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8話 酒盛りな茶会

 きっちり上司に共同研究を認めさせた俺は意気揚々とオクトの家へやってきた。

 もちろん共同研究はするが、その事でオクトへ王家がちょっかいを出してこないようにするために、俺の同僚には動いてもらっている。俺へオクトのことを黙っていたのだから、これぐらいしてもらって当然だ。

 リストが、半泣きになっていたが、アイツの能力はアイツが自分で思っている以上に高い。まあ、なんとかするだろう。それに俺の予想が正しければ、たぶん現在の王家はあまりオクトに強要できない何かがある。

 ぎりぎり第二王子で繋がっているのが今のオクトに対して王家ができる事なのだ。そうでなければ、オクトがこんな自由に魔物森の麓で薬屋を営んだりはできないはずだ。王家はきっと外交のカードの一つとして、混ぜモノであるオクトを飼いたいだろうから。


「オクト?」

 相変わらず閉店と書かれたカードが掛かった扉を開けるが誰も出てはこない。

 声は聞こえるので、居るのだろうが……というか、この声はオクトか? オクトにしては低い音に聞こえる。アユムの声はオクトよりも甲高いので、アユムの声ではない。

「というか何だこれ」

 歩いていく途中で、床から大木が生えているのに気が付いた。いや、最初からなんだか家の感じが違うとは思っていたのだが……どうしてこうなった。オブジェではなく本物のようだ。

 前回来た時はなかったと思うのだが、魔の森の影響なのだろうか。

 そう思いつつ声がする方へ進んでいくと、客室になっている部屋へたどり着いた。つい最近、俺も食事をした場所だ。

「そういえば、最近アスタリスク魔術師がここに来たって聞いたけど?」

「えっ?記憶が戻ったのか?!」

 扉を開けようとしたところで、そんな言葉が聞こえてきて手を止める。確かこの声は、カミュエル王子だ。だとすると、合いの手を入れているのはライか。こいつらは相変わらず仲がいいらしい。


「カミュの方には話がいっているかもしれないけど、共同研究を申し込まれてるだけ」

 オクトはやはり俺の記憶が戻っている事にまったく気が付いていないらしい。相変わらず鈍いというか、純粋というか……。正直不安だ。

「倒れた所にたまたま居合わせたんだっけ?」

「そう。それからなし崩しでそんな話に……。カミュもアスタの上司に許可しないように伝えてくれると――」

「残念。もう許可はおりたから」

 第二王子の力を使って潰しに来られると面倒だ。

 俺は承諾される前に、部屋の扉を開け中に入った。

「アスタリスク魔術師?!」

「あー、アスタだー!」

 ライが椅子から転げ落ちそうな大げさな動きで驚き、アユムが嬉しそうに笑った。ちなみに腹黒王子はさっぱり読めない表情で、オクトの顔はいつも通り引きつっている。

 ……オクトもアユムみたいに笑顔で迎えてくれればいいけれど、オクトはシャイなので、それは高望みというものだろう。

「お前ら俺抜きで、凄く楽しそうな話をしているみたいだな」

 勝手に俺とオクトの共同研究をつぶそうだなんて100年早い。

 顔を青ざめさせ目線を逸らしているオクトの顎を持ちぐいっと俺の方へ向けた。ようやくオクトの青い瞳に俺が映りこむのを見て、俺は満足して笑う。

「もう一度いうけど、許可は貰ったから」

「わ、分かりました」

 よし納得したな。

 

 これでオクトと研究ができる。

 オクトは馬鹿正直だから、たぶん一度頷いてしまったら、そのまま諦めて実行するだろう。

「あの、手を放してもらえませんか?」

「何で?」

 折角こんな近くでオクトの顔が眺められるのに、どうして手を離さないといけないのだろう。いけない理由が分からない。

 そう言えばオクトとこんな近くで話せるのは久々だと思う。昔は一緒のベッドで寝たりもしたのに。

「この方がよく顔が見えるし。それで、どうして俺との共同研究をそんなに断りたいのかな?オクトにとっても、とてもいい条件だと思うけど」

 そう言えばオクトから共同研究が嫌な理由を聞いていなかった。まさか俺が嫌という理由ではないと思うが――果たしてなんと答えるだろう。

「えっと、実は……その……裏切れないヒトがいまして」

「裏切れないヒト?」

 誰だそれ。

 アユム情報だと、オクトと仲がいいのは、カミュエル王子とクロという海賊の少年のはずだ。この2人のどちらかが、俺との研究を妨害しているというのだろうか。

「い、一応未婚の女なので、あまり男性と一緒というのは……」

「責任とればいいの?」

 オクトにも一応そう言う感覚はあったのか。

 今日も普通にライとカミュエル王子を部屋に上げていて、女としての自覚はゼロだと思っていた。しかし、オクトも少しは考えていたらしい。その割に全然なっていないが。

 しかしそう考えているなら、確かに俺が出入りする事に戸惑いを感じるだろう。一応俺とオクトは現在赤の他人なのだから。

 さて、責任をとろうかと思たが、どう責任をとるべきか――。

「い、いえ。結構です。勘弁して下さい」


 オクトは青ざめながら、俺の責任に対して断りを入れてきた。

 別にオクトの為だったらなんだってするのに。

「じ、実は、私。ライとつきあっていて……その……ということなので」

「「「はあぁぁぁ?!」」」

 あまりに想定外の言葉に俺が叫べば、他の声も混ざる。

 ん? 何でライまで驚いているんだよ。

 というか、付き合うって何だ。何をしたんだ。というか何をするんだ。一度落ち着こう。オクトが大きな声に驚いて、目に涙をためている。

「……その点詳しく聞かせて欲しいな。俺もお茶会に参加していいか?」

「は、はい」

 俺は、空いている椅子に座り、ふかく息を吐いた。落ち着かなければ。

 

「あ、あの。どうぞ」

 オクトはプルプルと震えながら、お茶を俺に出す。こういう所は、本当に律儀だ。たぶん嫌いな相手でも、親の仇でもオクトならお茶を出したりするのだろう。

 席にはお酒も置いてあるようだが、オクトが折角お茶を出してくれたので、それに口をつける。

「いつから2人は付き合い始めたわけ?ライは1年ぐらい遠くに飛ばされていたはずだよね」

 というか、俺はライとはずっと会っていないのだが。

「……遠距離恋愛を少々――」

 嘘だな。

 目線を合わせずに、手短に会話を終えようとしている。というか、遠距離恋愛って何だ。何をするんだ。というか、何もしないだろ。

 例え【付き合って下さい】、【はい。分かりましたな】会話があったとしても、その後に続く気がしない。特に離れ離れになったら、【じゃあな】で終わってしまいそうな馬鹿と、【またね】であっさり手放しそうなオクトだ。

 無理以外の答えがある気がしない。

「し、師匠。ちょっとタイム!」


 ライが手を上げるとオクトの腕を掴んで部屋の外へ出ていった。

 お前、タイムってなぁ。

「アスタリスク魔術師」

 俺が立ち上がりライたちを追いかけようとすると、カミュエル王子が声をかけてきた。

「何だ」

「どうして、オクトさんと共同研究なさろうと思ったんです?」

「何故って、オクトが素晴らしい魔術師だからに決まっているじゃないか」

 カミュエル王子は間違いなく、俺の記憶が戻っているのではないかと疑っている。いや、疑っているのではなく、コイツの場合は確信に近いかもしれない。そうと知りながらも近しい者にすら悟らせないタイプだ。

 だからコイツがあえて触れてこない限り俺も伝えない。

 何となくだが、カミュエル王子は、何か考えがあって俺とのオクトの関係をゼロに戻した気がする。オクトに頼まれたからだけではなく――別の意図を持って。

「確かに、オクトさんは素晴らしい魔術師ですからね」

「それで、あの2人は本当に付き合っているのか?」

「さあ、どうでしょう。僕は部下の恋愛事情にまで口出しはしない主義ですから」

 カミュエル王子はそう言って恍けた。誰よりも多くここに出入りしているカミュエル王子が知らないなら、まず付き合っていないだろうが。

「そうか」

 

 俺はそう言って廊下の方へ向かう。

「アスタリスク魔術師」

 カミュエル王子がもう一度俺を呼び止める。

「僕は嘘つきです」

「知っているよ」

 あっ。

 これはカミュエル王子は俺が記憶を取り戻したかどうかを確信を得るための質問か。

 答えた後に気が付く。俺はカミュエル王子の家庭教師だった頃の記憶を持っていないという事になっている。だから、ほぼカミュエル王子について、俺は知らない事になっているのだ。

 まあ、コイツなら必要ならそれをオクトに伝え、そうでないならその情報を止めるだろう。


「そんな場所でイチャイチャせずに中に入ったらどうだ?」

 廊下に出て声をかけた瞬間、オクトとライがお互いを抱きしめあった。

 それを見た瞬間、イラッとする。只の演技だと分かっていても。ムカムカする。今すぐ引きはがして俺の手の中でオクトを抱きしめたい。

 獲られたくない。

「じゃあ、ライとオクトはここに座って」

 俺の横を通って、オクトとライが部屋の中へ入り椅子に座った。

 俺は自分の心の中に生まれた魔族としての欲望を閉じ込めながら、席へ戻る。あれをオクトへぶつけても、きっとオクトは俺の元には帰ってこない。だから落ち着けと。

 オクトを攻略するには――。


「それで、ライは、俺とオクトが共同研究をするのは反対なのかな?」

「えっ」

 ――まずは近づくことから。

 離れてしまった手を掴みなおすところから俺は始めなければいけない。その為の共同研究だ。

「あ、あの!」

「オクト、どうかした?」

「いや、その。わ、私が嫌なので」

 そう言って、オクトは目の前にあったグラスを飲み乾した。

 そしてそのまま椅子ごとひっくり返える。

「オクトッ?!」

 その姿を見た瞬間血の気が一気に引く。世界が終わったかのような恐怖が足元から這い上がってきて、俺は駆け寄った。

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