勇気を奮うということ
さてさて、第25話です、どうぞ。
鎧猪との戦いを終えたルミナリア達は、軽い休憩をとった後、再びホリティアへと移動していた。予期せぬ戦いがあったため、本来予定していた時間よりも遅くなってしまってはいたが、幸いにも日没までにはホリティアに戻ることができそうだった。
「もう少しでホリティアね。それにしても、まさかあんなトラブルに遭遇するなんて思わなかったわ」
「まったくだな。ま、こうして無事に帰れるんだ、よしとしようぜ」
「うん、アルルが無事でホントによかったよ」
ルミナリアは、森での逃走中に、アルルメイヤが転んでしまったときのことを思い出し、改めて恐怖を感じた。
「ん、あのときみんなが助けてくれなかったら……私は死んでた……」
アルルメイヤが、自分の身体を抱くようにして俯く。
「なぁアルル。今日のこと、怖いと思ったか?」
そんなアルルメイヤに、グリムが声をかけた。
「ん……あのとき、本当は泣きそうなくらい怖かった……」
「そうか、まぁそうだろうな。当然のことだ、俺だって怖いさ。でもな、そうやって怖いって感じるのは恥ずかしいことなんかじゃない。むしろ大事なもんなんだよ。昔、世話になった人の受け売りだけどな」
「大事な、こと…?」
「あぁ。冒険者なんて連中は、怖さを意識しなくなったやつからいなくなる。怖さを意識せずに挑むことを無謀。怖さを知った上で、立ち向かうことを勇気っていうんだ。何度も何度も聞かされたよ」
懐かしそうに語るグリムの様子はどこか寂しげだった。
「だから、怖いと思うことは勇気を出すための最初の一歩なんだよ。大切なのは、その怖さを感じたうえで、自分がどうするかだ。ルミナ、あのときお前がプロテクションを使ったときはどうだった?」
「私も怖かった。自分がどうなるかよりも、目の前で誰かがいなくなることが怖くて…気付けば身体が勝手に動いてたんだ」
「ルミナ……」
「怖さの感じ方も人それぞれ。勇気の奮い方も人それぞれなんだよ。自分一人だと怖くて動けねえときでも、一緒にいるやつがその怖さを乗り切る勇気をくれるときだってある。だから俺たちは力を合わせて、お互いを支えるのさ。そうやっていくうちに見つかるもんなんだよ。自分にしか出せない勇気ってやつがな」
「私だけの、勇気……」
アルルメイヤだけでなく、ルミナリアもグリムの話に夢中になっていた。
「ねぇアルル。今の私たちには怖いこと、わからないことがまだまだあるよね?」
「ん、わからないことだらけ、だね」
「これからも怖いことにたくさん出会うと思う。でも、今日の話を忘れないようにして頑張ろうね」
「ん! ありがとうルミナ」
アルルメイヤが俯いていた顔を上げ、ルミナリアにお礼をいうと、グリムに向き直った。
「グリム、大切なことを教えてくれてありがとう。今日話してくれたことは忘れない。私だけの勇気。見つけるね」
「はは、よせやい。柄にもなく真面目に語っちまったな……あーなんかむずむずする!」
グリムが背中を向けて恥ずかしそうに頭を掻く。
「ふふふ、グリムは相変わらずお礼を言われることに慣れないのね」
いままで静かに話を聞いていたフィアナが、グリムの様子を見ながら笑い始めた。
「なんかくすぐったいんだよ! あーもう目の前なんだ! さっさと帰るぞ!」
話をしているうちに、ホリティアの門のすぐ近くまでやって来ていた。グリムは逃げるように、一人で門まで走っていった。
「行っちゃった。あはは!」
「ん、グリムは恥ずかしがりや。ふふ」
「ええ、そうなの。……ねぇルミナちゃん。私からも一ついいかしら?」
アルルメイヤも同じように走りだし、ルミナリアも後を追おうとすると、フィアナがそれを引き留めた。
「お姉ちゃん?」
「さっきの話なんだけどね、ルミナちゃんは、自分のためじゃなく、アルルちゃんのために勇気を出した。そうね?」
「うん」
「それは誰かを守ることに繋がるとても尊いこと、立派なこと。でも覚えておいて。それは同時に自分から危険に近づいていくってことでもあるの」
ルミナリアは、その言葉に妹のために濁流に飛び込み、助からなかった自分のことを思い出した。
「どうか自分を犠牲にして助かる、なんて道を選ばないで……そんなことになったら悲しむ人がいるってこと。忘れないで?」
「うん……お姉ちゃん、ありがとう」
「うん、さ、難しいお話はおしまい! 私たちも行きましょ!」
フィアナは、ルミナリアの頭をポンポンと触ると、走り出した。
「あ! お姉ちゃん! 待ってよー!?」
ルミナリアは、慌ててその後を追いかけていった。
(優羽……僕は、優羽に悲しい思いをさせちゃったのかな……)
心の中でそんなことを考えながら。
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「まずはギルドに向かうぞ。今回は魔獣討伐依頼だったからな。角兎と鎧猪を倒した分を報告しねぇとな」
「あ、そういえばそうだったね……」
「ん、忘れてた……」
「ふふ、確かに今回は二人の戦いの訓練が目的だったものね」
「おいおい、しっかりしてくれよ!?」
ルミナリア達がそんな会話をしながら、ギルドに向けてホリティアの街を歩いていると、六人の武装した冒険者が正面から歩いて来ているのに気がついた。
「ありゃあ……おーい、こんな時間からどこいくんだ?」
「ん? グリムか!」
それは、ギルドの冒険者達、グリムやフィアナの知り合いであった。
「あなた達六人で出るなんて、余程のことがあったのね?」
フィアナが、先頭にいた大剣を背負った鎧の男性に話しかける。
「あぁ、この先の森を派手に荒らすような何かが出現したらしくてな。二時間くらい前に慌ててギルドに報告してきたやつらがいたんだよ。まるで一直線に嵐が通りすぎたみたいだってな。で、俺たちに調査が回ってきたって訳だ」
男性の言葉に、ルミナリア達がお互いに目を合わせる。
「この先の森で……」
フィアナが呟く。
「一直線に嵐が通りすぎるような……」
グリムが空を見上げる。
「森を派手に荒らす……」
アルルメイヤがルミナリアを見つめる。
「……あれ? なんかわかるような…?」
ルミナリアが、その一連の流れから、今日、まさに先程戦ったばかりの相手のことを思い出した。
「お? 何か知ってるっすか?」
大剣の男性の横にいた、槍を背負った男性が、明らかに様子が変わったルミナリアたちに、手掛かりを求めて話しかける。
「あー……それなんだがな? たぶん俺たちが遭遇したやつだ」
「何? あの森で何があったんだ?」
「実は、今日魔獣討伐依頼を受けて、あの森に行ってたの。そこで鎧猪に遭遇して、それをなんとか討伐したわ」
フィアナが事情を説明すると、冒険者達がざわついた。
「おいおい、冗談だろ? 確かに森の状況からして、鎧猪がいるとは考えられるが、さすがにそれをいきなり遭遇して討伐したなんてさすがに信じられない。もしかして、あまり大きくなかった、とかか?」
大剣の男性は、まさか、といった様子で笑っていた。
「ま、そう思うだろうな。ほらこれ見ろよ」
そんな男性に見えるように、グリムが背負っていた鞄から巨大な牙、鎧猪の討伐証明として持ち帰っていたものを取り出した。
「嘘だろ……その大きさはもうヌシクラスじゃないか……本当にお前達だけで!?」
「あぁ、この二人の魔法でな」
グリムが、ルミナリアとアルルメイヤを紹介するように、二人を冒険者達の前に押し出した。
「この子たちは? ギルドで見たことはないが……」
冒険者達の後ろの方、杖を持った女性と、弓を背負った女性がかわいい、と話し合っているのが聞こえ、赤くなっているルミナリアと、いつもと変わらない無表情のアルルメイヤ。冒険者たちが見覚えなどないのは間違いなかった。
「そりゃそうだろうな。まだ冒険者登録してないしな」
「なに!?」
「つまり、俺とフィアナ、そして、これから冒険者になるつもりの二人と鎧猪を倒したんだよ」
「信じられんな……だが、そこに討伐証明の牙を持っているしな……わかった、なんにせよ俺たちはこれから調査に向かわなきゃならん。依頼だからな。グリムたちはギルドに報告を頼む」
「えぇ、もちろんよ」
その後、鎧猪を倒した場所をグリムが説明すると、冒険者たちは門へと歩いていった。
「さて、じゃあギルドに行こうぜ」
ルミナリアたちも、ギルドに向け移動を再開した
今回はグリムが真面目に語りました。
アルルちゃんとルミナちゃんが勇気を奮うということを考えてもらうために、先輩が語ってくれたのです。
感想やご意見、誤字脱字の報告等ございましたらよろしくお願いします。
では、また次回で会いましょう。




