一人っきりの夜
前回のお話のあと、先輩作家さんから「もっと攻めろ!!!!!」と言われたため(誇張あり)、ちょっぴり加筆しちゃいました。ストーリーに変化はありませんが、気になる方は是非・・・
では第10話です。どうぞ。
フィアナが、お風呂から上がる前には、ルミナリアもなんとか立ち直っていたが、再び訪れたある衝動に襲われ、もじもじしていた。
「んー! やっぱり旅の後のお風呂は最高ね!」
風呂場からネグリジェ姿のフィアナが現れ、ルミナリアの正面の椅子に座る。今までの人生において、優羽以外の薄着の女性を見ることなどなかったルミナリアは、健康的な色香を漂わせるフィアナから、思わず目を逸らしてしまった。
「あら? どうかした? 」
「いえ……なんでもないですっ」
「そう? あ、そうだ。ルミナちゃんの部屋なんだけどね?」
首をぶんぶん振って否定するルミナリア。フィアナは不思議そうな顔をしながらも、話し始めた。
「ちょっと小さいけど、物置にしてる部屋があるの。ほとんど物は置いてないからそのままルミナちゃんのお部屋にしちゃおうと思うんだけどいいかしら?」
「え……そんな……いいんですか?」
まさか、部屋まで用意してもらえるとは思っていなかったルミナリアは、正直に言えばこの提案はうれしいものだった。今はルミナリアも女の子になってるとはいえ、元は男だ。四六時中女性といるのは緊張してしまうと考えていたのだ。
「もちろん! むしろ、その部屋をどうするかって考えてたところだったから丁度いいわ。無駄に余らせているよりも誰かが使ってくれた方がいいでしょうし」
「ありがとうございます!」
「じゃあ、明日は服以外にもいろいろと揃えるために街に行きましょうね! あ、ベッドはその部屋にあるのを使っていいからね?」
なぜベッドだけは予備があるのだろう、と考えるルミナリアだったが。
「シリルがよく泊まりに来るから用意してたのよ。気にせず使っていいわ」
というフィアナの言葉でその疑問は解消してしまった。
「さて、案内してあげるわ。こっちよ」
フィアナが座っていた椅子から立ち上がると。壁の方にある階段を指さす。それに続き、立ち上がるルミナリア。しかし、ルミナリアはすぐにそれについていかず、赤くなりながらフィアナに声をかけた。
「あの……フィアナさん……」
「どうかした?」
「ト……トイレを借りてもいいでしょうか……?」
「あ、トイレなら脱衣所の横の扉よ! ごめんなさい、教えてなかったわね……」
「ありがとうございます!」
ぱたぱたとトイレに駆け込んでいくルミナリア。そう、フィアナが風呂から上がる少し前あたりから我慢していたのだった。
「あ、トイレは知ってる形だ……」
ルミナリアは、トイレが見慣れた洋式タイプの物だったことに驚かされることとなった。なお、草原の時よりスムーズに事を終えたルミナリアは。
「慣れていくのが安心できるような悔しいような……」
と、ポツリとつぶやくのだった。
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「手前のドアが私の部屋。そして……」
階段を昇り、左を見ると、奥まで廊下が続いているのが見える。どうやら二階は本来寝室と物置のみだったようだ。フィアナの部屋の前を通りすぎ、奥の扉をフィアナが開く。
「ここがルミナちゃんの部屋よ」
そこは、クローゼットとベッド、机があり、部屋の隅の方には布がかけられた荷物が置かれている部屋だった。
「ちょっと殺風景だけど、物は追々揃えていきましょうね」
「はい……ふあぁ……」
返事をしながらルミナリアは、先ほどから眠気をじわじわと感じていたため欠伸をしてしまった。
「あらあら、今日はいろいろあったから疲れたんでしょう? 私も今日のところは休もうかしら。何かあったら私の部屋に来ていいからね。じゃあ、おやすみなさい」
「はい……おやすみなさい……」
挨拶を交わすと、フィアナは自分の部屋へと帰って行った。
フィアナがいなくなると、ルミナリアはそのままベッドに横になった。毛布に包まると、だんだんと瞼が重くなっていく。
「そういえば、一人っきりになるのってこの世界に来た時以来だな……」
そう、ルミナリアがこの世界で目覚め、フィアナとグリムに出会って以来ルミナリアのそばには常に二人がいてくれたのだ。そのおかげで、何もわからないこの場所でもなんとか孤独や不安を感じずにいられたのだ。そして、今、再び一人になったとき思い出してしまった。自分がこの世界で一人だったことを。今は帰ることができない世界にいる家族のことを。
「優羽……父さん……」
小さく呟くルミナリアの目元から、一筋の涙が流れていく。そしてそのまま、ルミナリアは眠りについた。
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「お兄ちゃん! ねぇどうしたの? さっきからボーっとしちゃって……」
「優羽? あれ……ここって……」
「おいおい和希……ボケるにはまだ早いんじゃねーのか?」
そこは見慣れた通学路だった。和希の両隣には優羽と圭祐が並んで歩いていた。
(あれ……今っていつだっけ……?)
和希には自分が何をしていたのか思い出せなかった。
「せっかくだるい授業も終わって帰れるってのにどうしたんだよ? こんな天気のいい日に部屋の中にこもってるとか嫌になるってんだ……」
「あ……あぁ……ごめんごめん、今日の晩御飯どうするかちょっと考えてただけだよ」
「お、優羽ちゃん、今ならリクエスト受け付けてくれるんじゃねーか?」
「あっじゃあ私は――」
なんとかその場を誤魔化す和希。頭の中にもやもやとしたものがあったが、何も思い出せず、帰り道を歩いて行った。
それからしばらく歩いた時、気づけば空は曇天となっていた。
「お? 雨でも降るのか?」
「確か天気予報では晴れになってたんですけど……」
三人が空を見上げると、ポタリと雨粒が空から落ちてきはじめた。
「おわっ! 降り出してきやがった!」
「私、傘持ってきてないのに……」
「まだ雨は大したことないから急いで帰ろうか」
和希が雨の状況を見てそう言った瞬間。
――ドクン
和希の心臓が跳ね、何か嫌な感覚が広がる。
急いで帰り道を進む三人。だんだんと強まる雨。いつしか吹き始めた強風。
だんだんと早くなる鼓動。と広がっていく不安。
そして、三人の目の前に。
濁流となった川と橋が、現れた。
「こりゃ本格的にやべえぞ! 今橋を渡るのは危ないか……?和希、どうする!?」
隣から圭祐が話しかけてくる。
(だめだ! この橋を渡っちゃいけない!)
「今を逃すと余計に帰れなくなるかもしれない! 急いで渡ろう!」
橋に近づいてはいけない、そう思うながらも、口から出た言葉は全く違うものだった。
(どうして……! だめだ! このままじゃ優羽が!!)
頭の中で叫ぶ和希。しかし、無情にも三人は足を止めることなく橋を渡っていく。
三人が向かうのは、突風が吹き、優羽が濁流の中へと落ちて行った場所。
そして、あの時と同じようにやってくる突風。
「え……?」
しかし、突風に煽られたのは優羽ではなく和希だった。バランスを崩した身体が橋の欄干を越える。ぽかんとこちらを見ることしかできない様子の優羽と圭祐。
そして、和希は濁流の中に落ちていく。
「お兄ちゃああああああああああん!!」
「和希いいいいいいいいいいいいい!!」
二人の叫び声を聞きながら、和希は濁流の中に落ちて行った。
(なんで……! 嫌だ! どうして僕だけが! 一人になりたくない!!)
荒れ狂う水の中でもみくちゃにされながら和希は死の恐怖より、孤独になる恐怖を感じていた。そして、その恐怖を感じる和希の身体は、いつしか深い闇の中に落ちていき――
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「きゃあああああああああああ!!」
叫び声をあげてルミナリアは目を覚ました。息は激しく乱れ、全身にはじっとりと嫌な汗をかいている。そして、ルミナリアの目からはとめどなく涙が流れていた。
「はぁ……はぁ……夢……?」
ルミナリアの身体は、濁流の中ではなく、先ほどフィアナに案内してもらった部屋のベッドの上にあった。窓の外はまだ夜であった。
「ルミナちゃん!? どうしたの!? 入るわよ!」
ルミナリアの叫び声を聞き、慌てた様子のフィアナが飛び込んできた。
「フィアナ……さん……」
「大丈夫……? なにがあったの?」
フィアナはベッドで泣き続けているルミナリアのそばに腰掛け、ルミナリアを抱きしめた。
「夢を……見たんです……真っ暗な闇に落ちて……一人ぼっちに……うぅ……」
「そっか……怖かったね……大丈夫よ、今は私がいるわ……大丈夫……」
フィアナは抱きしめた腕の中で泣き続けるルミナリアをそっと撫で続けた。
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「すぅ……すぅ……」
「やれやれ、こんなにしっかりくっついちゃって……うん、今日はお姉さんが一緒に寝てあげるからね……おやすみなさい、ルミナちゃん」
やがて泣き疲れたルミナリアはフィアナに抱きついたまま眠ってしまっていた。フィアナはそんなルミナリアとともに、ベッドに身を横たえた。
女の子になったルミナリアちゃんはちょっと泣き虫なのかもしれません。
そんな彼女はこの世界で強く生きていくことができるのでしょうか。
次回は街に繰り出します。どんな服を選んでいいかわからないルミナちゃんに、フィアナお姉さんの魔の手が迫る……かも……
では、また次回で会いましょう。




