魔法使い、はじめます
ルミナリアの魔法のお勉強が始まります。
違うどこかでも動きがあるようです。
第13話です。どうぞ。
暗い、静かな部屋の中、ルミナリアは右手を前につき出す姿勢で立っていた。
(魔法の発動に必要なのは明確なイメージ……よし!)
ルミナリアが頭の中で、目の前に浮かぶ光の球をイメージする。すると、ルミナリアの手の前にはイメージ通りの光を放つ球が浮かんでいた。
「うん、ちゃんと安定してる。ルミナちゃんすごいわ! まさか無詠唱での魔法の発動をあっさり身に付けられるとは思ってなかったわ!」
「うん、自分でもちょっとびっくり……私が魔法かぁ」
ルミナリアは、本日立ち寄った図書館で借りてきた初心者向けの魔術教本を使い、フィアナの教えのもとで魔法の勉強と練習をしていた。
以前は魔法など存在しなかった環境で暮らしていたルミナリアは、自分の手で魔法が発動できた、という事実に嬉しそうにしながらライトの魔法を繰り返している。
「正直こんなに魔法ができる人に会ったことないわ……ルミナちゃんはいったい……」
フィアナは、魔法の発動に成功して喜ぶルミナリアを見て小さく呟く。通常ならば、魔法の初心者が何度も魔法を繰り返していると、属性への適性など関係なく、効率の悪い発動しかできないため、すぐに魔力切れを起こしてしまうはずなのだ。何度も習練を重ねることによって、初めて魔力を効率よく使うことができるようになるのが普通なのである。
「ルミナちゃん、疲れたりしてない?」
「ん、まだまだ平気!」
「慣れない間は魔力切れを起こしたりすることもあるから気を付けてね? 魔力を冷たく感じ始めたりしたら休まなきゃダメなんだから」
「はーい!」
だが、それにも限界はある。それが属性の適性である。この世界には光属性、火属性、水属性、風属性、地属性、闇属性の六つの属性が存在し、人々は、個人個人で属性への適性をもっている。
その適性が高い属性の魔法ほど効率よく使うことができるようになりやすく、逆に、その属性への適性がない魔法ほど、発動にかかる魔力も多く、不安定な発動になりやすくなる、という傾向があるのだ。
なお、その適性は、各町にある神殿やギルド、そしてその支部などで簡単に検査することができるため、殆どの人が3歳~5歳の間に調べていることが多い。フィアナは、ルミナリアに光属性の適性があることだけはわかっていたが、神殿で他の属性への適性についても検査してもらおうと考えていたが、ルミナリアが倒れてしまうというハプニングが起きたため、検査することができなかった。そのため、現在は、使えることがわかっている光属性魔法の練習をすることにしたのだ。
しかし、ルミナリアの行っている魔法は、既に初心者の練習の域を超えていることなど、今のルミナリアにはわかっていなかった。
「えいっ……やっぱりライトを二つ出したりもできるんだね! お姉ちゃん……ってどうしたの?」
ルミナリアが、自分の周りで二つの光の球をくるくると回転させなが後ろを見ると、呆れた表情のフィアナがルミナリアを見つめていた。
「あのね、ルミナちゃん。ルミナちゃんが今やってるそれって、本来ならかなりの修練を積まないと出来ないようなことなのよ?」
「え」
「ルミナちゃんが記憶をなくす前何をしてたのかホントに気になるわ……」
(ごめんなさいお姉ちゃん……さすがに異世界から来た上に元は男でした、なんて言えない……)
フィアナに苦笑いを返すことしか出来ないルミナリアなのであった。
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夜の神殿、礼拝堂の女神像の近くにシリルを含めた十人の神官たちが集まり、神官長を中心として結界構築の儀式を行っていた。その周囲は柔らかな光に包まれており、厳かな気配を放っている。しばらく儀式は続いたが、やがて、女神像の周りに再び鎖が出現すると同時に周囲を淡く照らしていた光も徐々に収まっていった。
「よし、皆のものご苦労であった。急な作業になってしまったが、皆のお陰で無事に結界を張ることができた。今日はもう休んでくれ」
立派な白い髭を蓄えた神官長が全員に儀式の終了を宣言する。多くの皺のあるその顔には疲労の色が現れていた。ほぼ丸一日儀式を行っていたので仕方のないことだろう。他の神官が帰っていくなか、シリルと、神官長は最後までその場に残っていた。
「さて、シリルよ。改めて話を聞かせてくれ。結界が消えた、と話を聞いたときは耳を疑ったぞ。結界が無くなっているのを見たときはもっと驚いたがのぅ」
「今まで無かったことですからね……」
「おそらくこの神殿が出来てから初めての事じゃろうな。して、この結界を破壊してしまったという女の子は今どうしておる?」
「今は私の幼馴染みのフィアナの家にいます」
「明日の午後にでも話をしたい。連絡を頼めるかの?」
「わかりました。……あの、結界を壊してしまった子に悪意はなかったんです。ですから……えぇと……」
シリルは、ルミナリアが罪に問われてしまわないか心配だったのだ。あのときの状況は明らかに異常なものであったが、故意ではないだろうということだけはシリルにもわかっていた。シリルが不安そうな表情で神官長を見ていると、神官長は困ったようにうなり始めた。
「ふむ……今回のことが結界の破壊だけであればまだよかったんじゃがの……」
「え……?」
「実はの、先の儀式を行いながら気づいたんじゃが、女神像の魔力が弱まっておる。その子がこの像に触れた、と言っておったの、もしかするとそれが原因かもしれぬ
「そんな……」
「すまぬが今はなんとも言えぬ。全ては明日話を聞いてからじゃ。シリルたのむぞ」
「……はい」
会話を終えると、シリルは浮かない顔でその場から去っていった。
「さて……明日は姫様にも来てもらった方が良さそうじゃな……」
神官長は、神殿にある書斎に向かうと、手紙を書き始めるのだった。
魔法を使えるようになってにっこりなルミナリアの明日はどうなるのでしょう?
では、次回で会いましょう。




