人間の思い出
私はその時、真っ暗な闇の中を一人歩いていた。
ぼろぼろにすり切れて汚れた服と裸足の姿はきっと憐れで、滑稽で、とても情けないもの。
それでも幼かった私にはただあの場所から逃げることできるのならという思いで頭がいっぱいで、ただただ目の前に広がる闇へと足を急いでいたのだ。
それからどのくらい歩いただろうか、子供の身体のことだもしかしたらそんなに距離は歩いてなかったかもしれない。しかし、元々体力の残っていなかった私の身体は極度の疲労と空腹で足元がふらつき、そしてとうとう歩けなくなっていた。
真っ暗闇の中に一人ばっち。
ここで死ぬのかもしれない、そう思った。
そんな中、現れた彼はいつだか本で見た「王子様」のようだった。
闇の中を照らすお月様のように光り輝く髪に、青空のように澄んだ瞳。
現実離れした整った顔は美しく感じるとともに、どこか怖さを感じていた。
「人間の子供か……」
彼の声はとても無機質で、私を見る目は無関心そのものだった。
その視線が私は怖かった。誰にも必要とされていない邪魔な存在。
頭の中に「お前さえいなければ」といった父親の声が聞こえてくる。
「ごめんなさい。消えるからたたかないで……」
身体が震え、目の前がぐるぐると回転する。
嗚呼、生まれてきてしまってごめんなさい。
それを最後に私の意識は途切れたのだった。
新連載です。
今回は人間の話。さて、彼女は何者なのかそして、誰がいたのか……。