」
「ありがとう」
月明かりの下で二人は微笑みあった。
こうして、アルルメイヤに受け入れてもらえたルミナリアは、フィアナにも話す決心をします。真実を聞かされたとき、フィアナはどうするのか?
感想やご意見、誤字脱字の報告等ございましたらよろしくお願いします。
では、また次回で会いましょう。




