お姫様との会談
日にち開けちゃってすみませんでした!
書いては消して、書いては消してを繰り返し始めるとなかなか進まないものですね……
第15話です。どうぞ。
翌日、ルミナリアたちは神殿を訪れていた。
「神官長の部屋に案内するわ」
「お願いします」
シリルの案内で、神官長の部屋の前までやってくると、シリルが振り返った。
「ルミナちゃん、いいかな?」
ルミナリアが頷くと、シリルがドアをノックした。
「神官長、例の女の子と、一緒にその場にいたフィアナを連れてきました」
「そうか、入ってくれ」
ドアが開かれると、金の刺繍が入ったローブを身に纏う神官長が三人を迎えた。
「よくきたの、そこに座ってくれ」
三人は促されるままに、三人掛けのソファーに腰掛けた。
「こんにちは。神官長さま」
「フィアナもよくきたの。彼女を保護しとるという話じゃったな。して、君の名前を聞かせてもらってもよいかな?」
神官長がルミナリアに問いかける。ルミナリアはその優しげな表情から、穏やかな印象を受けた。
「はじめまして神官長さま、私はルミナリアと言います。結界のことはすみませんでした……あと、女神像のことなんですけど……」
「うむ、その話なんじゃが、全員が揃ってから始めてもらってもよいかな?」
「え? 神官長、他にも誰かいらっしゃるのですか?」
「ああ、そういえば言っておらんかったの。そろそろ来るとは思うのじゃが……少し待つとするかのう……」
到着が遅れているもう一人を待つこと十五分程たった頃。部屋のドアをノックする人物が現れた。
「どうやら到着したようじゃの」
神官長がゆっくりと椅子から立ち上がり、ドアを開ける。そこにはルミナリアよりも少し背が低いと思われる長い金髪の少女が立っていた。少女の頭の上で揺れる髪の毛が特徴的だ。
「すみません、遅れてしまいました……」
「ほっほっほ、お待ちしておりました。さ、お入りくだされ」
少女は、神官長に促され、ルミナリア達の正面のソファーに腰かけた。
「これで全員が揃ったの、ではそろそろ話を聞かせてもらうとするかのぅ」
「えっと……神官長、その子は?」
ルミナリアはもちろん、シリルとフィアナもこの少女とは全く面識がなかった。
ルミナリアが、その少女を見つめていると、エメラルドグリーンの眠たげな瞳と視線があった。
(綺麗な眼……宝石みたいだ……)
「初めまして、私はアルルメイヤ・ブラン・ホリティア。この国の第二王女。神官長から話を聞いて来たよ」
その少女、アルルメイヤがぺこりと自己紹介をすると、それを聞いた三人がピタリと固まった。
「アルルメイヤ様の事を知らんのも無理はないのぅ。アルルメイヤ様はまだ十四歳。この国の王家の伝統で、十六歳になるまで公の場に顔を出されることはないからの」
「ん、よろしく……ね?」
アルルメイヤがこてんと首をかしげると、同時に頭の上の髪の毛もみょんみょんと揺れた。
「……神官長、ホントですか?」
「あぁ、彼女は正真正銘この国の第二王女様じゃ」
「第二王女様のお話は私も聞いたことがあったけど……まさかこんなところで会うことになるなんて……」
ルミナリアは、まさかこの国の王家の人間と話をすることになるとは全く思っていなかったため、未だに固まったままであった。しかし、その心中ではある思いがあった。
(この子……第二王女ってことは、この国のお姫様なんだよね……でもなんていうか……イメージと違うなー……)
そう、ルミナリアの前に座るアルルメイヤは全くお姫様らしくなかったのだ。身に纏う衣服は、気品さのあるドレスなどではなく、ただの白いブラウスにズボンという町娘のような服であり、その肩ほどの長さのある髪には寝癖が残っており、どうやら慌てて準備でもしたのだろうと窺うことが出来た。
(うーん……神官長さまの話からすると、王女だって目立たないようにするためなのかな? それにしても髪だけでも整えてあげたらまた違うんだろうけど……)
ルミナリアがアルルメイヤを見つめていると、その視線に気づいたアルルメイヤがルミナリアに話しかけた。
「どうかした?」
「ひゃいっ!? にゃ、なんでもないです!」
「そう……?」
突然話しかけられ、動揺するルミナリア。アルルメイヤは、そんなルミナリアを眠たげな瞳でじっと見つめていた。
「ところで、聞いてもいい?」
「はい、なんでしょうか……?」
「あなたが、女神像の魔力が弱まった原因になったって子?」
「……!」
いきなり切り込んできたアルルメイヤに、ルミナリアは返答に詰まってしまった。僅かに訪れた沈黙、ルミナリアを見つめるアルルメイヤの瞳は、ルミナリアの心の奥底まで見通しているかのような深い色をしていた。
「アルルメイヤ様。その話についてはこれから話してもらうところで、アルルメイヤ様の到着を待ってもらっていたのです。そういえば今日はどうして到着が遅れたのですかな?」
その沈黙を破ったのは神官長だった。
「……それは」
アルルメイヤがルミナリアからすーっと目を逸らしていく。そして突然おどおどし始め、頭の上の髪の毛も元気をなくし、下を向いてしまう。
「アルルメイヤ様……? そんなに言いにくいことだったり……?」
「……ぅ……の……」
突然変わってしまったアルルメイヤの様子に戸惑う面々。シリルが、声をかけると、アルルメイヤがぼそぼそと何かを呟く。
「え?」
「寝坊……したの……」
「えー……」
「いやいやいやいや嘘でしょ!? もう午後だよ!?」
「ほっほっほ、相変わらずですのぅ」
「あぁ……アルルメイヤ様かわいい……」
あまりにも予想外の返答に、シリルは頬をひきつらせ、ルミナリアは言葉遣いも忘れて思わず突っ込む。神官長は穏やかに笑っていた。なお、フィアナは、おどおどするアルルメイヤを見て怪しい笑みを浮かべていた。
「お布団が離してくれなくて……慌てて準備してきた……」
「もしかしてその寝癖って……」
「そんな余裕なかった……」
「そ、そっかー」
ルミナリアの中で崩れつつあったお姫様のイメージが、ガラガラと音を立てて崩壊していった。
「ほっほっほ、さて、そろそろ本題に入るとするかのぅ。ルミナリア、話してもらってもよろしいかな?」
「はい、まずは自己紹介しますね。私はルミナリア。自分についてわかっていることは、三日前に街の外の草原で目を覚ましたこと。持ち物は杖一本とパーソナルバングルだけだったこと。あと、光属性の魔法の適性があるらしいこと……くらいです」
「どういうこと?」
ルミナリアの曖昧な自己紹介に首をかしげるアルルメイヤ。
「実はこの子には記憶がないみたいなんです。私はフィアナ。ルミナちゃんが草原で角兎に襲われていたところを保護したんです」
「なんと……」
「そんな……」
説明を引き継いだフィアナの言葉に、神官長とシリルが驚きの声を上げる。
「でもパーソナルバングルがあったなら出身なんかもわかったんじゃ?」
「それが……ルミナちゃんのパーソナルバングルは出身のことが書かれていないみたいなんです」
「……本当?」
「はい、あれから何度か見てはいるんですけど、やっぱり名前と年齢以外は何も書かれていないんです」
アルルメイヤの問いに、ルミナリアが右腕のリボンを外し、パーソナルバングルを見せながら答えた。
「神官長ならバングルの可視化ができますよね? それで私たちも見てみませんか?」
「うむ、確かめてもよいかな?」
「はい、どうぞ」
神官長が、ルミナリアのバングルに手をかざすと、バングルがぼんやりと光り、文字が浮かび上がってきた。
名前:ルミナリア
性別:女
年齢:14
出身:
職業:
「バングルの表示を消すなんて聞いたことない……神官長、そんな方法ってあるんですか?」
「いや、儂もそんな方法は聞いたことがないの……記載されている内容が変えられるのは精々職業の欄くらいじゃ」
「私も聞いたことがない……そのバングル、よく見せて」
アルルメイヤがルミナリアのバングルを覗き込む。ルミナリアは、目の前に近づいたアルルメイヤの髪から香る花のような匂いに思わずどきりとしてしまった。
「これ……よく見ると銀じゃない……?」
「そういえばそうだったわね。ルミナちゃんのバングルは出身の身分を示す金属の材質がわからなかったんです」
「むぅ……私もこれはわからない……」
「そんなに変わったものなんですね……」
「平民なら銅。商人なら鉄。貴族や騎士なら銀。神官なら金。そして、五大国の王家の人間は白金のバングルをしてる……でもあなたのバングルはそのどれでもなさそう……」
アルルメイヤがそう言いながら右腕を伸ばし、手首に巻いていたスカーフを外す。その腕には美しい装飾のなされたバングルが巻かれていた。
「今は何もわからないから、あなたが目覚めてからの話を聞かせてもらえる?」
「わかりました……では――」
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「……以上が女神像を触ってしまうまでになります」
ルミナリアは、自分が異世界から来たという事以外のことを全員に説明した。昨日のうちに話を聞いていたシリルとフィアナは落ち着いていたが、神官長とアルルメイヤは難しい顔をしていた。
「とても信じてはもらえないと自分でもわかっています。これが嘘じゃないと証明する方法もありません。でも、私は知りたいんです。これから私はどうするべきなのかを……」
「……あなたは光の中で不思議な声を聞いたんだよね? そして、その声は間違いなくお姉さまって言ったんだね?」
「はい、そうです。光の中で何かを受け取ったとき、今のあなたにはまだ使えるものではないでしょう。しかし、お姉さまに選ばれたあなたにはそれを扱いきれるだけの適性があるのです。と言われたのをはっきりと覚えているんです。まるで記憶に直接刻まれたみたいに……」
ルミナリアは、この世界に転移してきたときの会話と、女神像に触れたときの会話をはっきりと覚えていたのだ。
「あれ? このホリティアの女神様が、姉妹の中で一番上の姉って言われてましたよね?」
アルルメイヤが指摘した内容は、神官であるシリルですら知らないことだった。
「ん、それが一般的な認識になると思う。このホリティアの白の女神は実は双子だったって知ってるのは、王家の人間か、一部の神官くらいだと思う。更に言えば、あの女神像が妹の方だってことも本当。……私個人としては、あなたの話が嘘だなんて思えない。きっと、他の女神様に会うように言われたことにも意味はあると思う。そしてそれは、長い旅になるだろうけど、あなた自身のことを知るためにも必要なことなんじゃないかな」
「じゃがそれはあくまでも選択肢の一つじゃ。ルミナリアには、このまま平穏に暮らすという選択もあるという事を考えてくれ」
アルルメイヤと神官長の言葉に口を開いたのはフィアナだった。
「ルミナちゃん、あなたはどうしたいの?」
「私は……街の外に出るのは怖いし、旅なんて自信がないよ……だけど、やっぱり自分のことを知りたい、かな」
「そう……うん、わかった。私はルミナちゃんがそうしたいって言うなら応援しようと思う。旅に出るにしてもちゃんと魔法を使えるようにならなきゃね」
「お姉ちゃん……ありがとう」
「決めたんだね……もう一つあなたに伝えないといけないことがある」
ルミナリアとフィアナが話し終えると、アルルメイヤが再びルミナリアに話しかけた。
「実は、あの女神像の魔力は、このホリティアを守る白き壁の中枢でもある……つまり、女神像の魔力が弱まったことで、この国の守護が薄くなってしまった」
「え……!? 私のせいで……この国の人たちを危険に晒すことになったってこと……ですよね……」
ルミナリアは、アルルメイヤの言葉に青褪めてしまった。
「うん、そうかもしれない。でもそれにはおとーさまが騎士団を動かして対処し始めてくれてる。だからきっと大丈夫。今日、私がここに来たのはあなたという存在を見定めるためだった」
「アルルメイヤ様。ルミナちゃんは……」
フィアナの不安そうな表情に、アルルメイヤが微笑みながら答える。
「ん、大丈夫。この子は大丈夫だって判断したことをおとーさまに伝える」
「ありがとうございます……」
アルルメイヤの説明を聞いて、ルミナリアはほっと安堵の息を漏らした。
「うむ、今日の話はここまでかの」
「うん、一通り話も聞けたし、もう大丈夫。さて、私もおとーさまに相談したいことができたし、今日は帰るよ」
「うむ、では今日は解散としようかの」
「ん、じゃあねー」
アルルメイヤは、そう言って椅子から立ち上がると、ぺこりと頭を下げて帰っていった。
「なんというか、アルルメイヤ様って……マイペースだね……」
「ほっほっほ。あれでもかなり高い光魔法への適性を持っていらっしゃるのじゃぞ?」
「そうなんですね……あ、適性と言えば。フィアナ、ルミナちゃんの属性の適性を調べたいって言ってなかった?」
「えぇ、確かにそうだけど……」
「ふむ、魔法の練習をするにも適性の有無は早くわかっておいて損はないじゃろう。神殿に来たついでに調べてやろう」
こうして、ルミナリアの魔法適性検査を行うこととなった。
さて、マイペースお姫様の登場です。
次回はついにルミナちゃんの適性が判明します…さてさてどうなることやら……
感想やご意見、誤字脱字の報告等ございましたらよろしくお願いします。
では、また次回で会いましょう。




