リバウンド
ぼくはバスケをしていた。好きなわけではなかったのかもなしれない。練習はきついし、上手くなって、花形の選手になれることもなかった。でも、練習はさぼらなかった。ただ一つ得意だったのは、リバウンドをとることだった。バスケをはじめるきっかけになった漫画の主人公が、リバウンドをとって走っている姿にあこがれた。
高校生になり、バスケを続けるつもりはなかった。アルバイトをして、じいさんの助けになりたかった。でも、アルバイトをするつもりだと言うと、おまえが働くなんて、まだ早い。バスケでもして、走りまわっていろ、と言われた。
バスケを続けることに、抵抗はなかった。やっぱり、じいさんの言うとおり、バスケをしていることのほうが似合っていたのかもしれない。
高校でも、リバウンドだけは誰にも負けたくなくて、練習が終わって、体育館が使えなくなったあとも走りこんだりしていた。身長は、一般の高校生としては高かったけど、バスケ部としては、特別高くはなかった。でも、くらいつくように、走って、飛び回って、リバウンドをとっていた。
1年の秋、3年生が引退した後、ユニフォームをもらった。15番だった。じいさんに話すと、その日焼肉に連れていってくれた。そして、ぼくは3年間、自分の意思で15番をつけ続けた。
物心がついたときには、じいさんと2人で暮らしていた。親の顔は知らなかった。でも、それで困ったことはなかった。じいさんは、学校におにぎりをたくさん持っていかせてくれた。バスケは体がでかくないといけないから、とか言っていた。
練習試合には出たり、出なかったりでいたが、2年の秋からはスタメンだった。そのころには、身長が180を超える程度には伸びていた。
公式戦はいくつかしたけど、一つ勝てればマシなほう、くらいだった。
3年になり最後の夏、いくつか勝ってから、最後の公式戦になった試合、ぼくはリバウンドの自己最高記録をだした。そして、試合には負けた。
水道で頭から水をかぶり、泣かないようにしていると、後ろから、
「ナイスガッツ。」、と声をかけられた。知らない女の子だった。ジャージを着ていることから、バスケの選手だということはわかった。
「去年も15番つけてたよね。けっこう他の学校からも目立ってたみたいだよ。」
ぼくは自分の意思で3年間同じ番号をつけていたことを話すと、
「3年間ユニフォームをもらえない人からすれば、ぜいたくな話かもね。」
たしかに、3年間ユニフォームを着続けられたことは、幸運だったかもしれない。でも、同時に、
「それだけ努力してたってことでもあるよね。」ぼくと同じことを女の子は思っていてくれたようだ。
「これから試合なんだ。握手してくんない?リバウンド、たくさんとれるかもしれないから。」
そして、ぼくは女の子と握手をして、女の子は会場に向かった。ぼくはチームメイトにひやかされた。
それから、ぼくは女の子の試合を見ていた。女の子はうまくて、点もたくさんとっていた。そしてリバウンドもとっていた。
ぼくはバスケ部を引退したあとも、女の子のチームの試合を観戦しに行っていた。そのことに女の子は気づいていたらしく、試合のたびに手をふっていた。試合の後、話をする時間が少しとれた。女の子の学校は、ぼくの学校のそばだったらしく、会う約束をした。それからは女の子の練習が休みの日には会うようになった。
女の子のチームは勝ち続け、準決勝まですすんだ。そして負けてしまった。女の子は、もっとリバウンドがとれていれば勝てたのに、と泣いていた。
次の日、女の子もチームから引退したらしく、女の子の最後の夏も終わった。
バスケを引退してから、ぼくと彼女は、しょっちゅう会うようになった。
ぼくと彼女の高校バスケは終わったけれど、高校3年の夏は始まったばかりだった。彼女とたくさん遊ぼうと話をした。受験勉強は、遊んでから考えようとか言っていた。
そのことをじいさんに話すと、一度彼女に会わせろと言いだした。さらに、そのことを彼女に話すと、喜んで会うと言い出した。
今年の夏は、バスケをしていたときよりも、なかなかにぎやかな夏になりそうだった。
そしてそれを喜んでいるぼくがいた。
Fin