ロワン村2
そしてその晩。村長の家で歓迎会を受け夜もふけた頃にみんなは集まった。椅子に座り机を囲んだ形だ。
「さて、まず私から報告しよう。と、言いたいが大人達が言っていた事は報告通りのものばかりだった。だからあまり有用な情報は入ってこなかった。」
「俺のところもそうだった。大人は詳しくは知らないようだ。」
「となるとあてになるのは子供たちの聞き取りか。どうだった?」
「先に僕らでまとめた結果ですけど魔力量の強い子達はどちらかといえば嫌われやすかったようです。というのも…」
「自分はお前らより強いんだぜーってアピってくるやつが多いらしい。んでも逆らうと面倒だったり勝ち目がないってわかってるから何も言えなかったんだと。」
「と、いうことのようです。ただ最後に消えた子は力があるからと驕ることもなくみんなから慕われてたみたいです。どの子もそんな感じのことを言ってました。」
「あと攫われた場所はほとんど同じだった。ほぼ一定。多少差はあるものの半径3キロ以内みたい」
「そうか。じゃあ最後にセレン。どうだった?」
「うん。まずあの子、術をかけられてた。」
「なんだと?」
「ただその子は対魔術の符をたまたま持ってたらしくて完全だったわけじゃなかった。かけられてた魔術は忘却に関すること。多分攫われたとこを見られて消したんだと思う。」
「待て、今までは殺されてたりしたはずだ。なぜ…」
「それについての考察もあるけど報告だけさせて。攫っていったのは黒で統一された人達。そしてみんな仮面をつけていたらしい。」
「ふむ…人さらいのたぐいか…?」
「あとたまたま女の子の視界に入ったものがあったんだって。真っ黒なサソリに剣。」
「その特徴は…」
「ハイヴェズの国王の紋章。真っ黒なサソリに突き立てられた剣の紋章だろうな。」
「あと過去のこと調べたんだけど、十年くらい前にも似たようなことが起きてる。」
「今回の事件にあたってこの村について調べたがそんな報告はなかったぞ」
「うん。当然だと思う。だって全員数日で帰ってきてる。だから全部迷子で片付けられてるっぽい」
「でもそれが何の役に立つんだ?今回の件と似てはいても別物じゃん」
「ううん。関係あるよ。」
セレンの話を聞いて考えていたオルハがなにかに気がついた顔になった。
「まさか…いや、だがそんな…」
特に何も考えていないであろうクレアとユウェルは気が付かないがほかのみんなはオルハの言葉ですべてを察した。
「え?何かあるのか?」
「みんなの様子を見る限り何かありそうだけど…なんだろね?」
「…セレン。説明の続きを頼んでいいか」
セレンは一つうなずき説明を再開した。
「ハイヴェズは何十年も前から計画してたのよ。十年前に迷子になった人たちは今回消えた子供たちの親だった。恐らく十年前にさらった人たちになにかして記憶を消した上で返したんでしょうね。さらわれた本人達は何も覚えてなかったらしいから。」
「長期にわたる計画だな…だが自国で行えばいいものをなぜこっちでやった?やってる事は人体実験だ。人体実験は禁止されている。リスクしかない。」
セレンは一瞬だけためらい口を開いた。
「おびき寄せだと思う。この実験は失敗しようが構わない。ただの餌だから。」
「おびき寄せる?誰を?我々か?我々だとしたら来ない可能性だってあったはずだ。それに国内外共に我々の事は知られてない。」
「私たちが確実に来るようにハイヴェズがやったんじゃないかって匂わせたんだと思う。だから国境付近。物事を成し遂げるならどんなことだってする。それが現ハイヴェズ国王のやり方。どうして私たちのことが知られたかのはわからない。」
みんなが黙った。どうして知られたのか。秘匿してあることを知る方法はいくつかあるが一番有効なのは《スパイ》もしかしたら今この会話すら筒抜けなのかもしれない。みんなの中に不安が渦巻いていく。
「どうする?」
「どうする。とは?」
「このまま黙ってても進展しない。王に報告するとして、このまま国に帰る?それともわざと餌に食いついた振りをして…って言ってももう食いついてはいるけど。釣られにいくか、釣られたふりして返り討ちにするか。」
「…あえて釣られよう。」
「理由は?」
「現時点で情報はあくまで聞き込みの分のみ。可能性はないが嘘かもしれん。実際に確かめてから報告した方がいいだろう。運良く捕まえられたら攻め入るいい理由になる」
「釣られるって言っても相手がどこに来るかわかんないぞ?もうさらい尽くされてるだろうし…」
「囮を使えばいいだろう。」
「囮ですか…危険ですけど確実ですね」
「子供ばっかり狙うというのであればカイトかクレアが適任だな」
『え』
カイトとクレアがが固まった。
「え、ちょ、俺そこまで幼くないぞ!幼さで行くならクレアだろ!」
「は?あんたか弱い女の子に危険なことさせるつもり?そこは男が行くべきでしょ!」
「か弱いっての訂正しろ!こんなかで一二を争うくらい強いくせに!」
「…んー…囮は必要ないと思うなぁ…」
セレンの発した一言で二人は言い合いをやめた
「必要ない?」
「だって、ここはハイヴェズに狙われてたわけで、多分私たちが来てることにも気づいてるはず。だとしたら子供たちがさらわれた場所に行けば会えるはずじゃない?だからいつも同じ場所でさらってたんだろうし」
「確かに…」
「言われてみればそうですね…良かったですね。囮作戦がなくなって」
「そうね…」
「だな…」
「明日朝食を取り次第ここに集まって作戦会議を開く。その後昼過ぎにさらわれた場所に向かおう。恐らく戦闘は避けられない。各自万全の準備をしておくこと。いいな」
『了解』
「今日はこれで解散だ。明日に備えゆっくり休むように」